あなたの世界に還りたい


「…み…みんな………!」
「……魔法騎士団……!!」


身体に感じる、少し冷たいマナ。きっと、あの方が来たのだろう。

たくさんの混ざり合った魔力が辺りを包んだ。きっと敵の言う通り魔法騎士団の人たちなんだ。
よかった、来てくれたんだ、これでもう、大丈夫かもしれない、。


最後の力を振り絞ってフエゴレオン様に手を当てた。銀髪の少女は向こうに意識がいってしまって、今は私一人分の魔力しかないけれど、きっともう、大丈夫だろう。

じんわりと手に熱がたまることに反比例するように、体の熱はどんどんと逃げていった。
でも頭は溶けるように熱い。

息が苦しい。もう何もしたくない。


周りでは何やら高度な魔法が使われているようだが、もう外界の音は何一つとして入ってこなかった。


マナの流れだけが、視界に映った。


「…の………っかり、…くださ、…」


誰だろう、何か遠くで声が聞こえる。
五感の全てが奪われたような、そんな感じだ。自分の息と、マナの流れしかわからない。


どんどんと視界が暗くなっていく。
なんでだろう、手の震えが強くなっているような、そんな感じがする。
身体中の魔力はもう底をついているはずなのに、なぜか魔法だけがずっと継続されている。
なんでだろう、息をしなくても、大丈夫なような、


「**!!!」


ぐ、と片腕を掴まれ、体を無理やり回転させられた。

途端にマナの流れがわからなくなって、ただただ荒い息だけが残った。


「しっかりしろ、**」
「っハァ…ハァ…、…」
「私がわかるか?」


首に手を添えられ、無理やり上を向かされた。
真っ黒だった視界が徐々に光を取り戻していき、ぼんやりと焦点の合わない視点の先には白銀が映った。


「、のぜる、さま…?」


声を出すために口を開いたが、口呼吸をしすぎて喉がパサパサだ。そんな口から出た声は呆れるほど掠れていたと思う。


ふわ…と少し冷たい魔力が体の中に浸透していく。それとともに徐々に五感が正常に機能していくようになり、ピントの合わなかった顔がはっきりと映るようになった。


「貴様、なぜこんなところにいるんだ」


なぜ避難していない。

そう続けるノゼル様に、なんでだっけ、といまいちよく働かない頭が答えた。

そう言えば、確か、なにか、頼まれていた気がする、…


「っ、ミーナちゃん、!」
「ッおい、無理に立とうとするな」
「女の子、小さい子、あそこにいるの、お母さんが、まってて、つれてもどるって、それで、」
「落ち着け…!それより貴様は自分の心配を、」
「もどらなきゃ、約束して、おかあさんが、ずっと待ってて、はやくしないと、」


ガクガクと足が震える。ノゼル様に掴まったけど、上手く立てずにまた地面に腰をつけた。

文章にならない単語を並べるので必死だった。
はやく、はやく、と焦る気持ちがさらに頭を混乱させていった。

目の前がぐるぐる回って見えるようになって、しっかりしなきゃと思うのに、体がついていかなくて、もっと焦った。


「こちらで責任を持って母親の元に連れて行く、だから貴様はもう心配するな」


途端、視界が白で覆われて、鼻先が硬いものにぶつかった。慣れきった感覚に一瞬息が止まって、ゆっくり吐き出された。トク、と僅かに聞こえたのは、きっと心臓の音。そこでようやく、ノゼル様の声がスゥ…と入ってきた。

いつもより少し強く抱きかかえられる頭。背中に回った腕が私よりもずっと暖かい。それだけですごく落ち着いて、ほ…とようやく息を吐けた気がした。
息を吐いたと同時に、ものすごい眠気に襲われた。抗う力もないほど体力が削がれているから、そのまま流れるように身を任せていった。


「あの子、ミーナちゃんで、…お母さんが、、妊婦さんで……」
「あぁ…わかった」


スル…と頭を撫でられた気がした。その後に、あの時のように膝裏に手が回ってからやってくるのは浮遊感。

この方が下民にこんなやさしくするのかな?と少し不思議に思ったが、あまりの心地よさにうっとりと目を閉じた。このやさしさに、泣きそうになったのは私だけの秘密だ。


「ゆっくり休め……**」



あなたの世界に還りたい
(ノゼル兄様が、笑ってる……?)





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