指切りさよなら


野薔薇団だ
そーだそーだ!
いいえ、カーセウス家です
ヴァーミリオン家に招待させていただく
いや、シルヴァ家に決まっている


わいわいがやがや。
起こっているのは私がどのパーティーに参加させていただくかの討論。
全て時間を区切って、と提案したが、ものの数秒で却下されてしまった。
うぅ…悲しい…。


「お前たちのようなそんなむさ苦しいところに**様を行かせられるか」
「なんだと…!むさ苦しいとはなんだ…!レオはともかく、うちにはミモザがいるのだぞ」
「シルヴァ家がむさ苦しいわけないだろう。ヴァーミリオン一族とは違ってな」
「…ヴァーミリオン家を侮辱する気か?」
「**様には暑苦しいのではないかと心配しているのだ」


カタカタカタ…ピシッ…
フエゴレオン様とノゼル様のマナがぶつかる。窓は揺れ、壁にはヒビが入り、相当二人は本気なのだと知らされる。

どうやら、この言い争いは終わることを知らないのだろう。
特にフエゴレオン様とノゼル様がもう一触即発のような状態だ。私一人のせいでこの二人の強大なマナがぶつかり合ってしまうだなんて。


「あの、ここはもうじゃんけんで…
「たッ、…大変です!!!」


バンッ!!!

大きな声とともに突如として開かれたドア。一斉に声のした方へと視線を向ければ、そこにはフードを被った護衛の一人が。
声色や雰囲気、オーラからして相当焦っているようだった。


「どうかされたのですか?」
「ッ、**様…ッ!!王都が……王都が襲撃されています!!!」


刹那、王都にいる人々の恐怖が、体の中に流れ込んできた。

怖い
助けて
何が起こっているの
痛い
死にたくない

負の感情を含んだマナが一気に体に流れ込み、体がブルリと震えた。


「王都が襲撃されている…だと…っ!?」


私がほんの一瞬固まっていた間に、シレン様がパラリとグリモワールをめくり、『岩石創成魔法“世界を語る模型岩”』を発動させた。
慌てて前に行ってそれを覗き込めば、およそ五ヶ所から大きな煙が立ち上っていた。

実際の声が耳に響く。

叫び声
助けを求める声
敵を憎む声

声が、私への人々の感情の流入をさらに加速させた。
恐怖の感情が体を支配し、無意識に体が震えた。助けを求めている人たちが、たくさんいる。


「……これ程の魔力量の群衆が、」
「相当な空間魔法の使い手によって、」
「今のメンバーをどう充てるべきか、」
「いや、まずは城周辺の守りを…」


騎士団の方達がそれぞれに分析をしている。私は、無力だから、何もできないけれど。

助けてあげたい。
一人でも多く、恐怖から解放させてあげたい。
早く、なにかしてあげたいのに、何もできない。

この時間がもどかしい。早く、人々に向かって、助けてあげて、


「いやコレ何待ち!?」


そう願いながら拳を握った途端、アスタ君がしびれを切らしたように叫んだ。

声に驚く私たち。
え、と驚く暇もなく、アスタ君は出口に向かって走り出した。


「助けを求めてるヤツらがいるのは充分わかった!!オレはもう行く!!!」


彼の行動は、私が一番したくても、決してできないことだった。
彼の行動が、羨ましくて、それでいて、頼もしかった。


「音のデカイ方に行く!!」


そう言って去って行く彼の背中を見つめた。

なぜか、アスタ君なら、きっと助けてくれると、そう感じた。彼なら、大丈夫だと。


(ーーっ、どうか、気をつけて…っ!)


祈るしかできない。
願うしかできない。
信じるしか、できない。


彼の行動に触発されたレオポルド様が続けて走っていった。
そして次々と、指示が通って行き、それぞれが魔法を発動させ、移動の準備が整った。


「**様、すぐに王宮へとお戻りください」
「は、はい…」


背中を支えられ、彼らより先に出口へと誘導される。

あぁ、どうしたって、私は無力なんだ。
ただこうやって、安全なところへと導かれるのが、私の役目と言うのだろうか。


「〜〜っ、みなさん、ちゃんと帰ってきてくださいね…っ!!」


ただ、言葉を伝えるしか、私にはできない。悔しい。無力で何もできない自分が、悔しい。


「もちろんです、**様」


フエゴレオン様が、私を見てふわりと笑った。フエゴレオン様だけではない。ノゼル様も、シャーロット様も、ここにいる全ての人たちが私に微笑んでくれた。

大丈夫、彼らは強い。それはちゃんとわかっているから。


「王都を守れないとなれば魔法騎士団の恥だ!!!絶対に敵を逃がすな!!!」


力強い言葉とともに、一斉にいなくなった魔法騎士団員。
シン…と静まり返る部屋を背中に、私は安全な場所へと誘導された。


どうか、どうかご無事で。


依然王都中の恐怖が流れ込んでくる中、自身の中のどうしようもない恐怖心も体の中に流れ込んできた。

私はいつだって、無力だった。



指切りさよなら
信じることしかできない私の魔法。



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