運命に爪を立てる


「ってぇ!!!」
「あんた**様に向かってなんて口聞いてんの!?」
「だからってなんで叩くんだよ!」
「だ、大丈夫ですか、?」
「おう!大丈夫だ!」
「私の名前は**です。**と呼んでください」
「俺はアスタ!」
「アスタ君って言うのですね、よろしくお願いします!」
「よろしくな、**!」
「〜〜っ、はい!」
「様をつけなさい!!!」
「ッアイタァっ!!!」


バシッ!!
ノエルさんが物凄い力でアスタ君の頭を叩いた。さっきのよりも痛そうに頭を抑えるアスタ君。しゃがみこむ彼を見て、それに合わせてしゃがみこんだ。


「だ、大丈夫ですか…?」
「申し訳ありません**様っ、こいつ本当もうバカで、バカなんです…っ!!」
「ノエルさん、お久しぶりです。魔法騎士団に入団したのですね、おめでとうございます!」
「あっ、ありがとうございます、!」
「なぁノエル、この人誰なんだよ」
「あんたちょっと黙って!!」


仲睦まじい二人が面白くてクスクスと笑った。
そうしたら背後から人を侮るような雰囲気を纏いながら近づいて来たのは、きっと目の前のノエルさんの兄方だろう。


「**様、このような下民と仲良くなる意味なんてないですよ」
「…ソリド様、ご機嫌よう。意味の有無は私が決めますね」


彼は、少し苦手。目に見えて人を差別する方はどうにも苦手だ。特に彼とその姉はそれが顕著だった。


「**様はこちらで食べましょう?」
「素敵なお誘いありがとうございます、ネブラ様。しかし申し訳ありません、私はアスタ君と仲良くなりたいので、」


また今度、パーティーの時にご一緒しましょう?

苦手だけど、彼女達が本当は国のために力を尽くしてくださる、素敵な人だと言うことは重々知っている。少し、性格が苦手なだけで。


「お二人のご活躍のお話が聞きたいです!」


この場に呼ばれたと言うことは、すごい功績を残されたのだろう。それに二人の話はとても面白い。

そう言うと、少し照れたように笑うソリド様とネブラ様。
ここの人たちは本当に素敵な人ばかりだ。少し頭の固い方もいるが、それでも優しく逞しい方も多い。

クルリとノエルさん達に向き合った。そうしたらなぜか、アスタ君が土下座をするように私に頭を下げていた。

………あれ?


「申し訳ありませんッシタァぁぁぁぁっ!!!!!!」
「声が大きい!!バカスタ!!!」
「え?え?」


大きな声でなぜか突然謝罪をされ、私の脳内は混乱だ。ノエルさんとアスタ君を交互に見つめたが、謎は一切解決しない。


「あなたが王女様とは知らずにタメ語で喋ってしまって申し訳ありませんでしたぁぁぁっっ!!!!」
「そ、そんなの気にしませんよ?」
「しかも呼び捨てで…っ、」
「それは私が頼んだので…」
「いえ!王女様!」


私は、この国の王女だ。だから、お父様以外は皆さん敬語で、様をつけて話される。たとえどれほど年齢が上で、王族だとしても、だ。

それは、いつも悲しかった。


「…王女様はよしてください、…せめて、名前で呼んでくれませんか…?」


だから、せめて、名前で呼んでほしかった。本当は、同年代に近い彼らとはもっと友達のように親しくなりたかったが、この地位が、邪魔をする。


「……**様?」
「?どうしましたか?アスタ君」
「…いえ、何も……」


いけないいけない。思っていることが顔に出やすいと言われるのだ。こんなことではへこたれてはいけない。
ニッコリと微笑んで、アスタ君に向き合った。少し怪訝な顔をしていたけれど。


「さて!パーティーの続きをしましょう。料理長が作ってくださったお料理です。早く食べないとせっかくのお料理がもっと冷めてしまいます!」


パン、と一つ手を叩き、周りを見渡した。それと同時に、じわりじわりと空気が緩んで行った。
ぐちゃぐちゃだったテーブルも、いつの間にかメイドさん達が片してくれていたようだ。
ありがとうございます、とこっそり口パクでお礼を言えば、慌てたように深々と頭を下げてしまった。



運命に爪を立てる
捨ててしまえれば楽なのに。



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