無邪気なハニー・バニー


「困ります**様っ、!!」
「このお料理はこちらですか?」
「王女様がその様な雑務をされてはいけません…っ!」
「王宮にいてもする事なくて…、お手伝いさせてくださらない?」


**・キーラ・クローバー。クローバー王国13代目国王のアウグストゥス・キーラ・クローバーの一人娘にして、次期国王としてその身を置く。

幼少期から加護され、日常的な差別を目の当たりにしていたにも関わらず、その差別が嫌いで身分の低い者にも心優しい王女、**に対し、国民は敬愛し、信頼し、是非とも国王になってほしいと願っている。

それは、国を守る魔法騎士団の彼らも同じ事。


「この一皿だけ、ね?」
「〜〜っ、**様、!」


しかしあまりに働きたがりなため、まだ彼女をよく知らない新人メイドたちは日頃から冷や汗をかいている。
王宮ではなく、騎士団本部で、煌びやかなドレスに身を包む王女が大皿を抱えてメイドの隣を歩くなど、この国でしか見れない光景だ。


「今日はなんたって戦功叙勲式ですものね。騎士団長様たちがお見えになられるのですよ?是非ご挨拶がしたいですね」
「なぜ大皿を持って向かわれるのです…っ!」
「王女だって、お手伝いの一つや二つはしないと」
「いけません…!」


ふわりと笑う姿はまさに天使の様だが、メイドたちにとってはたまったものではない。後でメイド長にこっぴどく叱られることを覚悟しつつ、半ば諦めながら料理を運んだ。

本当は、**をよく知るメイド長はこの様な事態が起こることを知っているから、怒られるということはないのだけれども。(むしろこれがメイドの洗礼の儀というもの)


「あ、ユリウス様!」
「おっ、お待ちください**様〜〜っ!」


儀が行われていた部屋から出てきたのは、国外にも名を轟かす現魔法帝のユリウス・ノヴァクロノだった。
パタパタと器用に料理を持ちながら走る**に気づいたユリウスが、その姿を見て目尻を細めた。


「おぉ、これはこれは、**様」
「ご機嫌よう、ユリウス様。もう式は終えられたのですか?」
「えぇ、つい先ほど。**様はまたメイドたちを困らせているのですかな?」
「ふふ、バレちゃいました?」


おひとついかがですか?

一口大のケーキがたんまりと入ったお皿を控えめに上げると、いただこうかな、と言ってそれに手を伸ばすユリウス。
きっとおいしいですよ、と笑う**に、ユリウスもメイドも、本当にあの国王の娘なのかと疑問が生じたのはこれで何千回目だろうか。


「うんうん、やはりおいしいですね」
「やはりそうですか?おいしい匂いですから、きっと中身も素晴らしいと思ってました!」


早く食べたいです!
清らかで少し無邪気な心が周囲にいる人々の染み込んでくる。**の綺麗で素直な感情を感じて、自身の心も浄化される様。

それは彼女の【愛】属性という魔法ゆえなのか、それとも人柄ゆえなのか。


「それでは私は用事がありますのでこれにて、」
「はい。お急ぎのところ止めてしまい申し訳ありませんでした。お気をつけて、ユリウス様」


軽く膝を曲げて首をかしげる仕草はなんとも可愛らしい。齢17の少女が大人の女性になるために精一杯背伸びをしている時期なのだ。もはやおじさんと言われてもおかしくない42歳のユリウスが彼女を可愛くないと思うわけがない。


「**様も、パーティーをぜひ楽しんでくださいね」
「はい!楽しんできます!」


両手が塞がっている**やメイドの代わりにドアを開けるユリウスに一礼し、少し騒がしい中へと入っていった**。

女の子の成長というのは早いとはよく言ったものだ。ついこの間までは毎晩怖い夢を見ると大泣きしていたのに、今は次期国王とまで言われる女性になるとは。
そんなおじさんちっくなことを考えながらユリウスは騎士団本部を後にした。




無邪気なハニー・バニー
開かれたドアの向こう、彼女は未来を見た



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