ミス・モノクローム


マルクス様が発動させた魔法でポイゾット様の記憶を覗き込んでいた。そこに映し出される映像に、一度視線を逸らした。団長格がおもいおもいの言葉を告げるのを聞き流しては、ショックなのか怒っているのかわからない感情が身を包む。

拳を握りしめ、くるりと振り返った。地面に描かれた泉の中に沈むポイゾット様に一歩一歩ゆっくり近づく。


「…ポイゾット様…、」


ふと蘇ったのは、昔遊んでもらった記憶だった。あれが偽りだなんて到底思えなくて、でも本当はそうだったのかもしれない、と思うと胸がぎゅっと締め付けられるようだった。

目の前で膝をつこうとドレスの裾を掴んだ。その瞬間、地下を包んだ声が私の思考を停止させる。


「ポイゾット様…どうして、」
「くッ来るな化け物!!!」
「ッ、!?」


叫ばれた声にピタ、と体が固まった。
目を見開くと一瞬焦点が合わなくなって、強いめまいに襲われては何も声が出なくて息がつまる。


「貴様…**様になんて口を…!!」
「また私を洗脳する気か!?この悪魔め!!」
「せ、洗脳…?なぜ私がそのようなことを…」


ポイゾット様の発言の意味がわからなくて、本当に私に向けて言っている言葉なのかと疑ってしまうほど。恐る恐る彼の元へ近づき、その目の前に膝をついた。そしたらまた、怯えたような叫び声。


「来るな…!!もうお前の思い通りにはならない…!!」
「さ、っきから、何を言っているのですか、」
「自分の魔法を知らないと言っていたな、教えてあげましょう…っ、貴方の魔法は洗脳だ!!人の忠誠心を支配する悪魔の魔法だ!!」
「…っ、そんな力、私には…ッ」
「何が愛の魔法だ、貴方の魔法はその気になれば敵国ですら味方につけれるまさに王に相応しい魔法だからな!!」


頭の中をぐちゃぐちゃにする言葉がこだまする。ただただ、告げられる言葉を理解できなくて困惑した。

洗脳?忠誠心を支配する?
そんなはずない。私に、そんな魔法を使えるわけ、


「何が**様への忠誠だ、魔法にかけられているともわからない馬鹿な団長め!!お前たちの忠誠心は魔法による偽物だ!!」
「…ポイゾット、その辺に、」
「**様、聞かなくて大丈夫です、あちらに行きましょう」


ユリウス様の声を遮って、そっと背後からわたしの耳を優しく包んだのはウィリアム様か。優しい声とともに、音の入りが悪くなった。
でもポイゾット様の声は、そんな程度では遮られなかった。


「いいか!?だれもお前に忠誠を誓っている奴なんていないんだ!!!姫気取りの馬鹿な女め!!!」


最後にそう付け加えられれば、わたしの目からは水が流れ出した。それを隠すかのように体がふわりと浮き、後頭部を支えられては目が硬い体にぶつかる。


「**様、少しお疲れのようなのでお部屋に戻りましょうか」


そう言って赤いマントをかけられ、体全体を隠すように包まれた。優しく頭を抑える手が、落ち着かせようとする声が、今は惨めに思えて仕方がなかった。

何も考えられないままウィリアム様の服をつかんでは目を押し付けた。願わくば、このまま眠ってしまいたい。


ミス・モノクローム



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