えいえん、えんえん


王女**の朝は早い。


「**さま!おはようございます!」
「おはよう、リムくん、レムくん。はい、これどうぞ」
「わぁ!クッキーだ!」
「ありがとう**さま!」
「**さま、わたしも食べたいです!」
「みんなの分あるから並んでね」
「はーい!」


特に今日、2月14日は。


「朝から大変でしたね、**様」
「なんのこれしきです!子どもたちも喜んでくれたようでとても嬉しかったです」


3日前から**専用のキッチンを使い、黙々とクッキーを焼き続けてはラッピングを施し、今日のために準備をしていた。


「まだ渡していませんでしたね、はい、どうぞ。いつもありがとうございます」
「…今日初めてもらいました…っ!」


ありがとうございます…っ!
と泣き真似をしながらお菓子を掲げる護衛に、**はクスクスと笑みをこぼした。

子どもたちに配る分がなくなったとはいえ、まだまだ配らなければならない人がたくさんいる。
今日1日は大量のお菓子を護衛と2人で持ちながらせっせと次の目的地へと急いだ。



:
:



そわそわ。

そわそわそわそわ。


「そわそわしないでください、魔法帝」
「そういうマルクス君だってそわそわしているじゃないですか」
「していません」


バレンタインデーは楽しみにしていてくださいね。

一週間前に言われた言葉に、素直に楽しみにしているユリウスとマルクス。これが魔法帝とその側近なのだから、この国はきっと平和なんだろう。


「…来たね」
「気配で読むってどうなんですか」


呆れたようにため息をついたマルクス。しかしその数秒後、コンコン、と小気味良いノックオンが部屋に響いた。


「失礼します、ユリウス様。**です」
「**様…!どうぞ中へお入りください」
「はい、失礼いたします」


カチャ、と控えめに開けられたドア。寒い空気とともに入ってきたのは、カゴいっぱいに盛られた何かを抱えた**と、それ以上に荷物だらけの護衛。


「ごきげんよう、ユリウス様、マルクス様!」
「おはようございます**様」
「おはようございます。今日はどう行ったご予定で…?」


わかっているが、一応念のため。
ニヤニヤが隠せていないユリウスとそれを必死に我慢しているマルクスを見て、護衛は苦笑いをした。

そんなことはつゆ知らず、**はふふ、と目を細めて、可愛らしく二人に近づいた。


「ハッピーバレンタイン、です。いつもありがとうございます、ユリウス様、マルクス様」
「私たちにくれるのですか?」
「っありがとうございます、**様」


『ユリウス様へ』と表面に書かれた、中が見えないピンクのラッピング。それだけで私だけの特別なもの、と言う優越感を擽られた。
一方のマルクスも同様で、貰ったそれを見ては軽く頬を緩ませた。


(マルクスさんのあんな表情初めて見た…)


護衛はぞわ、と悪寒が走る。厳しくて有名なマルクスだからこそか。


「ありがとうございます、**様。大切にいただきます」
「ありがとうございます」
「いえ、普段のほんのお礼ですから」


では次に行くところがあるので、これで失礼します。
軽く膝を曲げて首を傾げる**様。

朝から、多くのバレンタインのお菓子をこれでもかと貰ったユリウスでさえ、**からのそれは何よりも特別に思えた。
お返しは何にしようか、と来月のことを考えては、いつも以上に頬を緩ませる。

そして朝から本命らしきお菓子をいくつか貰ったマルクスも、義理だとわかっている**のお菓子は本命よりも何倍も嬉しいもので。


「いつもありがとうございます、国を支える魔法帝と、その魔法帝をサポートする側近であるお二人のおかげで、今この国は安定しているんだと思います」


**としても、王女としても、お礼を言わせていただきます。

凛とした表情。穏やかに微笑む姿。まっすぐで、芯のある立ち姿。


(女王様、)


**の姿が、ある女性と重なった。
現国王の母に当たる、今は亡きかつてのこの国の女王の姿と。

この国のものなら誰もが憧れた、一人の強く美しい女王。今生きていたら、きっとこの国はもっと変わっていたのかもしれないのに。


「ユリウス様…?」
「っ、あぁ、すみません、少し考え事を…」


いつか、彼女が王になった時、この国がどのように変わって行くのか。それを考えるとつい笑みがこぼれてしまう。

きっと彼女は、「これからもっと良くなります」と、ある意味貪欲にそう言うのだろうけど。


えいえん、えんえん
「…**様、かわいいねぇ」
「…そうですね」

「勿体無くて食べれないね」
「なら私にください」



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