「ユノくん!」
金色の夜明けのローブをまとった、黒髪の男の子。直感でユノくんだとわかった。
パタパタと駆け寄ってその隣に並べば、無表情でじっと顔を見つめられた。
「…**、様?」
「様なんてよしてください、ユノくん。任務終わりですか?」
「まぁ、はい」
少し汚れた服。お疲れのようで、その表情は変わらないが、寝たい、なんて思いが流れ込んで来た。
本当に表情に出ない子なんだな、と彼の顔を見つめた。それにしても整った顔立ちだなぁ。
「ねぇ!あなた誰?」
「え?」
瞬きをした瞬間、目の前に現れたのは、小さな少女。
小さな、と言っても年齢じゃない。物理的に、小さな体の妖精のような可愛らしい女の子が私の眼前に浮いていたのだ。
「……っえ!?」
「ねぇ、ユノ、この人は?」
「ベル、国の王女だ。こっちに戻れ」
「王女!」
クルクルと私の周りを飛ぶ、ベル、と言う女の子。とても可愛らしいけれど、この子がどのような存在なのか、いまいちよくわからない。
「えっと、ユノくん、この子は…?」
「風の精霊、シルフです」
「!、シルフ!」
「あなた、いい匂いね、気に入ったわ!」
聞いたことがある。
4大属性には、それぞれ精霊が宿る。風の精霊が、この可愛らしい妖精だと言うのか。
それにしても…
「えっと、…クッキー、食べますか?」
「いいの??やったー!」
かわいすぎやしないだろうか。
「**様、顔が凄いことになっています」
「ハッ…!、ゴホン。ユノくんもおひとついかがですか?」
わざとらしい咳払いの後に、ベルちゃんが漁っているカゴの中身を軽く持ち上げた。
「いえ、俺は…」
「おいし〜っっ!!」
なにこれ!なにこれ!
とクッキーを両手に抱えこんでヒラヒラと踊るように舞う姿に思わず口元が緩くなる。かわいい。
すると幸せがふわふわと流れ込んで来た。まさか精霊の感情も私の魔法の範囲内だなんて。
「ねぇ!これ王女が作ったの??」
「ふふ、そうですよ。」
「王女すごいわね!」
「ありがとうございます。あ、あと王女はよしてください、気軽に**と呼んでください」
「わかったわ!**!」
かわいすぎである。
「**様、顔」
「…ユノくん、羨ましいです、こんな可愛らしい妖精さんをそばにつけることができるなんて…」
「もう一個!」とせがむベルちゃんに、「もちろん。」と返した。
さっきとは違う、チョコを選んでいるのもかわいい。いや、この子ならきっとなにをしてもかわいいんだろうな。
「ベル、少しは落ち着け」
「いいんですよ、ユノくん。はい、ユノくんもおひとつどうぞ」
片手でプレーンを一つ摘んだ。その手をずい、とユノくんの眼前に寄せれば、困った顔で少し体を後ろに引いたユノくん。
「いりません」と怪訝そうな顔をしたがその瞬間、ぐぅ…と小さな低い音が下の方から響いた。下の方、と言ってもユノくんのお腹からである。
「………」
「ユノお腹空いてるのー?」
「ふふ、お腹は満たせれないでしょうが、どうぞ遠慮なさらず」
腹の虫の訴えに、少し恥ずかしそうに頬を掻くユノくん。
こんな表情もできるのか、と新たな発見をした。
思わずニヤニヤと口元が歪む。こんな彼の一面を見れてうれしいのだ。願わくば、もっとクールな彼のいろんな表情が見てみたい。
「………じゃあ、お言葉に甘えて」
「はい、どうぞ」
スッと自身の手を下げて、彼の手にクッキーを置こうとした。
しかしそれは、ユノくんが私の手首を掴んだことによって阻止されてしまった。
「、あれ?」
「いただきます」
かぷ。
クッキーを摘んだ指先が、ユノくんの薄い唇の奥へと侵入した。
柔らかい感触。
無言で解放された指先が少し濡れている。
「っ、ゆの、くん…?、っ!」
そしてそのままユノくんは私の指先についたクッキーの粉を、その赤い舌で舐めとった。
ぬるりと指先が濡れ、少しくすぐったい感触に体が震えた。
端正な顔立ちがまっすぐ私を見つめた。
平然と咀嚼するユノくん。
その表情の真意が読めなくて、ただぼけっとその視線を見つめ返した。
私の指先が、ユノくんの唇に大胆に触れた。それから、指を、舌で………
「………えっ、!?」
いや、ちょっと待って!?!?
え!?!?
い、今ユノくんが、指を、え!?な、なななななにが起こったの!?!?
「ゆ、ゆのくっ、え、あの、いっいまっ…!?」
「うまかったです」
「ありがとうございます!!でも、えっ、ユノくん…ッ!?」
「なんですか」
「〜〜っ、なんでもないですッ!」
この、ニヤリと意地の悪い笑顔…っ!
仕返しだ!さっき私がニヤけたから仕返ししたんだ…っ!
なんだこの子、絶対負けず嫌いだ…っ!!こんなことでもきっちりと返してくるだなんて!!
「顔真っ赤」
「ううううるさいですっ!」
「ユノ、すごい負けず嫌いだから**も気をつけてるのよ?」
「身を以て知りましたっ、さっき…っ!」
ぐぬぬ…、
と口をへの字に曲げてユノくんを見つめた。
一切変わらないドヤ顔。クールな子だと思っていたのはどうやら外れらしい。
「もう一個くれますか?」
「セルフサービスですっ、!」
これは仕返ししなければ。
闘志に燃える私をよそに、サク、と子気味良い音が響いた。
「ユノくんは意地悪です」
「あなたは思ったよりも馬鹿なんですね」
「ばっ…!?」
シュガーマジック
指先を中心に体全体が、異様に熱を持った。
今日は、あついなぁ、なんて言って自分を誤魔化した。