明日の世界は何色だろう


ふんふんふーんっ

思わず口ずさんでしまうほどには気分がいい。なんたって今から温泉女子会というものをするからだ。
一人の女子として、女子会が楽しみでないわけがない。


「さて、**ちゃんの着替えも買ったし、早速行きますか!」
「はいっ、楽しみです!」
「ふん、**様が行くなら仕方ないわね、」
「温泉卵〜おまんじゅう〜」
「今日ほど自分の魔法を喜んだ日はないっ!!」
「フィンラル〜、早く魔法〜」


箒で飛べない私とノエルさんのためにフィンラルさんがわざわざ移動役を買って出てくださった。
申し訳ないです、という私をよそにフィンラルさんはいつもよりうれしそうにグリモワールを開いていた。うん、嬉しそうなら何よりかもしれない。

『空間魔法“堕天使の抜け穴”』を発動させたフィンラルさんにお礼を言いつつ、中に入っていけば、そこに広がるのは人の気配一つないいわば知る人ぞ知る温泉というもの。
私がいることで人目を引いてしまうから、という理由で、いつもこのような人の少ない土地の温泉に行っている。
こんな秘境のような温泉を知っているバネッサさんには本当に感謝しかない。


「なにここ…、ぼろいわね」
「昔ながらの温泉という感じですね!」
「まんじゅうがひとつ〜ふたつ〜みっつ〜、」
「ここ、ほとんど人がいないし、実はここのお湯がお肌にとっても良くてね〜」


おばちゃーん!と景気よく入っていったバネッサさんに続いて中に上がらせてもらった。
建物の見た目と同じように年季の入った造りは、私にはとても新鮮でわくわくする。


「**様、こんなところでお風呂なんて大丈夫ですか?」
「え?どうしてですか?」
「いやだって、なんだか汚そう…」
「レトロな感じでとてもいいと思います!」
「………**様ってなかなかのメンタルですよね…」
「?」


確かに、王宮のお風呂とは全く違う造りだが、これはこれで楽しそう。
温泉のおかみさんの目の前の貯金箱のような箱の中にバネッサさんやチャーミーさんが硬貨を入れたのにマネをして、私もポケットに忍ばせておいた硬貨をちゃりん、と入れた。


「ノエルさん、行きましょう?」
「…はい、」


同じように硬貨を手に持っていたノエルさんの腕をとって軽く自分側にひいた。
一方のノエルさんは渋々、といった感じで硬貨を投入し、私に引っ張られてくれた。



:
:



「ふぁ〜…気持ちいです…」
「あー、生き返るわ〜」
「な、なかなかね…」
「温泉内に食べ物の持ち込み禁止ってどういうこと…」


じんわりと体に沁みる温かさ。ふわりと漂うヒノキの香りもとてもいい。
もうずっとこのまま浸かってられるほど快適だ。


「そう言えば**ちゃんさー、」
「はい?」


少し赤くなった顔で、ふにゃりと顔を破綻させるバネッサさん。どうかしましたかー?と同じように緩んだ顔で返事をしたら、今からいたずらをするかのようにニッと笑って私の肩に腕を回してきた。


「好きな人、いないの?」
「へ?」


スキナヒト

すきなひと

好きなひと

………好き?


「いっ、いませんよ、!」


バシャっ!と揺れた水面。
一気に顔の温度がぐわっと熱くなって、温泉の温度もあってか頭の中がふわふわとした。


「やだ!顔真っ赤じゃないー!」
「そっ、そそそんなことないですっ、」
「**様、婚約者とかいないんですか?」
「うーん、そんな話は聞いたことがありませんねぇ…」


そもそも、恋愛に興味を持つことはあまりなかった、というより、誰も私のことを恋愛対象としてみる人がいなかったらの方が正しいのかもしれない。
一国の王の娘、となると引け目を感じる人の方が多いのだろう。


「好きな人、ですか…」
「**ちゃん?」
「考えたこと、ないですが…恋をするのはとても素敵なのでしょうね、」


私だって、一人の女の子。恋の一つや二つしてみたいって思う。
こう、キュンとして、キラキラして、ドキドキして、その人の言葉に一喜一憂したり、目が会うだけで嬉しくなっちゃったり。
女の子だから、恋がしたくなるのはきっと普通なのかもしれない。


「…みなさんは、恋をしていますか?」


なんとなく投げかけた質問。
みなさんはどうなのかなって、ほんの興味本位で聞いたけれど、


「んんっ、!?」
「ぶっ…!」
「むむむ?」


三者三様、面白い反応が返ってきました。



:
:



「へぇ、チャーミーさんはユノくんに恋をしているんですね」
「救食の王子…私は彼をそう呼んでいるのです」


蕩けるような表情でふにゃりと笑うチャーミーさんがとっても可愛らしかった。
金色の夜明け団の期待の新人、ユノくんは私もみたことがあるが、彼のオーラもさながらルックスも良かったのを覚えている。


「素敵な恋ですね!」
「ふふふ…必ずや彼の胃袋を食ってやるのです…っ!」


あれ、胃袋って掴むものじゃなかったっけ、なんて思ったけれど、チャーミーさんが楽しそうならそれでいいかな、と思えてしまった。


「バネッサさんはどうなんですか?」
「わっ、わわたしっ、!?」


びくっ、と肩を震わせて、ちょっぴり引きつった笑顔で私を見るバネッサさん。
んん?とその反応に少し疑問が。もしやもしや。


「いるんですか〜っ?」
「そ、そうねぇ、いるようないないような…」
「え!そうなんですか!?」
「誰々ー?団長ー?」
「んん、!?」


チャーミーさんの何気ない一言で、バシャッと水面が揺れた。揺らした張本人は顔を真っ赤にしてパチパチと瞬きをしていた。


「ヤミさんなんですかっ?」
「ちっ、ちがうわよ!団長はそのっ、好きっていうより尊敬っていうか、その、」
「顔赤いですよ」
「のぼせたのよ!そういうノエルは随分とアスタのこと気にかけてるみたいだけど〜?」
「っはぁ!?そんなことないわよ!」
「顔、真っ赤よ?」
「〜〜っ、のぼせただけだから!」


途端、お風呂が一気に緩くなって、大量の湯がごうごうと襲って来た。


「っわ、!」
「キャー!」
「ら!?」
「イヤーっ!」


バッシャーン!!

水中に浮いたままお風呂の外へと投げ出された。ゴツゴツとした岩肌に背中をぶつけ、鈍い痛みが体を襲う。
何が起こっているのか理解できず、頭にはてなマークを浮かべていたら、ノエルさんが小さな声で、ごめんなさいと呟いた。


「照れ隠しにもほどがあるでしょ…」
「…すいません、」
「あっはっは!楽しいーっ!」
「っふふ、津波みたいでしたね!」


お客さんが私たちだけで良かった。
ノエルさんの魔力のすごさを目の当たりにしたあと、クスクスと笑みがこぼれた。まさか、体が吹っ飛ばされてしまうほどの水圧だったなんて。


「私、海に行ったのが幼い頃の一回だけだったので、なんだか懐かしく感じちゃいました!」
「本当?じゃあ今度は海にいこっか!」
「海!?魚!?」
「ちょっ、**様が海に行くなんて大丈夫なんですか…?王都からかなり離れるんじゃ…」
「大丈夫よ、団長クラスの人を連れて行けば」


海は、本当に幼い時、ユリウス様が内緒で連れて行ってくださった。結局あのあと護衛の方にバレて大目玉を食らったけど、全て含めていい思い出だ。

水平線の向こうもずっと続く広大な海。
ユリウス様と浅瀬を歩いたりしたのは本当に楽しかった。


「海、行きたいです」


夕日が海にとぷんと沈んで行くあの光景はいつ見ても感動できるだろう。青々とした海が、だんだん夕焼けに染まって最後は群青色になる。
静かな静かな夜の海も素敵だった。


「じゃあ、行きましょうか!」


きゅ、と私の手を取ったバネッサさん。いたずらっぽく笑っては、私の腕を引っ張って立たせてくれた。

はい!と答えた。表情には自然と笑みがこぼれる。


「まぁ、**様が言うなら、行きます、」
「魚介〜〜!」


今日遊んだら、次の遊びのことを考える。
そんな、他の人たちなら何気ないことがこんなにも幸せだなんて。


「嬉しそうな顔ね、**ちゃん」
「はいっ」


ハックシュン!

ふるりと体が震えて、思わずくしゃみが飛び出した。それだけで、クスクスと笑ってお湯に浸かろっか、とバネッサさんが笑った。
ノエルさんが、申し訳なさそうにごめんなさいとつぶやいて、チャーミーさんがお湯の中に飛び込んだ。

何気ない、大切な1日。



明日の世界は何色だろう
「ハックシュンっ」
「**風邪か?」
「うーん、冷えちゃったからかな?」
(やべぇ姫さんが風邪引いた…ユリウスの旦那に殺される……黙っとこ)



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