「ど、どうしよう、心操くん…」
「……とりあえず職員室行くか」
ちょこん、と俺の手のひらに座っているのはまぎれもないクラスメイトの****。たまたま朝出会って登校している時に偶然出くわした個性事故のせいだ。個性『ミニマム』ってこういうことか…と手のひらサイズの**を見て小さくため息をつく。朝からなんて不運なんだ、こいつ。
「うぅ…迷惑かけてごめん…」
「いいって、いつものことだろ」
「それはそれでぐさっとくるものがあるね」
**のカバンも持ちながらさりげなく周囲から隠しながらポツポツと喋って着いた職員室。失礼しますと中に入って担任の元へと駆け寄った。
「おはようございます、先生」
「おう、はよ。どうしたんだ?心操」
「先生!おはようございます!」
「……………………」
「先生あのね、私小さくなっちゃったんです!」
「…………**だとぉぉ!!?!?」
「ふぎゃ…っ!!?」
目をひん剥いて叫んだ先生。うるさ、と密かに思いながらも先生の声に驚いた**が落ちないように両手で支えた。クルクルと頭上で星が飛んでる**に親指でツンツンと突いてみる。
「**、大丈夫か」
「……っは!」
「な、なんでこんなに小さくなったんだ?」
「それはかくかくしかじかでして…」
朝に起こった事の次第をざっくりと説明すれば、「ははっ…」と苦笑する先生。一応相澤先生に掛け合ってみるとのことだったので大人しく**とその場に待機した。
「すごいね、世界が大きいや」
「**が小さくなったんだよ」
「マイナスイオンは出てる?」
「……ほとんど出てない」
「そっかー、今日は実験お休みだなぁ」
後で連絡しないと、とつぶやく**に、もう男の被験者に永遠に実験しないと宣言してほしい衝動にかられる。この無自覚鈍感馬鹿は実験を口実として抱きつきにきている輩に気付きやしない。頭に浮かんだ被験者を思っては小さくため息をついた。そう言う俺は被験者じゃない。
「ハッ…!なんか今すっごい悪口言われてる気がする……!!」
「あぁ、多分それ俺だ」
「なっ、えっ、まさかの自分で宣言していくスタイル!?」
「**はそのままでいいけど危機感持てよ」
「ごめん、なんの話かな?」
「いつかパクッと食われても知らねぇぞ」
「ま、丸呑み…っ!?」
このサイズだからだろうか、よくわからない心配をする**に思わずクスッと笑みがこぼれた。勝手にオロオロと焦り出した**を放置して視線を向ければ、否定も肯定もしない俺に慌てる**がいつもより変に可愛らしくてずっと眺めてられる気がした。
「学校にいるノラ猫に猫じゃらしで鼻をくすぐったからかな…」
「……悪い、なんの話だ」
「わ、私自分の身とか自分で守れないので!!」
「だろうな」
「だからっ、私がピンチの時はよろしくね!ヒーロー!」
「っ、……」
あぁ、……くそ、
「?…心操くん?」
「…まだ、ヒーロー科にすら入れてないけど」
「でも目指してるんでしょ?」
「…まぁ、そうだけど、」
「じゃあ大丈夫だよ」
ふんわりと笑った**にむず痒くなって、顔を逸らした。**には、一生敵わない気がする。なんでこんなにも、まっすぐなんだ。
「心操くんはなれるよ、ヒーロー。」
「…何を根拠に、」
「直感です!!」
「うわ、**の直感とか一番当てにならねぇ…」
「それどう言う意味!?」
コロコロ変わる表情に俺とは対照的だな、と漠然と思った。顔がうるせぇ、と笑ってみれば「整形いるかな…?」とトンチンカンな回答が返ってきて、思わず吹き出した。
「お前ら、仲良かったんだな」
「あ!先生!」
「相澤先生はいましたか?」
「それがA組でトラブルあったみたいで手が離せないらしい。すまんがとりあえずこのまま授業受けてもらってもいいか?」
「……ノート取れるかな…」
「心配するとこそこか」
このまま、か。もしこのままの状態の**を連れて行ったのを想像してみる。
…………間違いなくクラスの女子に揉みくちゃにされて潰されるんじゃないか、こいつ。
「先生、多分**潰されますよ」
「だよなぁ、俺も思う」
「お二人はどんな心配をしているんですか???」
大丈夫だと言い張る**に大丈夫じゃないと答える先生と俺。喚く当人を放ってどうするかと作戦会議が始まった。
「まぁ、マイナスイオンもほとんどわからねぇし、今日一日心操の鞄かポケットにでも隠れときゃ大丈夫だろ」
「えぇ!?授業どうするんですか!?」
「鞄の中で聞いとけ」
「心操くんに迷惑ですし…っ!」
「もうかかってるから問題ないな」
「今日の心操くんは一段と毒舌ですね!!」
「クラスには欠席だっつっときゃいいだろ」
「か、皆勤賞狙ってたのに…っ」
「授業には出てんだ、出席にしといてやるよ」
「やったー!心操くんよろしく!」
「弁当一週間分」
「う…致し方なし…」
あれよあれよと話がまとまり、じゃあそう言うことでと最後は丸投げされて職員室を出た。**の鞄は先生の提案でありがたく預かってもらった。本人がいないのに鞄だけあるわけにはいかないからな。**なら「鞄は任せた!」なんて言って鞄だけ登校するとかあり得そうだけど。
それとなく昼飯の約束もして、今日一日**のお守り役をすることになって心なしか気分がいい。マイナスイオンを独り占めできるからだ。きっとそうだ。
「12時間で効果が切れてよかった〜」
「効果切れるのは夜の8時か」
「学校終わったらどうしよう…先生とこに居座っとこうかな」
「……、」
俺の家来るか?なんて言いそうになった口を理性で抑え切れてよかった。いくらなんでもやばすぎだろ。ちっこいからって中身は同級生で、危機感皆無の超絶お人好しの馬鹿だけどいろんな奴にいろんな意味で狙われている**だぞ。本能的に家に誘おうとした考えがなぜか悔しかった。
「…その個性が溶けるまで俺も学校に残る」
「えっ、いいよ、心操くん怒られちゃう」
「理由言ったらなんとかなるだろ」
「今日1日お世話になるから放課後まで迷惑かけるわけにはいかないよ!」
「この際どれだけ一緒にいても同じだろ」
でも、でも、と否定を述べ続ける**。そうじゃない、そんな言葉が聞きたいんじゃなくて。
「俺が**と一緒にいたい、それならいいだろ」
どうせ鈍感馬鹿にここまで言ったところで微塵も伝わってないだろう。そっかーなんて軽い言葉で流されるのはわかりきってる。ふぅ、と小さくため息をつけば、静かになった胸ポケット。
「**?」
「っ、あ、あの、心操くんっ、え、えっと、」
不思議に思ってポケットを覗き込めば、そこには真っ赤な顔を隠そうと両手で頬を抑える**がいた。
は、なに、この反応、
「う、うれしい、けど、そう言うこと、ほいほい女の子に言っちゃだめだよ、」
「……**、」
「ちょっと、照れちゃった、へへ、ありがとう」
予想外の反応に思考が止まる。あの鈍感馬鹿が、え、俺の言葉理解したってことか、ちょっと待て、俺さっきなんて、
『俺が**と一緒にいたい、それならいいだろ』
「ーーっ、!?」
待て待て待て、絶対理解できてないと思ってたのに、まさかわかるだなんて、嘘だろ、こんなの、告白したようなもんじゃねぇか。
ドッ、ドッ、と激しく心臓が脈打つ。胸ポケットにいる**に届いてるかもしれない。どうする、もういっそこのまま、
「はい、しゅーーーりょーーーー」
パコッ
パニックになる中頭が程よい力で叩かれた。過剰に反応して振り返れば、さっき別れたばかりの先生が。ニヤニヤと俺を見て意地汚く笑う先生が続きは放課後な、と告げた。ックソ、この野郎。
「心操くん!!やばいあと2分しかない!!」
「……おう」
まだ1日は始まったばかりなのに、ひどく疲労が溜まった。
ちっちゃくなったしんそーは!?次回!****大捜査線!かも?