「はぁぁぁぁ〜……」
憂鬱も憂鬱、お弁当を忘れたと思いきやお財布のお金も38円しか入っていなかった…。お小遣いを補充するのを忘れていたのが運の尽き、お昼からヒーロー基礎学も体育もあるのに、お昼を食いっぱぐれるなんてライザ○プすらしないダイエットだ。
ぐぅ…
(うぅ…お腹空きすぎて死んでしまう…)
運悪く、いつも一緒にお昼を食べているメンバーは他の子と食べていたりしてたから、今日は1人のんびり外で食べようかなぁ、なんて思ってた矢先の出来事だ。ご飯すら食べれないなんて…。
「お腹すいた…」
もう口に出すしかできないまま、みんながワイワイガヤガヤといい匂いを漂わせながら食べているものを見てまたお腹が鳴る。そろそろ苛立ちすら覚えてくるほどに。
「あの、」
「っうはぁいッ…!!」
そんな時、背後から聞こえてきた声に過剰に反応してしまった。思わず変な声が出て飛び跳ねたあと、慌てて後ろを振り向けばそこには可愛らしい女の子が1人いた。
「えっと…どうかしましたか?」
「あ、あの、勘違いだったら申し訳ないのですが…、もしかして、お昼ご飯を食べれてないのかなぁって、思って、」
「えっ、なんでそれを…、」
「あ、よかった…本当だったんですね」
困ったように笑う女の子に思わず恥ずかしくなって、「お弁当もお金も忘れちゃって〜、」と頭をぽりぽり掻いた。ドジだと思われているんだろうか。
あとそれにしても…
(……なんかめっちゃ落ち着く…)
なんなんだろうか。この子を目の前にしたらイライラが吹っ飛んだ。それどころか体全体がリラックスして、またもお腹が大きな音を立てた。
ぐぅぅぅぅ〜…
「……」
「……」
「、恥ずかしい…!!」
「…ふふ、」
「笑わないでくださいぃ…!」
「ふふ、ごめんなさい、なんだかすごく可愛らしくて」
恥ずかしくて顔に血がのぼる。形だけでも顔を冷ますようにパタパタと仰いで見るが一向に冷えはしなかった。ほんまに恥ずかしい…穴があったら埋められたいくらいには……。
「私、今日急遽食堂のご飯を食べることになってお弁当が余ってしまっているんです。もし良ければですが、私のお弁当食べますか?」
「えっ、そ、そそそんないいの!?」
「あまり豪華とは言えないですし、普通の女の子より量が多いですが…」
「そんな、でも、うぅ…」
食べたい…!!!
そんな思いが出たのだろうか、本日3度目のお腹の訴えに私の遠慮の心はやすやすと折れてしまった。
「いただきたいです…!!!」
「よかった、私もどうやって食べようか悩んでたんです。今教室に取りに行ってきますね」
「いやいやいや!むしろ私が取りに行いたいくらいなので!」
「それなら、一緒に行きましょうか。あ、自己紹介がまだでしたね、私、1年C組の****です」
「同級生だったんだ…!私はA組の麗日お茶子!お茶子って呼んで!**ちゃん!」
「わぁ!お茶子ちゃんヒーロー科なんだね…!A組ってことは、梅雨ちゃんや透ちゃんと同じクラスかな?」
「そうそう!なんで2人知ってるの?」
「この前たまたま知り合ったの。ふふ、ヒーロー科の友達が増えて嬉しいなぁ〜」
「………癒し系女子の**ちゃん…っ!?」
「え?」
まさかまさか、ついこの前話題になったあの癒し系女子が目の前に…!?
確かに言われてみれば、近くにいるだけでものすごく和むし落ち着くし、さっきから抱きつきたくて仕方がない。
なんだか有名人に会ったような気分になって、少しばかり緊張してしまった。
「あのさ、**ちゃんってマイナスイオンが個性であってる?」
「うん!梅雨ちゃん達から聞いたの?」
「この前梅雨ちゃん達が可愛い子に会ったって噂しててさ!うわー、なんか会えて感激…!」
可愛いなんて照れちゃうなぁ、そう顔を赤らめて言う**ちゃんは本当に可愛くてお持ち帰りしたくなった。
そんなこんなで、会話に花を咲かせながら歩いていたらいつのまにかC組の教室にたどり着いていた。時間が経つのはあっという間だ。
「お弁当、取ってくるね」
「ほんっとうにありがとう!!このご恩は一生忘れません!!」
「大げさだよ〜、ちょっと待ってて!」
パタパタと入って教室に入っていく**ちゃん。普段ここまで来ないからか、周りの視線がたくさんあるような気がして少しだけ肩を狭めた。
うわぁ、なんかごめん。いや、なんで謝ってるかわからないけど。
「お待たせっ、えっと、これ、なんだけど…」
「…**ちゃんって見かけによらず結構大食い?」
「う…お恥ずかしながら…」
持ってきたお弁当は、**ちゃんが最初に言ってた通り、見た目に反してしっかりと量があるお弁当だった。運動部並みの量だと思う。
「〜〜っありがとう…!午後からヒーロー基礎学と体育があったからお腹いっぱいにしときたかったの…!!」
「た、食べきれるかな…?もし多かったら全然残してくれて大丈夫だからね!
「ありがたく頂戴します…!お母さんにも伝えておいてください…!」
賞状をもらうかのように頭を下げながら両手を前に出した。ありがとう世界。ありがとう、お弁当を作ってくれたであろう**ちゃんのお母さん。おかげで私は生きることができます。
そう顔も知らない頭の中の**ちゃんのお母さんに土下座をしていたら、「これ、私が作ったの、」と小さな声が聞こえては頭をパッと上げた。
「**ちゃんの手作り!?」
「うん、普通の中身だから、変なのは入ってないと思うけど…」
「〜〜っ、大切に食べるね!!」
お弁当を抱きかかえるように持てば、「召し上がれ」とはにかんだ笑顔を見せた**ちゃん。天使かな?と頭の中で疑問が飛び交ったが、落ち落ちしてたらお弁当を食べる時間がなくなりそうだ。
「あ、明日!明日お弁当柄を持ってくるね!それから今度は私がお昼ご馳走するよ!」
「えっ、そんないいのに、大したことじゃないし…」
「私がお礼したいの!迷惑かな…?」
「ううん、嬉しい!あ、それなら連絡先教えてもらってもいいかな?」
「うん!QRコード見せるね!」
お互い慣れた手つきで連絡先を交換し、しつこいくらいにお礼を言ってその場を後にした。終始**ちゃんは可愛かったし、和ませてもらったし、癒しだった。
「お茶子ちゃん、お弁当柄を変えたのね」
「んーん、これ**ちゃんの!」
「えぇー!!**ちゃんに会ったの!?」
「お昼なかったのを助けてもらってさー!ていうかこの卵焼きおいしい…!!」
急いで教室に戻ってお弁当を開くと、そこには彩りどりのおかずと、シンプルな白ごはん。これがまた嬉しい…!とまるでテレホンショッピングの解説者のような口調になってしまうほど、**ちゃんのお弁当は魅力がたっぷりだった。
噛み締めたらじゅわ、と溢れるだし巻き卵は思わず口元がゆるゆるになってしまう。焼肉のたれで炒められたお肉と合うのが白ごはん。やばい、めちゃくちゃおいしい。
「**ちゃんって結構食べる方なのね」
「うん!あんなほっそい体のどこに入るんだろって思った!きんぴらうま…っ!!」
おいしいおいしいと食べていたら、傍から卵焼きが宙を浮いていった。あかん!!と叫ぶがもう遅い。
宙に浮く制服の上でそれが完全に見えなくなってしまい、返ってきたのは「おいっしい!!」というテンションの高い声だった。
「**ちゃんまま料理うますぎ!」
「…これ、**ちゃんが作ってるって…」
「ごめん、そんなに落ち込まないで…」
テンションだだ下がりのままタレのついたお肉にご飯を乗せて食べた。元気百倍麗日さんになりました。
「明日一緒にお昼食べるんだ〜」
「えー!いいな!私も会いたい!癒し系女子!」
「私も会ってみたいですわ!」
「ここに呼ばない?」
「ありよりのあり!」
「じゃあみんなでおかず持ちよろっか」
「楽しそう!」
「それなら**ちゃんに連絡しとくね!」
「おねがーい!」
「**ちゃんかぁ〜、どんな子なんだろ〜」
「……天使?」
「わかる!」
「異議ないわ」
「やばいめっちゃ会いたい!!」
麗らかにいきましょう!「あっ、明日A組に侵略を…っ!?」
「どうしたんだ、**。個性ダダ漏れだぞ」