「**ちゃぁぁん!」
「っわ、もーちゃん、おはよ」
「っあ〜〜、相変わらず癒されるわぁ〜〜」
教室に入って朝一番に抱きつきに来るのは、クラスメイトのもーちゃん。グリグリと私に額を擦り付けては、たまらんたまらんと口を漏らした。
「ずっとここにいれる」
「大袈裟だよ、もーちゃんは」
「ほんとだってば!」
「もーちゃん、次私も〜」
「その次私!」
朝、私にハグをする順番待ちの列は、今やこの1年C組の恒例行事になっている気がする。
まぁ確かに、朝はみんなスッキリしたいもんね。
「おい!お前たち!いい加減に席につけ!」
「えー!先生!もうちょっと!」
「馬鹿野郎、朝礼の時間だ!」
そう、ハグの途中に先生が来て、怒られる。これも日課。
「相変わらずの騒ぎだな」
「あ、心操くん、おはよう。みんな元気そうで何よりだよ」
出席を取っている中、後ろの席の心操くんがこっそりと喋りかけて来た。呑気だな、といつも通りのトーンで言われたけど、焦るよりは好きかな、とだけ答えておく。
「今日は居眠りするなよ」
「う…善処します…」
「**が寝ると授業が進まなくなるからな」
「昨日は寝不足だったから本当に眠たかった…」
ズーン、と肩を落としていたら、頑張れよ、と小さな応援が帰って来る。
うとうとしていると個性の制御が効かなくなって、その影響で昨日はクラスの2/3が眠ってしまうという大惨事があった。ちなみに、先生も眠たかったそうで、喋り口調がいつもよりかなりゆっくりになっていたのを覚えている。
「いろんな効果があるんだな、マイナスイオンは」
「そうみたいだね。私もよくわかってないけど…」
「心操!**!何喋ってる!」
「ひっ、ご、ごめんなさいっ!」
個性、マイナスイオン。
ストレス緩和や癒し効果だけじゃなくて、空気を綺麗にしたりお肌を綺麗にしたり、筋肉の回復だってお手の物。とにかくいろんな効果をもたらす私の個性は、私に触れるとさらに効果が強くなる。その中でも抱きしめるのが一番らしい。
「頼むから…っ、頼むから今日は居眠りするなよ…ッ!!」
「き、昨日も寝てません…!」
「ほとんど寝てただろ」
そんな必死な顔で頼みごとをする先生は初めて見た。今日もちょっと寝不足だけど、朝からカフェインもしっかり摂ったから大丈夫。
そう意気込んだ30分後、苦手な数学でうとうとした私に頭を抱えた先生であった。
癒し系ガール、舟を漕ぐ「**ー!!!!!」
「ひっ、ね、寝てませんっ!!」
(((眠ィ……)))