September

「こっち準備してー!」

「画用紙どこー!?」

「僕が取ってくるよ!」

「看板できた!轟!宣伝行って!」

「どこにだ」

バタバタバタ。
みんなが忙しく走り回る中、私もせわしなく教室中を走り回っていた。

それもそのはず、今日はなんたって…

「皆!!いくら文化祭でテンションが上がっているからと言ってハメを外して他学生に迷惑のないよう、」

「「文化祭、キターー!!!」」

「上鳴くん!峰田くん!少し静かにしたまえ!!」

楽しい楽しい文化祭。あんなこと言ってる飯田くんでさえそわそわしているのが目に見えてわかる。

「盛り上がってるねー」

「タラタラすんなクソ酸素!!テメェも働けクソが!!」

「おぉ…副料理長…」

今年のうちの出し物は、上鳴くんの激推しにによって喫茶店だ。いや、上鳴くんらしいといえばらしいんだけど。
幸運にもうちには砂藤くんというおかし作りのプロと、爆豪くんという才能マンがいる。試食したけどとてつもなく美味しかった。

「準備ばっちりだね、爆豪くん」

「そういうテメェはまたふざけた髪型してやがるな」

「ポニーテールしかできないから仕方ないでしょ…」

他の女子は可愛らしくヘアアレンジをしているが、あいにく私にあの技術はない。まぁ他の女子にヘアアレンジさせろと追いかけられたが、それさえも逃げた。でも、ただ下ろすだけってのもなんだから仕方なく、ポニーテールにシュシュという簡素な髪型で指定のバーテンダーのような服を着た。うん、似合ってない。

「他の奴にでもしてもらえよ」

「んー…なんか、いや、なんでもない」

「んだよ言え」

「べ、別にいいでしょ」

「言えクソ酸素。命令だ」

「…あの、何回命令使うつもりなの」

「俺が満足するまでだ」

「横暴の王様だ」

「言えクソ酸素」

「……他の子みたいに、可愛くなれないし、」

どうせモブだもん、私。わかるよ、自分の身の丈くらいさ。皆みたいに可愛くもスタイルもいいわけじゃないから、普通に、目立つのが嫌といいますか。
ヘアアレンジどころかメイクだってろくにできないし、女子力もないし。

「モブはモブらしく影で頑張りますよーっと。あ、そろそろあっちの準備手伝って、」

「来い」

「え?あ、ちょっと!!爆豪くん!?」

「あー!*ちゃんいた!!いい加減ヘアアレンジさせなさーい!!」

「あれ?なんで爆豪くんおるん?」

「丸顔、こいつ借りる」

「待って待って、*ちゃん今から私たちがヘアアレンジすんねんって!」

「待って爆豪くん、準備、」

「来いっつってんだろクソブスモブ酸素、あと俺がやる」

「呼び方めっちゃ酷くなって、…って俺がやる!?!?」

腕を掴まれながらズルズルと引っ張られ、無理やり教室の端っこの椅子に引きずり出された。待って待ってと騒ぐ私はクラスの見世物と化している。っあー、もう!轟くんが宣伝に行っててよかった…!こんなとこ見られたくないし…!!

「座れブス酸素」

「〜〜っ、*って名前があるんですー!!」

「おいピンク、これ使ってええんか」

「ど、どうぞどうぞ…」

わらわらと人が寄ってくる。峰田くんがからかうような声をかけてきたが、それすら一蹴して爆豪くんがあったまっているコテに手を伸ばした。いや、本気か、この男。

「爆豪、*の専属美容師になんの?」

「ドブスを小ブスにしてやるだけだ」

「言い方ひっでぇ!」

あっはっはと笑う上鳴くん、ちょっと表出ろ。何笑ってんだ。

「爆豪…仮にも女の子なんだからそんな言い方ないだろ…?」

「待って切島くん、『仮にも』ってなに!?」

「外野は黙ってろ。おい丸顔、そこの鏡よこせ」

机の上に大きめの鏡を置かれる。鏡ごしにお茶子がニヤニヤしているのが見えて、頬っぺたが引きつった。待って、本気で恥ずかしすぎて死ぬ。

「爆豪さん!このリボンとお花使っても良いですわよ!」

「これ、ゴムとヘアピンと櫛ね。使い終わったら教えてちょうだい」

「ねーねー爆豪!どんな髪型にすんの?」

雑にシュシュとゴムを外されてはやけに丁寧に手櫛で髪を解かれた。鏡ごしに爆豪くんはケータイをいじっている。まさか、調べただけでできるだなんてそんな離れワザ…

「これ」

「…っえ!?こんなのできるの!?」

「見りゃ出来んだろ」

「いやいやいや、上級者向けとか書いてるし…それに編み込みとかしたことあるん!?」

「ねぇ。けどヨユーだわ」

「あ、あの、どんなの、」

「ロクに髪も弄れねぇクソブスは黙ってろ」

「う…」

後ろではきゃっきゃと女子たちが騒いでいる。「じゃあこの色のリボンが良いですわね!」とヤオモモが嬉しそうに創造していた。ヘアアレンジにリボンを使うって、本当に凄いやつじゃないか。

「ばくごーが髪の毛やってる間、*のメイクしてていーい?」

「勝手にやってろ」

「やったー!やっと*捕まえれたー!」

「待って三奈、私メイク道具カバンの中だし、」

「私たちのつかおー!」

「*も少しくらいメイク覚えなよー」

「せっかく可愛い顔してるんだからね」

「あ、この色使って見たかったんだー!」

「リボンに合うし、ちょうど良い!」

「クソども!!少しは黙ってやれや!!」

さらりと髪の毛がとられる。首を掠めた指先に体がビクつくのを必死に抑えた。ぽんぽんと肌を触れられたりアイシャドウを塗られたり。もう好き放題されてこっちはお手上げだ。
巻かれた髪が熱いけど、本当に爆豪くん、ちゃんとできるんだろうか。

「爆豪くんなんで髪の毛巻けるん?そーゆー趣味あったん?」

「ざけんな丸顔。さっきポニーテールが巻いてるの見ただけだわ」

「あの一瞬でできるようになるって…ほんと才能マンだね…」

「おいクソブスモブ酸素」

「ふべっ…!」

かなり強い力で両頬を掴まれた。痛みと驚きでなにも言えず、パチパチと目を瞬かせては鏡と向き合った。
鏡の中で、爆豪くんがニヤリと笑う。

「テメェのブス面、少しはマシにしてやる」

「…へ、」

「だから、…………」

「〜〜ッ、」

「わー!!爆豪くんが*ちゃん襲ってるー!!」

「ってねぇわクソ丸顔!!!」

「*ちゃん、爆豪ちゃんになんて言われたの?」

「顔が真っ赤ですわ!」

「っえ、あ、べ、別に…、っ」

「おい、返事は」

「で、できるわけないでしょ!?」

「この俺様がやってやんだぞ。返事がなってねぇドブス」

「でもっ、」

「ぁあ?」

「〜〜っ、わ、わかったよ、もう…!」

「ん」

そしてまたあの時のように、ぐしゃ、と髪の毛を撫でられては爆豪くんの指が髪の毛をくすぐっては、楽しみにしとけ、なんて、ひどく爆豪くんらしくないセリフ。そんな私たちの会話にお茶子たちは大興奮だった。
しまいには爆豪くんに「ほんまに付き合ってないん?」なんて聞く始末。一蹴してたけど。

「主人公にしてやるよ」

「…爆豪くんは魔法使いですか、」

「…なぁ、ほんまに付き合って、「ねぇ」「ないから…!!」


:
:


「…?*、休憩は?」

「んー?えっと、お手伝いに来ちゃった!」

「大丈夫か?ずっと働いているように思うが…あと髪の毛、解いたのか?」

「さっき休憩もらったから大丈夫!あと髪の毛はちょっとほどけちゃってボサボサだから中行くね!あ、あとこれ洗っとくねー!」

ガチャ、と大量のコップとお皿を洗い場に運び入れた。と、ここでため息ひとつ。轟くんがいなくなったため客足はだいぶと少なくなった。彼がいたら本当に目が回るかと思った。

「砂藤くん、後私が洗っとくから、休憩行っていーよ」

「お?まじか、助かる」

「いーっていーって、お疲れ料理長!」

今日一日お菓子を焼き続けた砂藤くんからはなんだか甘い香りがした。かなり疲れた表情だったし、もともと渡す予定だった他のクラスで買ったおにぎりを手渡せば砂藤くんの目が輝いた。いや、泣いて喜ばなくても…。

ガチャガチャと洗うものを水につけていっては、砂藤くんがいなくなったのを見てため息2つ目。

可愛いヘアアレンジも、今は解けて変な髪になったから1つにまとめた。ちら、と中からフロアを見れば、未だ最高に可愛いヘアアレンジを兼ね備えた最高に可愛い梅雨ちゃんが接客をしている。
それを見てまたため息3つ目。モブだなぁ、私。

「主人公、なれなかったよー」

「…んだよその髪の毛」

「ごめんね、爆豪くん。お膳立てしてくれたのに」

『半分野郎を誘って落としてこい』
そう耳打ちした爆豪くんの言葉通り、誘いはした。もうこれでもかってほど勇気を振り絞って誘った。うまくいっていれば、今の時間は轟くんと文化祭を一緒に回っている予定だった。
まぁ、うまくいってたらね。

石鹸をつけてモコモコ泡と一緒に汚れを落としていく。これだけ洗うと終わった後に手が荒れそうだが、もう特に気にもしなかった。

「轟くんを誘いまして」

「おぉ」

「断られました」

「ざまぁ」

「で、おにぎりだけ買って食べたけど文化祭一緒に回る人がいなかったから、仕方なく戻って来たの。この後の轟くんのシフトにも続けて入るし」

「…あいつは」

「お母さんが来ててね、ゆっくりして来てってことで代わりに私が入ることにした」

「テメェ、そのあともシフトはいっとっただろ」

「うん、お昼からフルで働くなんて*ちゃん偉いなぁ〜」

「…テメェは生粋の馬鹿だな」

キュ、と蛇口をひねり水を出す。冷たい水が冷えていた指先を容易に冷やしていった。冷房が直撃するここだからだろうか、ひどく寒い。

「しょうがないよ、あんなに嬉しそうな轟くんの顔初めて見たもん」

「だからってシフト交換にすりゃよかったじゃねぇか」

「…まぁ、いーじゃんっ、私が頑張って働けば、轟くんは楽しめるんだし!それにここにいるのも楽しいし、いいのいいの!」

爆豪くんは休憩?と聞くと、これからシフトが入っているそうな。副料理長みたいなポジションで、ものすごく疲れてるだろうに、それを感じさせないとは流石のタフネスだ。

「…そこ、詰めろ」

「え?あ、え、あの…」

「2人でやった方が早ぇだろ」

「…ありがと、爆豪くん」

2人シンクに並んで洗い物を済ませる。泡がついた食器を爆豪くんから受け取り、それをひたすら流した。…洗うスピードも速いってどこまで才能を発揮するつもりなのだこの男は。

時折触れる爆豪くんの手は、なんだかあったかいような気がした。


:
:


「んーっ、おわったぁ!」

「トロすぎだろクソ酸素」

「いやいや、爆豪くんが速すぎだからね?」

案の定、終わったら手がもうかじかむくらいには冷えていた。ここの水冷たすぎか。ペーパータオルで手を拭くも、その温度が改善されることはない。仕方なしに手をさすってみるが結果は同じだろう。

「おい」

「はいはい次は何ですか」

「ここ見張ってろ」

「…え?オーブン?その役目必要ないんじゃ、」

「黙って座ってろっつってんだ」

無理やり引っ張られてまた椅子に座らされた。オレンジの光を放つオーブンの向こうでは、並べられたクッキーが鎮座している。
あ、ここ、すごく、

「あったかい…、」

「……」

椅子の背もたれに腕を乗せて、オレンジに光るその先をぼんやりと見つめた。輻射熱が体全身をあっためていくのが心地いい。
どうして、寒いところから暖かくなるだけで、こんなにも落ち着くんだろうか。
次第に呼吸がゆっくりになって、うとうととまぶたが眠りを誘ってくる。
だめだ、すごく、眠たい。

「ばくご、くん…」

「…あんだよ」

「、あり、が…と、」

頭に撫でられているような優しい感触とともに、最後は目を閉じた。

すごく心地がいい。っあ、まって、頭痛い。めっちゃ髪の毛引っ張られてる。痛っ、なんか刺さった…?あれ、すごく痛いんだけどなんだこれ。……あ、治った。

なんだったんだろ、あれ。変なの。
…ん?なんかすごく体が揺れる。地震?いやいや、シャレになんないから違うってことにしとこう。

「ぃ…!……!」

まってまって、なんでこんなに揺れてるの。あれ、おかしくない?もしやこれは人為的?

「おい、*!どこで寝ているんだ!」

「んぅ…ふぁーい、……」

「…二度寝をするな」

「っへ、」

パッと目を開けた。そこに飛び込んできたのは口。…って、障子くん…?

「あ、あれ、ここどこ、?」

「キッチンだ。オーブンの前で寝てたぞ、*」

「あれ、あれ、そうだっけ、今何時…?」

「14時20分だな」

「……20分も寝てたんだ、私………って寝てたの!?!?」

「…少し落ち着け」

「ごめんっ、手伝うっていっときながら寝てた…!」

「こっちは大丈夫だ、問題ない。むしろ皿洗ってくれて助かった」

ぐぐ、と伸びをして眠気を逸らした。そしたらパサリと落ちたブレザー。いつのまに、とそれを拾えば鼻をくすぐる甘い匂い。それに小さく笑みをこぼした。

「…魔法使いさんだ」

「…?」

「よーしっ、働くぞー!」

「お、おぉ…?」

ブレザーを丁寧に畳んではフロアで働く彼を見た。なにやらブチ切れているけどそれすら彼らしい。

「髪型、」

「ん?」

「また変えたんだな。よく似合っている」

「…え?」

ポケットに手を突っ込み、スマホを目の前に掲げた。さっきのぐしゃぐしゃのポニーテルじゃなくて、カチューシャが頭を彩り、また朝とは違った髪型で、パッと見た瞬間かわいい、とつぶやいた。

「…、爆豪くん、」

「*の分も働いているみたいだ」

いい奴だな、そう言った障子くんに、そうだね、と返した。もう、これでもかってほど爆豪くんにたくさんいろんなものをもらっている。返したくても返せないほどには。

「行ってくるね」

「あぁ」

バンっ、とフロアに飛び出せば、「ぁあ?」と案の定ガンを飛ばされたが、満面の笑みで私は爆豪くんに向き合った。

「ありがと、魔法使いさん!」

「…はっ、ようやく起きたかよ、ぐーたら眠り姫」

「ふふ、カチューシャ、ありがとう!すごくかわいい!」

「ったりめーだ、俺が選んだんだからセンスねぇわけねーだろ」

「え?爆豪くんが選んだの?」

「…………いや、違う」

しまった、みたいな顔を一瞬した爆豪くんに、梅雨ちゃんがバレバレね、と呟いた。まさかまさか、爆豪くんが選んでくれたなんて。

モゴモゴとらしくない態度をとる爆豪くん。自然に触れたカチューシャを撫でては、また笑顔が心の底から溢れた。

「〜〜っありがとう!」

「…黙って働け、クソ酸素」

そして頭をガシガシとかいた爆豪くんが、不意に私に近づいてきた。キッチンに行くのかな?と首を傾げれば、通りすがりに小さな声がかけられる。

「命令だ」

「え?」

手の中に入れられたメモ帳とペン。そしてキッチンへと入って行った爆豪くんをじっと見つめた。なんか、すごく変だ。轟くんにこえをかけたときよりもずっとずっと、心臓がうるさいんだ。
*〜と私を指名する声がかかった。2拍遅れて返事をしては、メモ帳をチラリと見た。

『シフト終わったら学校回んぞ』

ドキドキが止まらないって、こういうことなのかもしれない。

処にも行けない暮れ



prev - back - next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -