Marry me

爆豪と*が籍を入れるに至ったきっかけは、*の任務中での大怪我が原因だった。

「……っ、爆心地さん…っ!!」

「あ?」

爆豪は任務が終わり、事務所で着替えていたところだった。焦りを隠さないサイドキックに視線を向けた爆豪と、プライベート用のケータイが音を鳴らしたのは同じタイミングだった。画面には『轟焦凍』の文字。珍しい人物からの連絡にサイドキックの話を遮ろうと片手を上げた。

「ちょっと待て、電話だ」

「*さんが…っ!」

「*?」

震える手でスマホを見せてきたサイドキックのスマホには、見慣れた女が今電話がかかってきている轟焦凍とヴィランの間に飛び込んでいるシーンだった。

「は?」

トン、と電話の受信ボタンをフリックしたのは無意識で、その後すぐに飛び込んできた声は、サイドキックのスマホの中にいる男が*の名前を呼んだのと同じ声だった。

『っ*!!!!』

『っ爆豪…!!』

画面の中の愛しい彼女は、血塗れになった。しかもそれはリアルタイムじゃなくて、数時間前の出来事だった。


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「*…っ!!」

「爆心地さん、少しこちらへ」

手術室近くの待合室でかっちゃんを待っていたら、ようやく到着したかっちゃんは、僕らと話をする前に先に医者に連れていかれた。*さんは大怪我を負っていたが、まだ手術はされていない。いや、できないのだ。それには本人、または親族の同意というものが必要不可欠で、それがなければ医療行為は行えなかった。意識がない*さんの代わりに、親族の同意がいる。僕らの中でそれに該当する人は誰一人としていないから、かっちゃんの到着を待ち望んでいた。けれど。

「かっちゃん!」

医師から解放されたかっちゃんは、今から死にに行くような顔をして帰って来た。

「*さん、手術できそう?」

「…できねぇ」

「は!?なんでだよ!!」

「…俺じゃ、同意できねぇんだ」

なんで、そう聞く前に*さんの母親が到着して、すぐさま手術は開始となった。慌ただしくなる手術室の声を聞きつつ、泣いている*さんのお母さんの背中を撫でるかっちゃん。その表情に、なんの色もなかった。

「爆豪……、」

「っテメェ轟!!!」

ひとまず*さんのお母さんが帰った後、声をかけたのは轟くん。しかし彼を見るや否やかっちゃんはその拳を大きく振るった。
バキッ、と僕が止める暇もなく、かっちゃんは轟くんをぶん殴った。落ち着けって、とかっちゃんを羽交い締めにする切島くんと、すかさず轟くんに近寄って殴られた頬を確認しては、近くにいた青ざめている看護師に氷を持ってくるように指示した。

「だ、大丈夫!?」

「テメェがいながら…なにしてんだよ…ッ!!」

「落ち着けって!!*が轟を庇ったんだからどうにもできねぇだろ!」

「…わりぃ、謝って済むもんじゃねぇのは、わかってる」

「君は悪くない、轟くん。今回のことは、誰も悪くないんだ」

そう言い切る飯田くんに、グッと拳を握りしめた。報道を見る限り、確かにどうしようもないと思った。逃げ遅れた女の子を咄嗟に庇った轟くんと、そんな二人を庇った*さん。人気ヒーローコンビを見ようと報道陣が殺到し、野次馬も多かった。誰がどう見ても現場は混乱していて、とてもじゃないがまともに活動できる環境ではなかった。そんな中での、事故だった。

看護師から渡された保冷剤を轟くんの頬に当てた。轟くんは目の前でヴィランの攻撃をモロに受けた*さんをすぐに救急隊に渡してから、ずっと表情なく死んだような目をしていた。僕たちヒーローは、自分より圧倒的に勝てないヴィランと戦って死にかけるより、自分のせいで誰かが死ぬことの方がよっぽど怖い。それが知っている人ならなおさらだ。

「……誰にも、どうすることができなかったんだ」

ドサ、とかっちゃんがその場に腰を下ろした。その表情は地面を見ていてわからない。致命傷とも言える大怪我を負っただけでなく、現場の混乱のせいですぐに応急処置もできない、家族がいなかったから、すぐに手術もできない、まさに八方塞がり。「最善は尽くします。」それだけを僕らに伝えていったドクターは、彼女が助かるなんて気休めでも言ってはくれなかった。

「一人に、してくれ」

普段の怒鳴り声からは想像もできないような弱い声だった。その言葉には誰も頷かず、僕らは声ひとつかけずに待合室を出た。関係者以外立ち入り禁止、かっちゃんが一瞬だけ入ったその部屋の向こうは、なにも見えなかった。




轟くんから、手術は無事終わったと連絡が来た翌々日、僕と切島くんは、*さんのお見舞いに行った。飯田くんも轟くんも任務で外せず、二人だけとなったが空気はやはり重い。

「とりあえず、生きててよかったな」

「まぁ、そうだね…」

あの時のかっちゃんの取り乱しようはもう見たくない。しかし今日は早朝からここの近くでヴィランが出たらしいが、かっちゃんは通報される前に解決させたと彼を案ずるコメンテーターがホッとしたように言っていた。「パートナーが危篤状態だが、それでも爆心地はヒーローだ」と。

辛い職種だと思う。仕方がない、理解はできる。けど納得はできないことが多い。いくらパートナーが危篤状態でも、他の人を助けなければいけないから。

「かっちゃん…大丈夫かな…」

「…手術も無事終わったし、*の顔見て安心してるといいな」

意識もうっすらだが戻ったらしい。轟くんが言っていた。今はまだICU−−集中治療室−−にいるけど、時期に一般病棟に転床できるらしい。経過は良好だ、と。

「そうだね、順調らしいもんね。」

今頃、*さんにお説教でもしているのかもしれない。

そう思って向かったICU。そう書かれたドアの前の待合室の中に、かっちゃんはいた。

「は?爆豪?」

椅子に座って、頭を下げて、人形みたいに固まっているかっちゃん。寝てるの?と一瞬思ったが、切島くんの声にわずかながらに反応したからそれは違うとわかった。

「お前、なんで中に入らねぇでこんなとこいるんだよ」

*さんは、もう手術室ではなくICUに移動している。この扉のすぐ向こうにいるというのに、どうしてかっちゃんはここにいるんだろうか。切島くんと顔を合わせて首を傾げていたら、変わらずなんの感情も宿していない声が部屋に響いた。

「……入れねぇ」

「は?なんで、」

「家族じゃねぇからだ」

え、と耳を疑った。そう言えば、聞いたことがある。集中治療室、又の名をICUとも呼ばれるそこはその名の通り重症患者が徹底された管理下で治療を受けるところ。感染症なんか持ち込まれたら生死に関わるから、外部からの接触も最低限に、面会制限されるのだ。例えば、かっちゃんの言うように家族だけ、とか。

「でも、お前ら、ほら、結婚すんだろ、」

「籍、まだ入れてねぇんだよ」

それが、懺悔のように聞こえた。

「手術ができなかった理由も、それだ」

なんの感情もない声で、そう言ったかっちゃん。いろんなことがようやくつながった。*が怪我を負ったと聞いてから病院に来るまで、*さんのお母さんの方が随分遠くにいたのに二人の到着はほぼ同じ。それはつまり、家族ではないかっちゃんに連絡が入っていなかったから。手術の同意ができなかったのも、現時点で法的な家族ではないから。
二人は二人なりの考えを持って今の関係でいたんだろうけど、お互いのこととなると慎重すぎるから、今回はそれが裏目に出た。

「あいつがやられたのも、サイドキックがニュースを見せてきて知った」

「え、……」

「あいつが、目を覚ましたのも、順調なのも、全部人づてで知った」

「かっちゃん、」

「情けなくて涙も出ねぇわ」

ここまでやられてるかっちゃんは流石の僕も初めてで。随分長いこと幼馴染をやって来たけど、どう声をかければいいかわからない。場違いにも、かっちゃんの中で、*さんの比率が大きいなと改めて感じた。

「…お前、ちゃんと飯食って寝てるか?」

「あ?……あー、食って寝る、か、」

まるで今思い出したような反応をするかっちゃんに、僕も、多分切島くんも眉間にしわを寄せた。多分、いやこの反応はきっと、ろくにご飯も食べずに任務に行ってたんだろう。自己管理にうるさいかっちゃんが、まさかご飯ひとつ食べないなんて。

「…ほらよ、*に渡す予定だったやつだけどよ、どうせ今渡すのもできねぇし、爆豪にやるよ」

「…腹、減ってねぇわ」

「ならゼリーとかせめて口に入れとけ。お前、そんな死人みたいな顔で*に会ったら*心配すんだろ?」

顔は真っ青で、隈もできてて、目に力なんて微塵もない。ほぼ無理やり渡した切島くんと僕からの差し入れを、かっちゃんはじっと見つめるだけだった。


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爆豪くんの泣いた顔は、今まで生きてきた中で二度見たことがある。

「*さん」

「あ、転床ですか?」

「はい、ドクターから許可が出たので、一般病棟に移りますね」

「はーい」

今回はやらかした。自分でもあちゃーと思う。ヴィランは女の子を狙ってたし、それを轟くんは考えなしに庇いに行ったし、そんなの行くしかないよね、というのが言い訳で、まさか手術するまでになるとは思いもしなかった。
目が覚めて、最初にお父さんがいた。泣きそうな顔で、「おはよう」とお母さんが告げた。事故から3日しか経ってなかったことにビックリしたけど、何はともあれ生きててよかった。怪我を負った時はさすがにやば、と思ったし。まぁ死ぬとはなんとなく思わなかったけど。

「やっと、パートナーに会えますね」

「あはは…お説教されるのが目に見えてわかります…」

「……すごく、この三日間、辛そうな表情でしたよ」

「心配症ですから、彼。」

家族じゃないとICUに入れないから、ずっと外で待機してくれていたみたい。まだ籍を入れてないから当然っちゃ当然だけど、私もこの三日間爆豪くんに会えなくて寂しかった。早く会いたいなぁ、と笑みを浮かべて、二人の看護師さんがベッドごと私を移動させてドアを出たすぐそこに、愛しの彼の姿が目に移った。

「爆豪くん」

無言で私の元へ来た爆豪くん。うわぁ、顔色、すごく悪い。隈もできてるし、多分ろくに食べて寝てなかったんだろう。それだけ心配をかけてしまった。

「おはよう」

心配かけてごめんね、もう大丈夫だよ、そういう思いを込めて手を爆豪くんの頬へと伸ばした。爆豪くんは、その手を強く、強く掴んで頬へと当てた。手はとても冷たかった。

「籍入れんぞ、*」

ぽつん、と落とされた言葉に、看護師さんたちが驚いたのは気配でもわかった。この人はいつだって唐突だった。でも私は驚くことはしなかった。彼が言葉を発するまで、私には計り知れないほど多くのことで悩んで、苦しんで出た結果だと知っている。
小さな子供が、大切なおもちゃを離すまいと、そんな思いが垣間見れるほど強く握りしめられた手のひら。運が悪かったら二度とこの痛いほどの感覚を味わうことがなかったと思うとゾッとする。やっぱり、生きててよかった、この人を一人置いて行くなんてそんな馬鹿なことできるはずもなかった。

「いくら婚約してても、籍入れてなきゃテメェの手術に同意もできねぇし、ICUにも入れねぇ。テメェのこと、人づてでしか知ることもできねぇ。」

私の手を頬に当てた爆豪くん。私の手を伝って雫が手首の方へと落ちて行った。
爆豪くんが、あの気丈で強い強い爆豪くんが、泣いている。

ポロポロと、溢れんばかりの感情が涙となって流れているようだった。心配なんてそんな簡単な単語じゃ収まりきらないくらい、ぐちゃぐちゃした感情で私を想ってくれていたんだろう。

「なんもできねぇんだよ、このままじゃ」

どれほど悲しませ、苦しませ、辛い思いをさせただろう。プライドの高いこの人が、私と二人きりでもないこの場面で涙を流している。この言葉を告げるまで、どれほどの葛藤や困苦があっただろう。少し震えた真っ直ぐな声はそれをありありと物語っていた。

お互いが事務所で落ち着いたら籍を入れて結婚式をしようか、そんなことを言い合ったっけ。私たちはお互いのことになると臆病になって、慎重になるから、どっちかが踏ん切りつけないと動けないもんね。

「……うん、入れよっか、それから結婚式もしよう」

握り締められた手は、まだ濡れている。




「なーんてこともあったよね〜」

「*、今から式なんだしそんな暗い話は忘れなよ」

「あはは、ごめん、耳郎」

「やっほー!*〜!」

「三奈!来てくれたんだ!ありがとう!」

「私もいるよ!*ちゃん!」

「おぉ!透!」

私も、私も、と気づけばA組女子全員勢ぞろい。綺麗可愛いと手放しに褒めてくれるから恥ずかしくて仕方ない。ありがとう、と一言一言返事をしながら、それを誤魔化すようにストローでグレープジュースを口に含んだ。

「うわぁ!いいなぁ!ウエディングドレス!」

「同期の中じゃ一番乗りだね!」

「まさか本当に*さんと爆豪さんが結婚するなんて驚きですわ」

「私も思ってなかったなぁ〜」

「轟くんと結婚するんじゃないかと思ったわ」

「あはは、好きだったのは変わりないけどね」

いつも以上にハイなみんなときゃっきゃと話していたら、式場スタッフがもうすぐですよと声をかけて来た。はぁいと揃って返事をしては、そろそろ、と名残惜しそうに立ち上がった。

「あはは、あとで会えるよ」

「それもそうね」

「爆豪にその姿見せるの、楽しみだね」

「耳郎にずっと選んでもらってたもんね」

「え?爆豪、*のドレス姿見てないの?」

「うん、当日まで見せたくなくてさ」

「えー!!いいん!?私ら先に見てしまった!」

「いいのいいの、勝己のびっくりする姿、楽しみにしててね」

「やっばいね!それ!めっちゃシャッターチャンスじゃん!!」

興奮するようにカメラをブンブン振り回す透たちに思わず苦笑する。無反応だったらごめんね、と一応言っておいたが、興奮している彼女たちに聞こえているかわからない。

「*様、そろそろお時間です」

「はい。じゃああとでね」

「まったねー!」

「楽しみにしてますわ!」

「転けないようにね」

「カメラは任せて!」

「爆豪ちゃんもきっと褒めてくれるわ」

「可愛すぎて失神するかもなぁ」

お茶子の言葉に一同揃って「それはない」とケラケラ笑った。あのタフネスマンが花嫁姿に気絶なんてそれそこ地球が逆回転するほど有り得ないことだ。もしそうなったらお腹の底から笑って差し上げよう。

見せろ見せろとブチギレていた時が懐かしい。やだ一辺倒の私になんでだよと鋭い目を直角にするくらい怒ってるのを見て爆笑してたあの時はなかなか楽しかった。そこまで怒らなくても、と突っ込んだら「うるせぇ」なんて照れ隠しもいつも通りで。

あの大怪我直後は愛情表現がもう、もんのっすごくてずっと照れていたが、ようやく彼の中でも色々と落ち着いたのだろう。彼のサイドキックから砂糖を吐きそうだと苦情が来ることもなくなった。

「お父さん、お母さんっ」

見て見て、と何度も見せたウェディングドレスをユサユサと揺らした。2人とも今までで一番っていうくらい幸せそうな表情で穏やかに笑っていた。爆豪くんと挨拶に行った時も二つ返事でオーケーなほど彼は我が家族に認められている。あぁ、ほんと、幸せだなぁ。

お母さんが会場に入ったのをスタッフの人から確認してからお父さんの隣で会場のドアの前に立った。やけに豪華な作りのそれを上から下まで眺める。この先に爆豪くんがいるのかと思うと、なんだか緊張してきた。
会場からは視界を頼んだ飯田くんとヤオモモの声がかすかに聞こえる。さすが2人ともお上品な喋り方だ、頼んで良かった。

あぁ、飯田くんが私たちの入場のアナウンスをした。それとともにBGMと大きな拍手が会場を包む。スタッフがドアを開けます、と声をかけた。それと同時にお父さんの手を掴む。どき、どき。心臓がうるさくなった。

バン、と勢いよく開かれたドア。目に飛び込んでくるフラッシュで爆豪くんの姿はよく見えなかった。会場の空気が体をくすぐる。一歩、また一歩と歩きを進めた。

「……えっ」

ようやくフラッシュが落ち着いた10歩目。爆豪くんはその場にしゃがみ込んでいた。

「ば、ばく、爆豪くんっ!?」

お父さんごめん、と一言添えてから手を離して、重いウェディングドレスをひっつかんでカツカツと走って歩み寄った。爆豪くんは真っ白のタキシードに身を包んで項垂れている。

「どうした、の……、」

「……るせぇ、」

しっかりしなさいよ勝己、なんてミツキさんの笑う声が聞こえた。*ちゃんが綺麗すぎて泣いてるねんて、とお茶子の上擦った声が耳を掠める。ぶっきらぼうに上げられた顔は涙で濡れていて。

「……ばか、何泣いてるの。」

「*」

涙をぬぐいながらも、頬が緩んでいる。そういう爆豪くんの方が綺麗な顔だ、なんて場違いなことを考えた。

「綺麗だ」

男だぜ、となぜか泣いてる切島くん。「ブラボーッ」「おべでどうっ」と誰よりも大きな拍手を繰り返しながら号泣しているオールマイトと緑谷くん。グス、グス、と女の子たちの鼻をすする声も聞こえた。

「一生大切にする」

ポロ、と一粒だけ、涙が頬を掠めた。この人を選んで、本当に良かった。暖かな拍手が会場を包んだ。お父さんが後ろから私の肩をポンと叩いて、笑った。返事をしてあげなさいと行っているようだ。

「爆豪くん……、勝己こそ、私に幸せにされすぎて泣いちゃわないでね」

「……ばかかよ、おまえ。」

泣き止んだ勝己が立ち上がって、お父さんに深く頭を下げた。そのお辞儀は謝罪というより感謝のようで。誠実なこの人の隣にいることができる自分が何より誇らしい。だめだ、もう好きになって随分たつのに、好きが溢れて止まらない。

優しく私の手を包むその体温はロンググローブを通してじんわりと温かい。お父さんに行ってきますと伝えてから勝己の手を強く握り返した。微笑む神父様を目指して2人で歩く。幸せ以外の言葉が思い浮かばなくて、一歩歩くのが惜しくなるほど。

「新郎勝己さん、あなたは新婦*さんを妻とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います。」

「新婦*さん、あなたは新郎勝己さんを夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい。誓います。」

そこからは、神父様のお言葉は正直言ってあんまり覚えてない。思いがいっぱいいっぱいになっちゃって、どうしようもなくて、でも涙は不思議と出なくて。緊張してたのもあるのかもしれないけど、ベールを外す勝己の動きが今まで以上に柔らかかったのをなんとなく覚えてる。それから、無数のフラッシュに焚かれながら勝己の暖かい体温が唇に溶けたのも、なんとなく覚えている。

「愛してる」

私、勝己と結婚するんだ。
そんな実感が、その言葉をきっかけに湧き上がってきた。

「私も、愛してるよ、勝己」

メランコリア達の幸福論



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