なんでも、随分時間は経ったが、私の帰国祝いと私たちの婚約祝いをしてくれるそうな。
「じゃあ改めまして…」
「いよっ」
「待ってました!」
「かんぱーい!」
イェーイ!
騒いだのは誰だろうか。私の前振りに乾杯と各々が言った。カラン、と氷が音を立ててはジャッキやグラスがぶつかりあう。
「それにしてもお前が帰ってくんのもニュースなのにさらに爆弾ぶっ混んできたよなー」
「爆豪だけにな」
「峰田くんうるさい」
「プロポーズの動画、めちゃくちゃニュースになってたよね」
「ついでに言えば五年前のキスの写真も出回ってたよな」
「誰よ流したやつ…」
プロポーズをしたから晴れて爆豪くんのお嫁さん、というわけにはいかず、私は私で戻ってきたばっかだから生活を整えなきゃダメだし、爆豪くんなんて独立事務所を建てたらしいからそれが安定するまではお互い婚約者という立ち位置だ。
厳密には結婚はしていないけど、各地で爆心地ショックが世間を騒がせているらしい。
「爆豪くんのファンに殺されないかヒヤヒヤしてるよ」
「よく言うよ、アメリカじゃ*ショックなんて起こってんだろ?」
「爆豪くんほどじゃないよ」
アメリカでも私たちのニュースは報道されたようで、旧友から充電が全部なくなるんじゃないかってくらい連絡の嵐だった。中には「なんで俺じゃなくてヴィランなんだ!?」なんて送ってきた奴がいたから、面白半分で爆豪くんの一年体育祭の表彰台での写真を送ってやれば、なおのこと「Why!?!?!?!?!?」と来た。
「つか今日爆豪は?」
「まだミッションだって」
「それにしても*よぉ…」
「ん?」
口元をニヤリと歪め、お得意の気持ち悪い顔で私の首から下を舐め回すように見る峰田くん。あ、これダメなやつだ、と体を少し引いた。
「お前…良いカラダになっぎゃぁぁぁぁぁあ!!!!」
「っこのクソ変態野郎!!!ぶっ殺すぞ!!!」
大きな爆発音と共にやって来たベージュの髪の毛。冬服仕様のコスチュームがチラリと見えたから、現場から直行して来たのかもしれない。
峰田くんを吹っ飛ばしたあと、ちらりとわたしと視線を絡ませては何も言わずに逸らした。何も言わないところが爆豪くんらしいと言えばらしいのだけど。
「お、旦那さんの到着か」
「早かったね、もっと遅くなると思ってた」
「テメェと一緒にすんな。あとセクハラくらい自分で逃げやがれ」
「逃げる前に爆豪くんが攻撃したんじゃんか」
「うっせ」
「早速お熱いなぁ〜お前ら」
「黙れアホ面」
いつものテンションでポンポン駆り出される会話に、クラスの目が柔らかくなった。暖かい目であからさまにニヤつくみんなに、恥ずかしい、と誤魔化すように梅酒のロックを喉に流し込んだ。
「もー!爆豪くん!*ちゃん取らんといてよ!」
「あ!?取ってねぇわ!丸顔!!」
「そーそー!*は今日はこっち!」
「わっ、ちょ、三奈!お酒零れる…!」
「すいませーん!柚子ハイボール追加で!」
「今日はとことん吐いてもらうからね!*!」
「え、ちょ、透、本気?勘弁してよ…」
「爆豪さんとのあれこれを聞こうと、私メモをしてきたのですわ!」
「ヤオモモ用意周到すぎないかな!?」
言うことなんてなんにもないよ、と主張したがそんなの微塵も通らず。三奈が頼んだ柚子ハイボールが目の前に置かれ、まだ梅酒も残ってるのにまたすぐお酒が来たのだと頭を抱えたくなる。
ちら、と爆豪くんに助けての視線を送るがバカにするように笑われて終わった。待て貴様、それでもヒーローか。
「お、落ち着こ?ちゃんと言うからさ」
「*のすまし顔、ちょっと崩してみたかったんだよね〜」
「いやいや、私感情豊かだよ?」
「大丈夫大丈夫!今日はすぐそこに旦那様いるし!」
「君ら本当にヒーロー!?!?」
ほらほら〜、と透にグラスを無理やり口に付けられ、顔を背けるもすでに口紅がついたグラスは紛れもなく私のものになってしまった。
「っ、強引すぎでしょ!」
「みんな久し振りに*ちゃんに会えて嬉しいのよ」
「そうだよ、だって*ちゃん、演習で倒れたかと思ったらすぐアメリカ行っちゃったんだもん」
「少しくらいは相談しても良かったんじゃない?」
「目の前で血を吐かれて当分トラウマになった…」
「ご、ごめんお茶子…」
どうやらこの五年間を埋めるだけじゃないようだ。留学前の一連の出来事に唇を尖らせるみんな。罪悪感で心が潰されそうになる。
「ってことで、本日は爆豪とのあれこれを全て聞きたいと思いまーす!」
「いよっ!待ってました!」
「三奈も透も、もう酔ってるの…?」
もう今日は恥を忍んで諦めるか…と再度ジョッキに口をつけた。さぁて、何から話そうか。
:
:
「やば!爆豪くん優しすぎちゃう!?」
「それホントに爆豪??」
「ふへへ、そーらよ」
高校2年の時に会った出来事を全て暴露する*さんに、かっちゃんが青筋を立てて苛立っていた。いや、照れてる…?ってそんなわけないか…。
兎にも角にも、女性陣だけの会話のはずが、クラス中のみんなが聞き耳を立てているから、かっちゃんと*さんの馴れ初め暴露大会みたいになってしまっている。
いつも飄々とした態度でいることが多い*さんも、次から次へと運ばれるお酒にベロベロでそんなクラスの雰囲気に微塵も気づく様子がない。
「漢だな!爆豪!」
「お前狙った相手にそんな優しいのな!クソ下水な性格だと思ってたのに!」
「そりゃ女子も惚れるわけだわ」
「黙れクソども…!!!」
ダァン!!と割れそうなくらい強く置かれたジョッキ。わずかに耳が赤いのはお酒のせいか、はたまた*さんのせいか。
怒りそのまま立ち上がったかっちゃんがズカズカと*さんの元に近づいた。そのしっかりした足取りを見ると全然酔ってないらしい。結構上鳴くんたちに飲まされてたし、たぶんよそで自分の話がされてることに苛立ってかなりヤケ酒してると思ってたけどそこはさすがかっちゃんとしか言いようがない。
*さんのそばでしゃがみ込み、その手の中にあるカクテルであろうグラスのお酒を取り上げた。「あぁー!」と大声を上げる*さんにかっちゃんがそれ以上の声をあげる。
「テメェはもう飲むな!!」
「や!飲むの!返して!」
「ダメっつってんだろ!!」
「ばくごーくん、おねがいっ」
「んな可愛く強請っても無駄だ!!」
……あっ、これはかっちゃんも酔ってる。
「うぅー…ばくごーくんのばぁか!」
「ンだとコラ襲うぞ!!」
「うるさいへたくそ!」
「ブフッッッ!!」
「っちょ!上鳴汚い!!」
「ぁあ!?俺のどこがヘタクソなんだよ!!」
「やーいへたくそー!」
「いつも俺にグズグズにされとんのはどこのどいつだクソが!!」
「ば、爆豪、そこんとこ詳しく」
「峰田ちゃんやめなさい」
「そんなことないし!ばーかばーーか!」
二人のいきなり始まる痴話喧嘩に瀬呂くんや切島くんたちは大爆笑。上鳴くんなんてお酒を吹き出して笑いすぎで涙を流しながらスマホで光景を録画している。女性陣も「もっとやれー!」と楽しそうに二人の会話を議論しているし、もう場の空気は完全に出来上がっていた。
「収集つかなくなってきたね…」
「いいんじゃねぇか、楽しそうだろ」
「いや、まぁ、それはそうだけど…」
「君たち!騒ぎすぎると店側に迷惑がかかるだらう!」
そんな飯田くんの主張虚しく、シラフの二人ならあり得ないであろう会話が飛び交った。お酒の席とは恐ろしい。酒は飲んでも飲まれるなとはきっとこのことだ。
「だいたいさ!ばくごーくんは過保護すぎなんだよ!」
「テメェ限定だこのクソ野郎!!」
「別にばくごーくんに守ってもらわなくたって自分の身くらい自分で守れる!!」
「ンなこと言って現場で男引っ掛けまくってんだろうが!!」
「ちょっと喋ったくらいでなにさ!引っ掛けるなんてしてない!!」
「肩触られて酒の席誘われてんのになにがちょっと喋ったくらいだ!!顔がいいことくらい自覚しろクソが!!」
ビッと中指を突き立てるかっちゃん。喧嘩腰だけど君達とんでもないことを言い合ってるのは自覚してるのかな?
切島くんなんて目に涙をためて笑いすぎてお腹抱えてるよ。
「ばくごーくんだって!!女の子からたくさんプレゼントもらってるじゃんか!」
「テメェとはちげーだろがぁ!!」
「いくら助けたからってお姫様抱っこって!どうなの!?いつも怖いばくごーくんがそんなことしたら!女の子誰だって好きになっちゃうよ!」
「テメェ以外の好意なんてクソくらいだわこのクソが!!」
「私だって嫌だよ!女の子の連絡先が書いてあるファンレターをお家で読むばくごーくんを見るの!!」
二人きりの時くらい私だけ見てよ!!
かっちゃんも*さんも、対人関係においては踏み込むというより一線は超えないスタンスを崩さない二人だ。だからこそお互いが本音でぶつかり合うだなんて滅多とないんだろう。
思った以上にお互いがお互いに固執しているようで、そういう意味ではお似合いカップルとしか言いようがない。
ギャンギャンと惚気なのか言い合いなのかわからないが、なかなか止まらない二人にクラスメイトの方は徐々に熱を冷ましていった。
なんだかんだで二人のことをずっと見守っていたからね。
「ほんと、良かったよなぁコイツら」
「切島、告白事件の時にドア開けたことずっと後悔してるもんな」
「あん時まじでエグかっただろ」
「*が吐くまでクラスの雰囲気最悪だったもんね」
「吐いた時の方が最悪でしたわ…」
「う…思い出しただけで吐き気が…」
「お茶子ちゃん、はい、お水」
いろんなことを乗り越えて来た二人だ。これからも二人には幸せになってもらいたい。
「私の方が好きだってば!!」
「俺の方が上に決まってんだろ!!」
…まぁ、ノロケるのはほどほどにしてほしいけど。
後日、二人の痴話喧嘩の一部がSNSに流れて、上鳴くんが爆破されたのはもう少し先のお話。