「今の季節どこでもさみぃわ」
「でも爆豪くんはモコモコだから手があったかいよ」
「テメェが冷てーだけだ」
マフラーぐるぐる巻きでコートを着てモコモコの爆豪くん。かわいいと言えばぶっ飛ばすと返ってきた。会話とは難しい。
寮を綺麗にして、みんなに最後の挨拶をしてきて数時間が経つ。みんなの泣き顔も笑顔も色濃く脳裏に浮かんでは、また泣きそうになった。
そんな私を知ってか知らずか、握られた手をぐっと引っ張られてバランスを崩した。ぐえ、とカエルが潰れたような声を出せば、バカにしたように笑われる。
「顔ぶっせ」
「言葉の暴力が一番タチ悪い」
「知るか」
散々泣いたのになぁ、なんて笑いつつ、涙も笑顔も一つとして見せなかった爆豪くんは、寮を出たあと黙って私を追いかけてきた。なんでも、この手も含めて迷子防止なのだそうで。
ツンデレにもほどがある。
ガヤガヤと当たりが騒々しい。英語やら中国語?やらいろんな言語が飛び交う中、私たちは外野から切り離されたようなそんな気分になった。
「……もうすぐ、呼ばれるかも」
「そうかよ」
ちら、とチケットと腕時計を確認した。もうあと数分で呼び出しの放送がかかるだろう。
いくら帰ってくるとは言え、最低五年は向こうにいる。帰省するなんて考えは一切ない。したらもう帰れなくなりそうだから、マルッと五年は爆豪くんとお別れだ。
そう現実を改めて見たら、どうしようもなく悲しくなって、繋がった手をぎゅっと握りしめた。
「寂しいね」
「テメェだけだ」
「それはちょっと泣いていい?」
そんなことを言いながらも手にわずかに力が込められる。肯定しているような可愛らしい返事に口元が緩んだ。締め付けられた手の感触が甘くて、嬉しくて、離したくないって想いが膨れ上がっていく。
「ねぇ」
「んだよ」
「こっち見てよ」
「キメェ」
「かっちゃん」
「ぁあ!?!?」
「あはは、顔怖い」
キモい呼び方すんな、と舌打ちをされるが、こっちを向いてくれたことには変わりない。
今がチャンス、と言わんばかりに爆豪くんの腕を引っ張ってその体に抱きついた。
ドサ、と爆豪くんの手から落ちた荷物。ピンポンパンポンと私が乗る飛行機のアナウンスがかかり、周りの人が冷やかしのような声を上げたが、何一つとして気にならなかった。
「…おい、人前だぞ」
「爆豪くん」
「テメェの乗る便の放送もかかってんぞ。早よ行けや」
「ありがとう、爆豪くん」
ぎゅ、と抱きしめる力を強くすれば、小さなため息の後に私の体が包まれた。変に涙声だったのは気のせいだ。きっと。
たくさんたくさん助けられて、支えられて、背中を押されて、守られた。何度言っても足りないくらいありがとうが溢れていって、それと同時に違う方向を向いていたもう一つの感情がまた風船みたいに膨らんでいった。
「他に言うことあんだろ」
「…恥ずかしい、」
「早よ言え、アホ*」
そう言って私の両頬を挟み、無理やり顔を爆豪くんへと向けさせられた。不意に溢れた涙が視界をクリアにした。うぅ、と抵抗する私に、爆豪くんは一言、穏やかで私の大好きな表情で言った。
「ブス顔すんな、笑ってろ」
「、好き」
「おせぇわ」
「んっ…」
重なった唇がなんて甘いんだろう。味が、じゃなくて、なんかこう、甘くて溶けちゃいそうになる。
繋がる熱が嬉しくて、悲しくて、甘酸っぱい。頭を抱きかかえる爆豪くんがゆっくりと後頭部を撫でた。
カシャ、なんてシャッター音が聞こえたけど、それすら私たちを祝福してくれているような気がして可笑しかった。
は、と唇が離れてお互い見つめ合う。
緊張のせいか、うまく息ができなくて苦しい。だめだ、好きで好きでたまらない。
「待っててね、」
「待ち殺したるわ」
「他の女の子を好きになっちゃイヤだよ」
「こっちのセリフだアホ*」
「爆豪くん」
「んだよ」
「…だいすき」
そう涙を流せば、わかってると言いたげな表情で涙を拭ってくれた。あの四月に、爆豪くんが私を見つけてくれなければ、こんな幸せは知らなかっただろう。爆豪くんと過ごした一年は、これからもずっと、私の大切な思い出だ。