December

「ゲホッ…ん゛ッ…おえ…ッ」

放課後、みんながまだ帰りたくなさそうにおしゃべりをしているのをさりげなく抜け、女子トイレに駆け込んでは便器の中に血を吐きまくった。咳とともに喀出された真っ赤な血液が視界に入ると、いやが応にも自身の死を強く感じてしまう。

(くすり、)

震える手でポケットに手を突っ込み、即効性の高い舌下錠を舌の裏に置いて口を閉じた。
迫り上がる嘔吐感を抑えようと胸を強く掴む。気管をこえてきたもののせいで口の中が鉄の味だ。気持ち悪いけど、薬があるから吐き出せずに無理やり飲み込んだ。
生暖かいものが喉元を通り過ぎると、その気持ち悪さからまた今度は胃から何かを吐きそうになる。

(いたい、くるしい、きもちわるい、いやだ、しにたくない、)

誰か助けてなんて、心の中でつぶやいたところで誰も来ないのはわかっているのに、助けを求めてしまうのはなんでだろう。

ポロ、と涙が一筋頬を伝った。もっと早くに病院に行ってれば、潔く雄英を辞めてれば、ヒーローを目指さなければ、あの時私が捕まっていなければ、こんな苦しい目に合うことはなかったのに。
ありもしないたらればを述べてしまうほどには心が弱っていた。もうどうしようもなく苦しくて、辛い。でも一層のこと死んでしまえば、なんて思わない。とにかく楽になりたくて、でも生きたくて、汚い感情が心の中で蠢く。

(全部、自業自得だ)

ゆっくり深呼吸をすれば、薬が効いてきたのか、さっきよりも幾分痛みも嘔吐感もましになった気がする。
ふぅ、と体の力を抜けば、肌が水滴を作るほど冷や汗をかいていた。演習後だし、暑かったといえばきっとバレないだろう。

口についた血をぬぐい、血塗れのトイレを水で流した。ドアを背もたれに立ち上がると、血を吐きすぎて貧血になったのか、頭が少しばかりふわりと浮いた。
それが収まるまで目を瞑る。瞼の裏に映ったのはおかしな事に、クラスメイトと笑いながら過ごす日常だった。それがまるで走馬灯みたいで、余計に情けなくなる。

(行かなきゃ、)

倦怠感を抱えつつ、握りしめて汗がついた薬の銀のゴミをナプキン入れに放り込んだ。

バシャバシャと血がついた手を入念に洗いながら鏡を見れば、お世辞にも顔色がいいとは言えないやつれた顔が映っていた。こんな顔じゃ、爆豪くんがブスだと言うのも大いに納得できる。
ふと頭に浮かんだ暴言を吐く彼が今じゃ私の日常で、なんだかクスクスと笑みがこぼれた。

教室に戻れば、まだほとんどの生徒が帰っていないみたいで普段となんら変わらない様子で盛り上がっていた。

「*〜!おっそいよ〜」

「ごめんごめん、ちょっと遅くなっちゃった」

「なんか顔色悪くねぇか?大丈夫か?」

「いや〜、ちょっと腹痛でね。でも大丈夫だよ切島くん」

「トイレ…腹痛…ハッまさか*、せいっぐふぅ…!」

「峰田サイテー」

「デリカシーがなさすぎるわね」

「あはは…ちなみに違うからね…」

三奈に鉄拳制裁された峰田くんはさて置き、「なんの話してたのー」と聞けばなんとみんなで恋話をしていたとかなんとか。

ちら、と辺りを見渡せば、会話に入ってるのは女子全員と上鳴くん、切島くん、瀬呂くん、峰田くんだった。普通に遊ぶ分には楽しいけど、この人数で恋バナは違う。割と多いし、近くに轟くんもいる。これは、早々に抜けた方がいいな、そう思っていた時だった。

「*、爆豪と付き合ってるってほんとか?」

「ん゛ぶふっ!?」

喉の奥から変な声が出た。
反射的に咳き込めば、「動揺しすぎ」と三奈に笑われる。いや、これはその、違うくて。

「いきなりなに!?上鳴くん!!付き合ってないよ!!」

「でもあんだけ一緒にいて、」

「たまたまだから!!!」

「文化祭もいちゃついてただろ?」

「ついてない……!!」

はぁ、はぁ、と肩を震わせて否定した。
全くもう、この年の若いもんは少し一緒にいただけですぐカップルと言い出す。「とにかく違います」と今度は冷静に返した。

「でも、爆豪くんがあんだけ構うのって*ちゃんしかおらんくない?」

「馬鹿にされてるだけですー」

「でもさ、あの爆豪が、女子に喋りかけて髪の毛いじってしかも代わりに働くなんてあるか?普通」

「切島くんの知らないところでしてるんじゃないのー」

「いーや!!絶対ない!!」

「*は、爆豪のことどう思ってるの?」

耳郎の質問に、一瞬だけ呼吸が止まる。でもあとは普通に、「どうって?」とトボけたように返した。

「*的に、爆豪はあり?なし?」

キッツい質問がきた。黙秘権を使いたいけど、使ったら使ったでありだと判断されるんだろう。
なら堂々となしだよと言えばいいのでは、そう思うのにそれをさせてくれない私の口が恨めしい。あんな優しい人がなしなんてそれこそなしだ。さて、どう答えようか。

「えー、他のみんなはどう?だってあの爆豪くんが恋愛だよ?ぜんっぜん想像できないじゃん!」

「まぁ確かになぁ〜」

「恋愛に不器用そうなイメージだからなぁ」

「うっせー黙れクソカス共」

「いっっった!!!」

ゴンッ!!
頭に強い衝撃を受けてはしゃがんで後頭部を押さえた。容赦のなさすぎるこの痛みはお得意の右の大振りとみた。
うわぁ、とドン引きするみんなを他所に、爆豪くんは「本人のいねぇとこでなに話してんだ」と至極まともなことを言った。うん、これは、私は完全に不可抗力だけどごめんなさい。

「爆豪、後輩の話終わったんか?」

「終わってなかったら教室来ねぇわ」

「それもそうか!」

「いや、寛大な心か」

「黙れクソブスモブ酸素」

「うわー久し振りに聞いたその呼び方」

切島くんの寛大な心に感動しつつ、安定の口の悪さの爆豪くんに思わず苦笑いだ。ひでぇと相変わらず笑う上鳴くんにキッと睨みを効かせるが彼には効かないらしい。

「なぁ」

そんな、恋愛から話題が外れて良かったと安心していた時だった。聞こえた低い声に心臓がドキッと音を立てた。
そこに立っていたのは、クラス1のイケメンと称される私の思い人の轟くんが。
イケメンかつ強個性かつ成績優秀で家もお金待ちで不思議キャラに天然要素を付け加えた非の打ち所がない彼が、どうして今のタイミングで話しかけてきたのだろうか。多分みんなもそんな思いなのか、じっと黙って轟くんを見ていた。

「どうしましたか?轟さん」

「爆豪と*って付き合ってんのか?」

ちょっ待っ、なんで今その話!?!?

じっと私を見つめてる轟くんに私の心中は穏やかでない。いやもう心の中に台風が住み着いてるくらい穏やかでない。

「あ?ねぇわこんなブス」

「そうか、良かった」

「良かった!?」

爆豪くんが悪口付きで否定してくれたが、三奈の驚くような声に私も全く同じ気持ちだった。
待って、本当に待って、良かったって何が!?どうしたのこの天然王子!!?

「修羅場か?オイラ達出てった方がいいか?」

「待って、出て行かないで峰田くん」

「良かったって、なにがだ?轟…」

恐る恐ると言ったように聞いてくれた上鳴くんに心の中のイイネボタンを連打したいが、クラス中の興味がこの轟くんに向いている中でそんな余裕はなかった。
シン…と静まり返る教室の興味は、次の轟くんの発言に向いていた。

「俺と*、将来チーム組むかも知れねぇから、もしそうなったら爆豪の許可がいるなって思って」

「待って轟くん、いや、今その話はちが、」

えぇぇぇ!?!?
声に圧倒されて半歩下がった。話を聞いていた人たちのほとんどが叫んだのだから仕方ないっちゃ仕方ない。

「どっ、どどどどういうこと!?!?」

「はっ吐くっ、待って三奈吐くからっ、!」

三奈にガクガクと肩を揺さぶられる。振り回される頭はまた嘔吐中枢を容易に刺激した。

「なんで*も驚いてんだ?この前聞いたらいいっつってただろ?」

「いいって言った!?」

「言ったぞ。忘れたのか?」

待って、全然覚えてない。きっと一緒に帰った日のことだろうけど、そんなはっきりと返事をしただろうか、あの時の私。

「ふ、2人してそんな話ししてたん…?」

「あぁ。親父も*のこと気に入ってるからな」

「エンデヴァーも公認なんかい…!!」

私たちヒーロー志望にとって、将来的なチームアップはかなり重要な問題だ。それで結婚するヒーローも少なくない、いやむしろ多い。だからこそ、この轟くんの発言はものすごーく重大なことなのだ。

「い、いやぁ、でも先のことはさ、わかんないし、」

「*以上に個性の相性いい奴が見つからねぇ」

「でもお前ら2人とも個性強ぇだろ?別にタッグ組む必要もなくねぇか?」

「この前チームアップして思った。*がいてくれたら助かる。個性使いこなしてる*じゃなきゃダメだ」

「お、おぅふ…」

私の心はすでにお腹いっぱいいっぱいです。心なのかお腹なのかはまぁ置いといて。
もうこれ、プロポーズじゃない?と他人事のように考えてはこんな素敵な言葉を受け止めきれず思考が彷徨う。「個性」って言葉がなかったら完全にプロポーズだからね?

「轟、そろそろやめたげて。*が別の世界に行ってる」

「*ちゃん生きとる?」

「イケメンってだけで犯罪」

「落ち着け」

やっぱ顔か…と落胆する峰田くんと上鳴くん。ははは、と上辺だけで笑った。いや、本当に、思考が今まともじゃないんです。

「…こんな没個性をよく使おうと思うな」

「*の個性は強いぞ」

「どこがだよ」

「お前だって、*と組むと火力上がるだろ」

「こんな没個性利用しなくても十分だわ」

「……やっぱ俺ら出て行く?出て行くべきか?」

「ねぇ梅雨ちゃん、ここは私のために争わないでって言うべき?」

「*ちゃん、落ち着きましょう」

爆豪くんからのdisはすごいけど、そんなのもう他所でやってくれと言う気持ちでいっぱいいっぱいだ。褒めてくれる轟くん、ありがとう。でもちょっと買い被りすぎじゃあないだろうか。

バチ、と空気を鋭くする2人に教室は凍りつく。それの原因が私だなんて考えたくもない。て言うか私、何もしてない。

その時、教室のドアがそこそこの勢いで開かれた。
2人の攻防を見ることしかできない私たちの救世主、相澤先生だった。

「お前ら何時までいるつもりだ。早く帰れ」

「…チッ、」

「……お先帰ります!!!!」

「えっ、あ、ちょ、*!?」

「逃げやがった…!!」

もうこのタイミングを逃したら次はない。鞄をひっつかんで先生の横をダッシュで通り過ぎた。後方では私を呼ぶ声がするが全て無視だ。
もう頭はキャパオーバー。

実家に帰らさせていただきます、と言ったあの時の去り方と同様に、個性を使ってそそくさと寮に帰った。


「爆豪先輩」


しかしその足は、1つの単語で止まることになる。
はた、と止めた足は玄関前。聞こえた声はやけに可愛らしくて、少し涙を含んでいるようだった。

「彼女さんいたのかなぁ…」

「俺の情報では彼女はいねぇっつってたんだけどなぁ…」

「文化祭で回ってた女の先輩、あの人は本当に違うの?」

「違うって否定されたよ、ものすごい剣幕で」

私だ。きっと、文化祭で爆豪くんと回ってたのは切島くんたちか私しかいない。

思わぬ登場人物に、反射的に身を隠して聞き耳を立てた。なんてひどい先輩なんだと言っても自分が登場したならば気になって仕方ない。

「ごめんね、呼び出してもらっちゃって…」

「いいっていいって!お前1人じゃあのヒーロー科に行くなんて無理だろ?」

「元気出して、それにほら、まだ好きでいていいって言われたんでしょ?これからだよ」

「うん…っ、爆豪先輩にちゃんと見てもらえるように、頑張らなきゃ、」

下駄箱で聞こえた、男女の会話。
頑張ると言ったのは、可愛らしい女の子の声だった。
ドク、ドク、と心臓が脈打つ。
会話を聞けば、想像しなくてもわかる。爆豪くんに、告白したんだ。

「あんたミスコンで学年二位なんだから、きっと爆豪先輩もあんたの魅力に気づいてくれるよ」

「もう、それ恥ずかしいからやめてって…」

そう言えば、今年の一年はレベルが高いって峰田くんたちが騒いでいたなぁ。そんな他人事のように考えた。そうか、爆豪くんに告白したの、そんなにかわいい女の子だったんだ。

だめじゃん爆豪くん。そんなヴィラン顔なのに、好きって言ってくれる人数少ないよ?せっかくのチャンスは大切にしないとだめじゃん。ほんと馬鹿だなぁ。

ズキ…ッ

(…痛い、)

薬は飲んだのに、どうしてだろう、胸が苦しくて、痛い。


:
:


── 爆豪と*って付き合ってんのか?

舐めプ野郎のあの言葉を思い返しては無性に腹が立った。
なんでテメェは気付かねぇんだ。なにがあのクソ酸素が個性を使いこなしてるだ。個性に弄ばれてるって方が正しいくらい体ぶっ壊してるじゃねぇか。あんだけテメェのこと見てるのに、なんで視線1つ気付かねぇんだ。
なんであいつのこと何も知らねぇくせに、あいつを取ろうとするんだ。

うぜぇ
気持ち悪ぃ
ムカつく

あの女に対しての同情もあった。
近いうちに消える可能性がある奴に、最後の思い出くらいはなんて思いだった。だから文化祭も、俺らしくもなく色々してやったのに、何一つあの野郎が気付かねぇなんて馬鹿げてるにもほどがある。

(俺のやり損かよ)

あーうぜぇ。
あの野郎に向ける視線がやけに眩しくて、鬱陶しくて、なのにそれから目が離せない。

── 爆豪くんは、好きな人いるの?

夕焼けに染まった穏やかな瞳

── ど、どきどき、するから、やめて…っ、

困り顔で真っ赤に染まった頬

── ありがと、魔法使いさん!

俺に向けられた、胸糞悪いくらい眩しい笑顔

なんで、あいつの顔ばっか頭ん中を過んだよ。女子力も皆無で大雑把で自分の身の回りのこともできやしねぇ。おまけに無駄なプライドのせいで隠し事作って全部誤魔化して、本当は限界のはずなのにヘラヘラして。どうあっても悪口しか出てこない。
長所をあげるとしたら有用性がある個性ってことだけだ。

「…クソが」

こんな嫌な気持ちの時は走るに限る。
早速ランニングウェアに着替えてスマホとイヤホンとペットボトルを持って玄関を出た。

時計は7時を示していた。


:
:


「あれ?爆豪くん?」

「…チッ」

「いや、会って早々舌打ちって…」

最悪だ。
せっかくランニングから帰って少しはリフレッシュしたと思ったのに、玄関から中に入れば俺の気分を害する奴No.2のお出ましだ。こんな不運なことがあるか。

「んだよ、用もねぇのに話しかけんなクソが」

「えぇ…そこはクラスメイトの交流としていいでしょ…」

「うぜぇ、失せろ」

「…放課後のこと、気にしてるの?」

思わず体が止まった。
違う。気にしてなんかない。あんなことなんとも思ってねぇ。
そう否定しようと振り向けば、そこには顔を真っ青にして冷や汗をかいた、いかにも体調不良そうな女がいた。

この顔を知っている。血反吐吐きまくって作用のきつい頓服薬を飲んだ時の顔だ。それも、今日で2回目。

「…テメェ、また吐いたんか」

「え?なんで?」

壁にもたれかかる女があまりに弱っちくて見ていられない。
トボけたような声を出して、いかにも空元気に振る舞おうとする女に苛立ちが募った。

「んだよその顔、死人みてぇじゃねーか」

病人は休んでろ。そう言って水でも入れてやろうとキッチンに向かった時、また明るい声が返ってきた。それも、笑い声とともに。

「、えー、大丈夫だよ!なんてことないって〜」

「は?」

ぐしゃ、とペットボトルが潰れた。
また、ヘラヘラとした気持ち悪い顔だった。

「最近は全然元気だよ!症状も安定してるし、もう爆豪くんが気にするほどじゃないから安心してね」

「テメェさっきから何言ってんだ」

「あ、あと放課後のことだけど、ごめんね?なんか勘違いされちゃってたね。ちゃんとみんなには違うって言ったんだけどさぁ、まさか轟くんも勘違いするなんて思わなかったよ」

ツラツラと1人勝手に喋り出す女。いつも勝手に喋っててうぜぇけど、今日はいつもの何倍もうざったくて仕方なかった。

「今までごめんね、たくさん迷惑かけて。でも私、もう大丈夫だよ。爆豪くんに助けてもらわなくても、ちゃんと自分でできるから」

一体こいつは、なにを言ってるのか。

「たくさん巻き込んで、ごめんね。これからは、もう私のことは気にしなくていいよ」

ドンッ…
鈍い音が響く。女が震えたくらいだから、相当の音だった。
気がつけば、女の手首を握りしめてその顔の横に勢いよく手をついていた。やけに小さい頭が俺を見上げる。それでもなお平静を装うとする態度に目つきが鋭くなるのを感じた。

「…どういうつもりだ」

「、どうって?」

「テメェの話が読めねー。なに考えてんだクソ酸素」

握りつぶす勢いでつかんだ手首は病弱なまでに細かった。このまま折ってやろうかとすら考えてしまうほど、腹の底から怒りと苛立ちが募りに募っていた。

「、今まで、たくさん迷惑かけてごめん。散々巻き込んだけど…これからはちゃんと爆豪くんを頼らないようにするから」

泣いてるようなか細い声。表情は依然変わらず口角が上がっているが、感情と言葉が全く伴っていないようだった。

「もうさ、私から解放されて、お願い」

『カイホウ』ってなんだ。
まるで俺がお前に捕らえられていたみてぇじゃねーか。ざけんなよ、全部全部、俺は俺の意思で動いたことしかねぇわ。勝手にテメェのために俺が動いたなんて解釈やめろや。

そう言ってやろうとしたのに、発せられた言葉が思っていたよりも衝撃が強かったのか、うまく言葉が出なかった。

「、アイツんとこ行くんか」

それどころか、全く思ってもいなかった言葉がいとも簡単に口から飛び出た。

「あいつって…?」

「あんなテメェのことなんも知らねぇような奴んとこ行って、俺が見てねぇところで死ぬつもりなんか」

何を言ってるんだ俺は。
支離滅裂な言葉ばかりが声になる。うまく考えがまとまらない。
困惑しているのはテメェだけじゃねーんだ、そんな顔やめろや。

「待って、爆豪くん、なんのこと、」

「何が大丈夫だよ、なにが症状が安定してるだよ、そんな真っ青な顔で、さっきまで血反吐吐いてたくせに、散々俺の前で死にそうになってたくせに、ッなに今更デタラメ言ってんだ!!!」

「っ、!」

胸倉を掴んで引き寄せた。怯えた目がまた苛立ちを募らせる。

クソ、クソ、全部が全部胸糞悪ぃ。

なんも知らねぇ半分野郎も、そのくせコイツを連れて行こうとする行動も、クソ下手くそな嘘で取り取り繕うとするコイツも、俺から離れようとするコイツも、何もかもが気に食わねぇ。

「テメェが顔真っ青でいんのになんも気づかねぇ野郎んとこ行って、テメェはテメェでクソウゼェ顔で取り繕って、んなことしてたら死ぬぞ!!!」

「か、隠してるんだから仕方ないじゃん…それに爆豪くんには関係ないよ、」

「何が関係ねぇだよ!!散々人をここまで巻き込みやがって!!そのくせ自分の望み叶ったらポイか?人を舐めんのもいい加減にしろよクソが!!!」

「っ、そんなこと思ってない!!」

「じゃあなんでンなくだらねぇこと言ってんだ!!!」

「私といたら爆豪くんずっと幸せになれないじゃん!!!」

「っンなことテメェが決めんな!!!」

「私が枷になってるんでしょ!?だから告白だって受けなかったんじゃないの!?」

「自惚れんな!!!さっきから何度も言ってんだろ!!!俺は俺の意思でお前んとこいるんだよ!!!」

「だから同情とかそんなの、」


ガチャ…

「おーい、爆豪何騒いで、」


「ちげぇわ!!!テメェが好きだからいるんだろうが!!!」

「…っ、ぇ、」

「あんな半分野郎を想うのなんかやめて俺にしろや!!!」

その言葉を最後に静まり返った寮。目を見開いて動きを止めた女が困惑しているのは容易に想像がついた。

後方からは何人かが途中から見ていたようで、思いもしなかったことを言った自分にも、見られていたことにもムカついて小さく舌打ちをついて女の手を解放させた。

「ま、まって、爆豪くん、なんで、そんなの聞いて、」

ズルズルとしゃがみこむ女に見向きもせず、無言でエレベーターの方に向かった。泣いているような声が耳にこびりつく。クソうぜぇ。

「コレ、ヤバイ感じ…?」

「俺をおもう…?」

「*って、轟のことが好きだったの…?」

「いやそれより、爆豪…、」

アホ面、半分野郎、ピンク、クソ髪がかろうじて声を出す中、クソナードが小さな声で俺の名前を呼んだ。でもそれどころじゃなくて、爆破も何もせず一人でエレベーターに乗り込んだ。
「待って」「うそ」「なんで」と声を出す女にまた腹が立つ。
うるせぇ、俺だって理解不能だわ。

ガチャン…と締まったエレベーター。
クソダセェ、と自嘲した。無駄に、泣きたくなった。

先は知らないの国へ



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