01記念すべき度目の惚れなおし

「ふ、ふおっ、ふおぉぉぉ!!すごいねみっちゃん!!」
「あんたが不器用すぎんのよ」
「あいたっ」

教室中がそわそわしているのは、今日が待ちに待った球技大会の日だから。及川くんに会えるかもしれないし、気合い入れよう!と朝から最近買ったヘアアイロンたるものを使ってみた。髪の毛が爆発した。

「朝の*の髪型めっちゃ笑った」
「サザエさんかと思ったよ」
「正直自分でも笑った」

って事でヘアアレンジが得意なみっちゃんにいそいそと可愛くしてもらったのだ。ちなみにメイクはまだできないから自分で買ったメイクセットをこれまたメイクの達人であるのんちゃんにしてもらった。至れり尽くせりだ。

「にしてもあんたほんと化粧映えするわね」
「肌めっちゃ綺麗だし」
「いやぁ、今までメイクしたことなかったからさぁ」
「化粧水どこの使ってるのー?」
「なんかハトムギって書いてた。お母さんの」

女子っぽい。会話がめっちゃ女子。てかみんなが優しすぎる。嬉しくて*泣いちゃう。

「てかあんた、ガチで可愛くなろうプロジェクトしてんのね」
「おうよ!女に二言はねぇからな!」
「発言が男らしすぎるわ」
「おい*、このケーキ何入ってやがんだ、くそあめぇ砂糖の塊が出てきたんだけどよ」
「え、普通に角砂糖だけど……」
「そこ普通の砂糖だろ!!」
「いや、岩泉何食べてんの」

顔を歪ませながらマフィンを片手にやってきた岩泉。女子力といえば料理、そう至った私はせかせかとお菓子作りに励んでいるのだ。ちなみに今回は初回で岩泉は味見役。

「岩泉に味見してもらってるのー」
「毒味の間違いだ」
「いやそれ酷くない?」
「待って、*角砂糖いれたの?なんで?めちゃくちゃ笑えるんだけど」
「お砂糖それしかなかった〜」
「ちょ、せめて頑張って溶かせよ」

クラスメイトが各々笑っている。男子がふざけて「岩泉、一口くれ」なんて言ったが、岩泉は「死ぬぞ」とだけ返事をして残りを一口で頬張った。いや、めちゃくちゃ酷くない?

「うへぇ……あめぇ……」
「全然膨らまなかったのはそれが原因か……」
「ちょっとコーヒー買ってくる……」

ゲラゲラ笑うクラスメイトをよそに、かなり顔を歪ませる岩泉。自分で味見した時はちょうど角砂糖がなかった部分だったらしい。申し訳ないことをした。やっぱり、慣れないことはするもんじゃないな。

その後を追いかけるように財布を持って教室をそっと抜けた。せめてものお詫びだ。コーヒーくらいは奢らさせてもらおう。

「岩泉!」
「あ?どうした*」
「あ、いや、あのー、さ、」
「? あ、おい、」

岩泉が自販機に小銭を入れる寸前で投入口を手でガードした。怯む岩泉を放っておいて、すかさず自分の財布から500円玉を取り出して投入する。

「……ごめん、お詫びに奢らせて」
「いや、なんのだよ」
「いやぁ、まずいもの食べさせちゃったし、そのお詫び的な?」
「は?」

やっぱりうまくいかない。髪の毛も化粧もお菓子作りも、何もかもうまくいかないし似合わない。さっきの岩泉の顔が頭をよぎった。こんなことになるんだったら、作らなかったらよかったし、その方が岩泉も嫌な気持ちにならなかったのに。

「えっと、ごめんね?やっぱ慣れないことはするもんじゃないね!あはは……、」
「……*、別に俺は、」
「あ、どれにする?角砂糖まるまる食べたんならやっぱ無糖がいい?てか岩泉ってブラック飲める?私全然飲めなくてさ〜、なんかこう、飲めるように練習はしてるんだけどやっぱ一口で無理っていうかさー、」

恥ずかしい。できない自分を晒すのなんて、別に平気だと思ってたけど、やっぱ結構きつい。ズキズキと手が痛む。あーあ、球技大会前にやんなきゃよかった。
顔が熱くなって、なんか息苦しくなった時、ポコ、と頭に拳が乗った。

「馬鹿か」
「うっ、…え、あの、」
「初めてだったんだろ?」
「…………うん、」
「ならうまくいかなくて当たり前だろ」

ガシャン、とおつりのレバーを押した岩泉が、自分の財布からちゃりんちゃりんと400円を投入した。

「好きなの選べ」
「い、いや、いいよ!あんなの食べさせちゃって申し訳ないし私が奢るよ!」
「朝飯足りてなかったんだ、俺としてはありがたかったからその礼だ」
「いや、だって、まずいし、むしろ不快になっただろうし、」
「……死ぬほど甘かったけど、別に全部が全部まずかったなんて思ってねーよ」

気を遣わせてしまっている。申し訳ないのに、岩泉が言うから甘えてしまう。

「……そんなお世辞、らしくないよ、」
「わぁったから早く選べ。……次は期待してんぞ」
「! 次も…作っていいの?」
「おー。………他の奴には渡すなよ」
「そうする……岩泉ならまだしも、みんなの胃が心配だし……」
「……腕、大丈夫か?」
「うん、火傷しちゃったけど、大会には問題ないよ」
「あんま、無理すんなよ」
「うん。ありがとう」

この優しさにずっと甘えてしまっている。オレンジジュースがいい、と言ったら迷いなくそのボタンを押した。ガコンと取り出し口から出てきた缶のそれを手渡されれば火傷した指先がちょうどよく冷えた。
岩泉は、微糖のコーヒーを買っていた。

「ありがとう、岩泉。」
「……優勝すっぞ、男女ともにな」
「うん」

喉を通ったオレンジは、なんだか青春の味がした。
- 6 -

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -