01二人きりがいいの、ほうっておいて

「なぁ」
「あ?」
「あそこにいんの、*ちゃんじゃね?」
「は?」

土曜の夕方部活終わり、花巻と二人でなんかねーかな、と買う気もなくでかいショッピングモールのスポーツショップに足を運んだ帰り道、花巻が指をさした方向、女向けの服が売ってる店にいたのは紛れもなく同じクラスの**だった。なにしてんだ、と言うのは愚問で、顔は見えないがなにやらクルクルと回っていた。

「おー、そうだな」
「買い物か〜。行かなくていいのか?」
「は?なんで俺が」
「え、だってそりゃ、」

パチパチと目を瞬かせ、俺の方を不思議そうに見つめる花巻に俺も同様の顔をした。もしかしたら友人と来ているかもしれないのに、俺が行く意味が見当たらない。

「……………クラスメイトだろ?声くらいかけに行ってみれば?」
「……それもそうか」

前半の間が少し引っかかったが、まぁクラスメイトだしな、そうだよな、と自分に言い聞かせるように鞄を背負い直した。

「行くか」
「え、俺も?」
「声かけるだけだろ、行くぞ」
「……おう」

なんとなく一人であの店に向かうのは気恥ずかしいから花巻も巻き込んだ。それにしても、休日に会えるとは。まぁ別に、あいつがなにしようと勝手だけど、まぁあれだ、ラッキー、みたいな。って俺は乙女か。キメェ。

「*」
「っ!? あ、え、あ、いわいずみ?」

ワンピースがかかったハンガーを片手ずつ持つ*に声をかければ、驚いた様子で目をパチクリさせていた。私服はグレーのパーカーにジーンズと随分*らしい女っぽさのかけらもない格好だ。

「な、なんでこんなとこに、」
「スポーツショップ見てた」
「へ、へぇ〜、そうなんだ……、」

なぜか戸惑っている*に首を傾げた。そしたら*がそそくさと服を元に戻し、店を出て来た。

「? 買わねーのか?」
「み、見てただけだから!あはは、」

いつもとは比べ物にならないくらい元気がない。なんかあったのかと心配になるほどだ。

「えっと、男バレの花巻くんだよね?」
「え?あ、おう」
「どうもー、花巻でーす」
「あ、どうも、*です」

どうしたどうした。いつもそんなしおらしい奴じゃねーだろ。なんでそんなビビってる態度なんだ。

「お前、こういう店来るんだな」
「えっ、あー、……まぁ、来たことそんなないよ?私オシャレとか気にしたことないし、あんまこういうかわいいの似合わないしさ!まぁ、馬子にも衣装的なのになるかなぁ、みたいな?」
「ま、お前クラスの集まりもジャージとかだもんな」
「えー、チャレンジしてみれば?案外似合うかもよ?」
「う、うーん、どうしよっかなぁ、」

ちら、となぜか俺に視線を向けた*。それがなにを意味するのかさっぱりで、ただその視線をそのまま見つめ返した。

「……似合うのわかんないし、今度にしよっかな、」
「別に服なんて何着ても同じだろ、お前もこの前言ってたし」
「…………お前……まじか……」
「は?」
「そ、そーだよね!まぁ変わんないだろうし、うん、やっぱやめとくね」

あ、お手洗いちょっと行ってくるから、また学校でね、とさもこの場から離れる言い訳を作っているような*になんかまずいこと言ったかもしれないと今更ながら後悔した。パタパタと走って行く後ろ姿をぼんやり見ていたら、横から花巻が俺の足を蹴った。

「って!」
「お前あれはないだろ……」
「は?なんだよ」
「どう見たって女の子らしい服を買いたがってるけど悩んでた顔だろ、あれ」
「いやどう見ても買う気なかっただろ」
「…………お前、もうちょっと女心考えろよ……」

仮にも好きな子だろ?
そんな爆弾発言をさらっと言いのけた花巻にギョッと目を見開いた。

「っは、はぁ!?何言ってんだんなわけねーだろ!!」
「へー、否定するんだな」
「あ、当たり前だろ」
「俺、及川ほどじゃねーけど、そこそこ恋愛経験あるから相談乗れるかもよ?」

ニヤ、と笑った花巻にうっと言葉が詰まった。誰にも打ち明けていなかった自分の心の内。そりゃそうだ、好きな奴が及川を好きなんで、誰に相談できるんだ。

「…………あいつの好きな奴、知ってんのかよ、」
「この前部活終わりに及川に詰め寄ってたろ、『もっとなんか言い方あっただろ』って。それにあの子割と目立つし、学年中が知ってんじゃね?」

それを知ってなお、俺の相談に乗るってなら飛んだ馬鹿野郎だ。どう考えても恋愛事に関しては何枚も上手な及川が好きなんじゃ、俺が入る隙なんて微塵もねぇし、本人もまだ好きらしいし。

「……………………」
「別に無理に言えってわけじゃねーし、お前があの子と付き合う気ないのはわかってるけど誰にも相談できねーのはなんか、アレだろ?」
「あれってなんだよ」
「わかんね。そのーなんか、なんてんだ、結構キツイだろ」

今まで、何かと相談事は成り行きで及川にすることがほとんどだった。俺の不調をいち早く察知するあいつは割と真面目に悩みの捌け口になってくれていた。でも今回は事情が事情だ。あいつに言えるわけもないから、花巻の言う通り誰にも相談してこなかった。

「………………お前、案外お人好しなんだな」
「花巻くんは最高に優しいですから」
「っぶは!なんだよそれ初耳だわ」

ニヤつく花巻に笑っていたら、「話はまぁ後で、」となぜか笑える空気は無くなって、やけに真剣な顔で俺の両肩を持った。

「とりあえず、*ちゃん探しに行け」
「は?なんでだよ」
「ワンピース、どう見ても欲しがってたから」
「はぁ?」
「今までかわいいのとか意識したことなかったから買う勇気なかったんだろ、お前の一押しがあったら絶対買う」
「別に服なんてなんでもいいだろ、本人には変わりねーんだから」
「変わるから言ってんの!!それに、お前が選んだワンピース着てるの見たくね?」
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