01信じたい愛なんてひとつあればいい

「ごめん、無理」

ガラガラと崩れた私の(心の中の)足元。そんな振り方があるだろうか。好きだと言われた及川徹はフワフワと綺麗に決まった髪の毛を風になびかせてそれだけ言ったらその場を去っていった。
無理って、無理ってそんな、

「そんな言い方する!?」
「いきなり騒ぐなうっせー」
「いてっ」

ゴツ、と頭に拳をぶつけたのは私が好きな及川徹、の幼馴染の岩泉一。女に向かって拳をぶつけるとはなんたる所業。

「女に手を挙げるなんて……!!」
「俺の目の前に女はいねーよ」
「うるっせー!女子力皆無で悪かったな!!」

一年、二年と同じクラスで私の良き相談相手だ(一方的にそう思っている)。何より公平に物事を見る感じは本当にいい。しかも及川くんのことを及川くん以上に知っていると言っても過言じゃない(と言ったらぶん殴られる)。いい奴で好きな人のことをよく知っている、これほど私の相談相手にぴったりなのは他にいないだろう。

「大体テメーその格好で行ったんだろ」
「うっ」
「ただでさえガサツで口も悪いのに髪はボサボサ、化粧もしてねー、シャツにシワ寄ってるしブレザーは染み付いてる」
「え、うそどこ」
「及川の元カノ見たろ、お前と真反対だよ」

そ、そこまで言わなくても、と言いたいが、全部正しい。全部正しい分余計に心に響く。響くどころかガラスのハートを金槌で叩きまくられてる。粉々だ。

「HP0だからもう許して」
「俺は最初から無理だっつってただろ」
「そーだけどさー、」

これでも、あの後ちょっとは泣いた。いっちょまえに恋して、それからこっ酷く失恋したんだ。まぁ涙が出た時は(普通に人の心あったんだ)なんて場違いなこと思ったけど。

「好きだったんだもん、気持ち伝えたいじゃん」
「……その積極性を自分磨きに向けろっつってんだよ」

ドン引きするような目にグサッと弓矢で射抜かれたような痛みを感じた。あ、ちょっと泣きそう。

「まぁ、振られるのはわかってたけどさ」
「やってみなきゃわからないっつってたのはどうした」
「意地に決まってるじゃんかー」

及川くんの元カノさんたちは、みんなみんなかわいい綺麗の代名詞みたいな子ばっかだった。クラスで噂になるかわいい子は大体及川くんの元カノだと言ってもあながち間違いではない(はず)。
そんな子たちと同じ土俵にまず立てるはずがないのだ。

岩泉の前で安心しているのか、滅多にない意気消沈モードに本当に泣きそうになる。けど泣くのは嫌だから眉間にグッとシワを寄せて我慢した。

「…………おら」
「え、なにこれ」
「慰め品」

がさ、と机に置かれたのはコンビニの袋に入ったカップ麺とか、チーズケーキとか、とにかく私が好きな食べ物たちだった。

「それ食って元気出せ」

そうだ、この男はこういうところがあるのだ。無愛想な態度をしながらも、面倒見が良くて、何より優しい。

「いっ、いばいずび〜〜っ、!!」
「は、ちょ、泣いてんじゃねぇ!!」
「むりっ、やさしすぎ、ばか、あほ、いしあたま、」
「最初以外悪口じゃねぇか!!!」

びえーん、とクラス中の視線を集めながら大泣きすれば、ケラケラ笑ってくれるクラスメイト。今はそれがありがたい。失恋ドンマーイと軽口叩いてくれるみんなが好きだ。もう大好き愛してる。

「このクラスと結婚する」
「寝言は寝て言え」
「俺は無理」
「私もレズじゃないから」
「てか*最近太ったろ」
「顔丸くなったよね」
「んだとこのやろ!離婚だ離婚!!」
「そもそも誰も結婚すらしてねーだろ」

ドッと賑わうクラスにつられるように笑った。容赦ないことは言うが、なんだかんだでみんな優しい。恋人には恵まれないが、友達にはこれでもかってほど恵まれている。

「つーか岩泉、ラーメンとチーズケーキとかやべーな」
「養豚に勤しんでんだ」
「誰がブタだ!!」

普段とは考えられないほどの(主に岩泉からの)暴言に逆に心が折れそうになった。ひでーなこんにゃろめ。まぁ、こういう気の遣い方はクラスの空気を壊さないから助かるんだけどさ。

「おい、失恋した**」
「え?岩泉その呼び方倫理的にどうなの?」
「作戦Bな」
「!」

懐かしの単語に耳が反応した。コク、と首を上下に振ったらちょうど良く朝礼のチャイムが鳴った。何するんだろう、と疑問を持ちつつ席に戻れば、ちょうど担任が教室に入ってくるのをのんびり見つめた。
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