03記念すべき度目の惚れなおし

「はい、おしまい」
「ありがとのんちゃん!」
「女子惜しかったな〜」
「相手5人中4人が経験者でしょ?普通に無理だったよ」
「でも割といい試合だったよね!」
「男子はもう最高だった!さっすが岩泉率いるゴリラチーム!」
「いやいや、ゴリラは岩泉だけだって」

球技大会は、女子が準優勝で男子が優勝という晴れ晴れしい結果で終わった。まだ他の学年が終わってないから表彰式はまだだが、好成績を収めた私たちは大会を振り返っては話に花を咲かせていた。私はといえば、程よく乱れた髪の毛をまたきっちりかわいくのんちゃんに再アレンジしてもらった。

「でもなんと言っても、MVPは*と岩泉だよなぁ」
「あんたら2人してヤバすぎ。専門のスポーツでもないのに」
「*今からバスケ部どうよ」
「いやいや、私は万能系帰宅部のエースだから」
「なんだその頭悪そうなエース」
「実際良くないでしょ、*の頭」
「なんで褒めてから落とすの??もっと褒めてくれない??」

適当にケラケラ笑ってあーだこーだ言うこの時間が好きだったりする。でもなんか足りないなぁ、とわかりきっている原因を思い浮かべた。さっきまでいたのに、なにしてんだろ。

「*、はいチーズ」
「んー」
「次チームで撮ろう!」
「じゃあ番号順がいい!」
「男子〜撮って〜」
「ほんっと女子って写真好きだよな」

女子とはカメラを構えられて3秒でキメ顔ができる生き物なのだ。前髪を直している時間の方が長いくらいだ。私はと言うと、今までは前髪を整えるのが面倒だしよくわかんないからいっつもかき上げていた。でも今日はちょっと決まってるから、ほんのひと触りだけ前髪をいじる。

「んじゃ撮るぞー」
「待って、背景微妙、こっち来て」
「は?なんでも一緒だろ……」
「そこの段差登って〜」
「いやいや普通横向きでしょ!」
「あ、私のスマホ使って、アプリこれでいい?」
「それ知ってる!ナチュラルに盛れるやつ!」
「このアプリのフィルターかわいいんだよね〜」
「どれしよっか」
「適当によろしく」
「…………*、ついていけてるか」
「これが女子の会話……!!!」
「いや、お前さっきから一言も発してないだろ」

女子高生たるもの、カメラアプリには心血を注いでいる(ちなみに私にはなに一つ分からなかった)。「これいいよー」とゆるくおすすめされたアプリを後でダウンロードしようと頭の中でアプリの名前を繰り返す。これがガールズネットワークというものか(適当に造語した)。

「なぁ、岩泉は?」

どこかでクラスメイトが何気なく発した言葉に一瞬思考が止まる。ドキ、とした。なぜか。

「なんかさっきバレー部に呼ばれてた」
「副主将様も忙しいなぁ」
「な。」

岩泉のことを思い出すと、試合直後のあのワンシーンが頭をよぎる。ブザービートを決めて興奮していた熱が、一瞬で形を変えたような、そんな不思議な感覚。

『最高だな、*』

自慢したところでどうせマグレだとか何だとかで軽くあしらわれると思ってたのに、あの岩泉がものすごく柔らかい顔で、わたしの名前を呼んだ。そのあと、お腹にズクンと思い何かが乗ったような感覚に陥った。とても不思議で、でも不快じゃない気持ちだった。

「おっ。噂をすれば。」
「あ?」

ガラリと無遠慮に開けられたドアの先を見た。相変わらず体操着の半袖を肩にまくった格好をしていて、惜しげも無く上腕二頭筋が晒されている。ぼうっとその姿を視界に入れる。
やっぱ岩泉って、ゴリラだったんだ。

「なんだよ」
「いやぁ、イイ上腕二頭筋だなぁと思いまして」
「もっと失礼なこと考えてたろ」

コツン、と柔く握った手で額を突かれる。あいた、と対して痛くもないが反射的に言葉が出た。

「お、お前ら!二人並んで撮れよ!」
「え、どうしたの急に」
「……いや、意味わかんね」

岩泉と一緒に観戦していた男子が妙なテンションで突っかかってきた。なんだなんだと岩泉と二人して首をかしげる。いいから、と強引に腕を引っ張られ、黒板の前に立たされた私たちの腕がぶつかった。

「ほら!お前らこのクラスのMVPだし!」
「いや、それならクラスみんなで撮ろうよ。私達だけで勝ったわけじゃないし」
「*イケメンかよ……」
「とっとりあえず!撮るからな!」
「?? なんなの……?」

ねぇ、岩泉。そう言おうと横を向いた。岩泉は静かに一人騒ぐそいつに視線を向けていて、私が声をかけたあとにゆっくり瞬きをして私の方を見た。腕がぶつかるほどの距離は、真正面で向き合うには近すぎたらしい。
ほんの一瞬、息が詰まった。でもそれを悟られないようにいつものように笑みを浮かべる。

「まっ、いっか!撮ろー!岩泉!」
「あんま引っ付くな汗くせーぞ」
「んだとこら」
「いってぇ!」

何も気にしてないように思わせるために、わざと腕を組んで見せた。いつも通りの岩泉の反応にかかとで軽くスネを蹴る。変な感情なんていらないただの男友達だ、なんて自分に言い聞かせた。

「あ!ほら!あっち!」
「わぁったから引っ張んな馬鹿」

撮るぞ、と妙に意気込んでケータイのカメラを向けたクラスメイト。なぜか無意識に前髪をさらりと触った。『はい、チーズ。』その言葉が言い終わる前にピースマークを作ってイェーイ、と顔の横にそれをおいて、首を傾げた。コツン、とこめかみに触れたのは筋肉質な肩。
気のせいかもしれない、そんなわずかな力で絡めている腕に力を入れられて、自分に伝わった感触に、どき、とした。ほのかに鼻をくすぐる汗の匂いになぜか、心拍数が上がっていくような、そんな気がしたのも、全部全部気のせいだ。

「ちょ、岩泉真顔とかうける」
「次私も岩泉と撮るー!」
「どうぞどうぞ、不束者なゴリラですが」
「誰がゴリラだ」

写真見せて、とすぐに腕を解いた。岩泉はかっこいいよ、そんなことを女子の中で言っていたのがふと頭によぎった。

「ほんとだ、真顔じゃん!」

ねぇ、岩泉!そう思って振り返れば、さっき私がしていたみたいにクラスメイトの女子と腕を組む岩泉。普段あんまり写真とか写りたがらないから貴重なんだろう、順番待ちの列ができている。
快か不快かもわからない、変な気持ちになった。きっとそれも、全部気のせいだ。

「まだ撮んのかよ……」
「私も撮る!順番待ちしてんだから!」
「岩泉とツーショットとかレアだもんね」
「ちょっとは笑ってよー」
「ほら、岩泉もピースして!」
「はぁ……ったく、」
「*!俺とも撮ろうぜ!」
「あいあいさ〜〜!」

どうしよう、わたし今、笑えてるのかな。
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