02記念すべき度目の惚れなおし

「なぁ!女子の準決めっちゃ競ってるらしい!応援行こうぜ!」

そんな声が響いたからすぐさま体育館のギャラリーに向かった。むせ返るような人の熱気にげんなりしつつ、入口側のコートに目を向ければ今まさにシュートを放った*がいた。

「ナイシュー*!」
「これで2点差!まだいけるよー!」

二年同士の対戦。確かうちはバスケ部が1人で、向こうは2人。微々たる差だがこれがまた大きい。点数は22対24、うちが2点を追いかける展開だった。

「*って経験者?」
「いや、違うらしい」
「めっちゃ動けてるじゃん何者だよ。確か帰宅部だろ?」
「あいつ運動神経めちゃくちゃ良いんだよ。スポーツならなんでもできるタイプ」
「さすが*マスターだな岩泉は」
「誰がだぶん殴るぞ」

ピッ!
クラスの女バスがカットしたボールがコートから出て相手チームのボールになる。いつになく真剣な表情に視線が外せない。乱雑にまとめられた髪がふらふら揺れて、暑そうに汗をぬぐっている。

「やばいやばいあの子女バスのスタメンじゃん!」
「うっわ、シュートくそ綺麗だな」

綺麗な放物線を描いた相手チームのスリーポイントシュートは、まるで吸い込まれるようにリングに入っていった。盛り上がる相手のクラス。これで5点差、残り時間は1分49秒。

「頑張れー!まだいけるぞー!!」
「いけー!走れー!」
「ぶっ飛ばせ*!!」
「いやそれアンスポとられるだろ」

ここでクラスの女バスがシュートを決めた。3点差、この差がでかい。相手チームの足にぶつかったボールがコロコロと外に出たのを*が追いかけた。すいませーん、とペコペコ頭を下げている姿がピタリと止まった。
ボールを拾ったのは、及川だった。

「…………」
「あれ、及川じゃね?」
「うわぁ、修羅場」
「お、でも*めっちゃニヤついてんじゃん」

「*〜ニヤニヤすんなしー」
「しっ、してないよ!」
「なんか言われたの?」
「や、別に、頑張れって、」
「ヒュ〜〜」
「もうやめてよいっちゃんー!」

バシバシとクラスメイトに背中を叩かれまくる*。あいつが及川のことが好きなんてクラス中が知ってる、いやむしろ花巻が言ってた通り学年中が知ってると言っても過言じゃない。

「なぁ、気の迷ったこと言っていいか?」
「あ?」
「おー言ってみろ」
「スポーツしてる*、結構アリだわ俺」

手すりに肘をついてしたを見つめるクラスメイトの発言にピシッと体が固まる。もう一人のやつがブフッと吹いたのがわかった。

「おまっ、ブフッ、やっべーな!すげー気が迷ってんじゃねーか!」
「楽しそうにスポーツする女子って良くね?」
「いや、わからなくもねーけど、*だぜ?」
「え?今日の化粧した顔結構かわいくね?朝のサザエさんヘアはクソ笑ったけど」
「は?あー、まぁ、うーん」
「……化粧のせいだろ」
「でも女子力皆無でガサツだけどよ、すっぴんがブスってわけではなくね?」

まっすぐあいつを見つめる野郎の視線に心なしか焦る。嘘だろ、嘘だと言ってくれ。そう思いながらゴク、と唾を飲み込んだ。

「あいつのこと好きなの?」
「いや、俺はもっとお淑やかな子が好きだ」
「なんだよ茶番かこの野郎」
「でも*もちゃんと見れば可愛いよなって話」

溢れ出る女子力の無さに彼氏ができたことないらしいが、でもちゃんとし始めた*はモテる要素が多いとは思う。活発で明るくて、ノリも良くて後輩の面倒見もいい。でも好きなやつの前じゃ上手く話せなかったり、すぐ顔赤くしたり、でも自分に向けられる好意には鈍感で。
でも、あいつがそういう奴だって、可愛いやつだって、俺が先に思ってたのに。一番最初に気づいたのは俺で、あいつが可愛くなろうとしてるのを応援したいし周りがそう思うことはあいつにとっていいことなのに、どうしようもなく嫌な気持ちになる。

「岩泉?顔こえーぞ?」
「……すげー競ってんなーって思ってただけだ」
「うお、あと20秒じゃん」

気づけば試合は進み2点差残り20秒。ボールを持った相手チームはボールを持ったまま攻めようとしない。残り時間を使う作戦らしい。しかもボールを持っているのは相手チームの女バスのスタメンで、こっちのチームはせいぜいベンチ入りするくらいのやつ。なんとかボールを取ろうと手を出しているがなかなか上手くいかない。残り13秒になった時、*が動いた。

「おぉ、二人で取りに行った!」
「あいつまじ経験者かよやべーな!」
「カウンターだ!走れ*!!」

いいタイミングで現れた*に驚いたのか、クラスの女バレのやつがボールを見事に奪い取った。途端に走り出した*。しかし反応の早い相手チームのもう一人の女バス部員が先を走っていた。残り6秒。
パスが*に通る。ニヤリと*が笑ったのに気づいたのは何人いるだろうか。残り2秒、スリーポイントラインからかなり離れた位置から、*がボールをぶん投げた。は、?

「ちょ、遠いって、」
「あ、待ってやべえ入りそ、」

ガン、ガン、とリングにぶつかったボールが何度か跳ねる。審判が指を三本立てて腕を上げた。きっと体育館中の観客がその瞬間を見ていただろう。けたたましく鳴るブザー。コロンと転がってネットを揺らしたボール。湧き上がる会場。審判がまた指を立てて、今度は両腕を上げてみせた。スリーポイントシュートだ。

「うおぉぉぉおおお!!!!」
「すげー!!やべー!!ブザービート!!」

「やったー!」
「やっば!!*やっばいね!!」
「適当にボール投げた時はバカって思ったごめん!」
「逆転スリーポイントとか初めて見た!かっこよすぎかよ!」
「ふっふーん、もっと言って〜」

整列をして頭を下げた。もう相手チームすら笑っていて、「**」と言いながらあいつの肩をバシバシ叩いている。体育館はまだ高揚感に包まれていた。

「岩泉!」

ずっと目で追ってたのに、いざこっちを見て声をかけられたら体が跳ねた。ギャラリーに向かって、いや、俺に向かってピースマークを掲げながら満面の笑みで言った。

「ねえっ!見てたっ?」

少女漫画なんて読んだことねーけど、変に心臓が動悸するわ、手汗止まんねーわ、頭は働かねーわで散々だ。人を好きになるのなんて、たまったもんじゃねぇ。

(うるせー、まぐれシューター)

こう言おうと口を開いたが、体すら俺の言うことを聞かないようだ。

「最高だな、*」

あいつはわずかに目を見開いた。喧騒が俺の声を隠したからあいつに言葉が届いたかはわからない。それに俺はもうなんて言ったか覚えてなかった。手すりに肘をついてあいつを見れば、ピースマークから固まったままで。でもすぐにまだ興奮を隠せないクラスメイトから突撃されて引きずられるように体育館から去って行った。

「……岩泉、お前さ、」
「シッ!言うなって!」
「あ?んだよ」

クラスメイトの野郎二人がやたら変に穏やかな顔しながら俺を見てきて、キメェと一言言えばいつもなら突っかかってくんのに大人しかった。
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