03信じたい愛なんてひとつあればいい
「え?*?」
「わ!いいじゃん!」
「顔はやばいけどね」
*が及川にこっ酷く振られた翌日、朝練終わってギリギリ教室に着いた俺よりさらに遅くにやってきた女を見た瞬間、ほんの一瞬思考が止まった。
「失恋したから切っちゃった!」
そんなことを堂々と言ってのけるとはなんてやつだ、と言ってやりたかったが、背中まで長くてボサボサしてる髪の毛をスッキリ肩より上まで切った*は正直似合ってると言わんざるを得ない。
「腫れてる目、治してから来なよー」
「色々やったんだけどどうすればいいかわかんなくて遅刻しかけた〜」
ケラケラ笑う顔はいつも通りだが、なにぶん髪が短くなったのだ。しかもかなり俺好み。
「あ!やっほー!岩泉〜!」
「……おう」
「ね?どう?どう?」
頭を軽く振って髪の毛を舞わせながらニヤつく*。前よりいいと思う。似合ってる。そう言ってやりたいのに口から出た言葉はいつも通りの悪態だ。
「顔の丸さが際立つな」
「ぶっ飛ばしてやろうか」
だめだなぁ、やれやれ。そう言わんばかりに両手を横にしてため息をつきながら首を横に振る*に、前の席の野郎が軽快な口調で笑った。
「いーじゃん!悪かない!」
「へっへー!いーでしょー!美容師さんとめっちゃ話し込んだからね!」
俺とは違ってサラッと褒めることができる野郎にぐぅと口を噤んだ。どう転んでも俺は不器用らしい。
「ね!岩泉!」
「あ?んだよ」
ばん、と両手を俺の机についてグッと顔を近づける*。ボサボサの髪はどこに行ったのか、さらりと当人の頬を滑った髪に視線を奪われる。
「これより、**可愛くなろうプロジェクトを開始いたします!」
キラキラ輝いて見えたのは、きっと惚れた弱みというフィルターがかかっているから。昨日の泣き顔も、泣き止んだ後の笑顔も、全部俺には眩しいし、閉じ込めたくなってしまう。
「へー。」
「興味うっす!!」
「なんだよそれ、なにすんだよ」
「かわいくなるの!」
だからなにするんだ。という目をしておいた。
こんな時にあの、女を誑かすことに長けている幼馴染なら「そんなことしなくてもかわいい」なんて歯が浮くようなセリフを言ってのけるんだろう。俺には到底無理な話だが。
「次は、胸張って告白できるようになりたいから」
表情がぐっと柔らかくなって、俺には見せない笑顔の*。きっと、俺を見ながらも心の中では及川を見ているんだろう。
ズキ、と痛む心臓の痛みを、こいつも及川に対して感じているんだろう。この痛みが、共有できたらいいのに。
「そーかよ、がんばれ」
いつか、心の底からこいつの片想いを応援できる日が来るのだろうか。
「うん!見ててね!絶世の美女になるから!」
「なんだそりゃ」
振られ続けばいいなんて考える俺は、最低なんだろうか。