私に彼氏ができない理由


私には同じタイミングで同じ母親から出生した血の分けたきょうだいが2人いる。そして私には生まれてこのかた17年、彼氏ができたことない。一見全く関係ない二つの事象だが、これが面白いほど関係あるのだ。

「俺、**ちゃんが好きなんだ」

どこかの教室から聞こえたセリフに、廊下を歩いていた足が止まった。どくん、とゆっくり心臓が脈打つ。

「あー……気持ちはわかるけど、ドンマイ」

私に向けた言葉でないが、なぜか私の気持ちを微塵も反映せずに男子生徒の恋は崩れたのだ。

「だよなぁ……無理だよな……」

自分自身、顔はそこそこ。告白された回数だって少なくはない。でも高嶺の花か、そう言われるほどお高いわけでもない。自分がモテるのは小さい頃からよく知ってる。恋だってしたことがある。でも彼氏はできたことない。なぜなら。

「ぎゃあああ!!!!」

これだ。これ。

「ハジメマシテ、**がなんと?」

『花園**は死神だ』
いつからかそんな噂すらたつようになった。私の名前を出せば、死に目を見るのだと。原因はわかっている。このクソみたいな人間じゃないバケモノのようなきょうだいが私にいるから。

「5千億世紀はやぁぁぁぁあい!!!!!」
「ぐあぁぁぁああッッ!!!!?」

ドン、と廊下にまで響いた地響き。床が割れた音がしたのは気のせいだと思いたい。にしてものこ重量級な攻撃はきっとアフロの方だろう。

「今日は千秋か……」
「よ、**」
「出たなクソ春」
「よぉ**!」
「おはよヤス。付き合って」
「俺はまだ死にたくねぇ」

花園**、高校二年生。何故かクズ高でやばいやつワンツートップの2人と三つ子をしています。わたしの人生の分岐点はすでに受精卵レベルにまで遡るらしい。


△▽


「私に彼氏ができないのはお前らのせいだ!!!」
「俺より弱い男にお前の彼氏が務まるか!!!」
「務まるに決まってんでしょ!?何でもかんでも力技で決めないでよこの馬鹿千秋!!!」
「ぐふぉっ!!!」

帰宅してすぐ、俺の部屋でエロ本を読んでいた千秋を**がベッドから引き摺り下ろし、問答無用でハイキックを繰り出した。むちゃくちゃなこの花園家で弱みを見せては生きてはいけない。心も体ももちろん喧嘩も強くあらねば発言権はないに等しい。その点**の発言権は十二分にあった。

「もうそこらへんにしとけって**」
「うるさい馬鹿!!今日という今日は許さないからね!!」
「だいたい俺らとタメ張るくらい喧嘩が強いお前に並大抵の男なんて無茶が過ぎんだろ」
「彼氏の前くらいお淑やかにするわよ!!」
「厳密に言えば百春、お前より**の方が強いぞ」
「何呑気にカール食ってんだこのクソアフロ!!!!」
「グアアァッ!!!!」

俺に無敗の千秋も**とはトントンだ。確かに**はモテにモテまくるが、彼氏ができない理由は俺らだけじゃないはず。知ってんだぞ、俺らに負けた腹いせに、きょうだいだからとよく不良に絡まれては返り討ちにしてるってこと。

「高校で彼氏できなかったら2人のオカズにしてるエロ本を校門に貼り付けてやる!!」
「待て待て今回俺なんもしてねーだろ!!」
「今までの腹いせじゃー!!」
「俺のエロ本は百春の貯金で買ったから実質全部百春のだ。俺のじゃない」
「何威張ってんだ!!つかテメェのくらいテメェで買いやがれ!!!!」

いつも通りの喧嘩の真っ最中、コンコンと部屋をノックするのは川原さん。**にキャメル・クラッチを決められている千秋を放っておき、(この時点で普通の女子高生じゃない)呼ばれた通り晩飯を食いに一階に向かった。飛んだシスコンなきょうだいを持った**に同情するが、これも運命だ。受け入れてくれ。

「百春」
「なんだよ帰ってたのか」
「**は?」
「上で千秋を締め上げてやがる」
「また何かしたのか」
「いつものことだ」
「よくやった千秋」
「さすがに**に同情するぜ」

シスコンきょうだいに親バカときた。**は高校どころか一生彼氏なんてできないんじゃないかと思う。まぁ千秋ほどではないがそこそこ邪魔する俺に言えた話ではないが。

「もー、川原さん聞いてよー」
「あらあらどうしたんだい**ちゃん」
「また千秋が私の恋路の邪魔したの!!」

ペタペタとスリッパを鳴らして降りてくる**。もちろん千秋の姿はない。呻き声が聞こえるだけだ。

「ほんと、愛されてるねぇ**ちゃんは」
「やだよこんな歪んだ愛」
「**」
「お帰りお父さん。今日も遅くなると思ってた」
「俺より弱い男は認めねぇからな」
「これだからうちの男どもはダメなんだよふざけんなクソ親父」

ゴジラ連れてくるしか無いじゃん、と拗ねる**に何事もなかったかのように食事を再開する親父。親父だったらゴジラも倒しそうだけどな、なんて言葉は飲み込んだ。

「まぁ、散々邪魔した俺が言うのもなんだけどよ」
「なにさ、自覚あるんじゃん百春」

チキンの照り焼きをもぐもぐと咀嚼しながら白飯をがっついた。流石に少し同情したのと、逆に男をいろんな意味で知らないのはそれはそれで危険かもなという変な危機感と、親が別居してたりきょうだいが粗相を犯したシワ寄せがいってしまっている罪悪感、それと少しくらいは幸せになってほしいという純粋な思いは持ち合わせているから、普段言わないことを何の気なしに口に出してみた。

「オメーが本気で惚れた相手がいんなら、俺が味方になってやらんことも、ない」
「百春……」

言ってみて、少し恥ずかしくなった。照れたのがばれないように二つ目の照り焼きを口いっぱいに頬張った。テレビを観ているふりをして、耳だけはしっかり**に向けて。

「うちで一番弱い百春が味方って頼りなさ過ぎるんだけど」
「んだとゴルァ!!!俺の気持ち踏みにじってんじゃねぇ!!!!」
「あ、川原さんあと置いといていいですよ、洗い物くらい百春がするんで」
「無視してんじゃ……ってまだ今日のじゃんけんしてねぇだろ!!!!」
「百春が負けるに一票」
「二票」
「三票」
「私もそう思うわ」
「っざけんな今度こそ俺が勝つ!!!!」

いつの間にか復活した千秋が平然と隣で食ってる中、ケラケラと楽しそうに笑う**は弟バカが入ってるとしてもやっぱりお袋似で美人だと思う。いつか、もし遠い将来、**が好きなやつ連れて結婚の挨拶に来たら、うちは大荒れだと思うが、なんだかんだで**の幸せを願って否定はしないんだろうな。

「あー、百春の連敗記録もまた更新か〜」
「どんまいだ、百春」
「うちは弱肉強食だからな」
「あ、百春くん、こっちの鍋も洗っとくれ。ソースがこびり付いて取れないのよ」
「なんでテメェら俺の心読んだみてぇに揃いも揃ってパーを出しやがる……!!!」

まぁ、そんな話まだまだ先のことだけどな。




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