ゆきどけ

きみだけでいいのに



5月20日。今日は特別な1日だ。

(プレゼント、渡せたらいいんだけどな)

なんせ私は部屋から出れない。治療の影響で白血球や赤血球、血小板などの汎血球減少とやらが起こっているらしい。
白血球が少ないから、ちょっとの菌でも感染しちゃってすぐ重症化する。赤血球が少ないからいつも重度の貧血で体がだるい。血小板が少ないから血が出たら止まりにくくなるし、ちょっとのことでもすぐ内出血してしまう、そんな厄介な状態なのだ。
中でも一番厄介なのが、白血球が少ないこと。外に出たらあらゆる菌で感染してしまう。だからこの家族しか入室できない、空気管理された綺麗なお部屋─クリーンルーム─で過ごすことを余儀なくされるのだ。それも何ヶ月も。

(あ、点滴終わった、ナースコール……、)

ポチ、と手元のナースコールを押せば、看護師さんから「どうかしましたか?」と優しい声が聞こえた。どこに言うわけでもなく、「点滴が終わりました」と言えばすぐに行きますと返ってくる。

(誕生日、かぁ……)

誕生日プレゼントを買いに行けない、直接顔を見ておめでとうも言えない。幼馴染なのに、ずっと一緒だったのに、ここ最近は誕生日を祝えていない。

「た、ん、じょ、う、び、お、め、で、と、う、っと」

ケーキやらクラッカーやらおめでたい絵文字をぽつぽつ使ってLINEを閉じた。三年生の覚くんは14時10分の現在は授業中だろうか。私は今日どころか一週間分の勉強は終わらせてしまってとても暇だ。

コンコンッ

画面を暗くした途端に小気味よく鳴ったノック音。来た来た、となんとなく布団のシワを伸ばして服を整えた。

「△さん」
「はーい」
「失礼しますね」

ほんの数分前に終わった点滴を看護師さんが手際よく交換していく。腕についてるネームバンドのバーコードを機械でピッとスキャンして、とよくわからないけどなかなか声をかけれない。話しかけたいけど、忙しそうだからあまり話せないや。

「何かお変わりないですか?」
「ないです、最近調子がいい気がするんです」
「昨日輸血もしてましたしね」

針が刺さっているところのテープを交換する看護師さん。あ、もしかしたら今話せるかもしれない。

「ねぇねぇ看護師さん」
「どうかしました?」
「あのね、今日誕生日の人がいるんですが、どうやってお祝いしよっかなーって悩んでて」

私の言葉にふむ、と一瞬手を止めた看護師さん。この人はいつもどんな話でも嫌な顔一つせず話を聞いてくれる。この人が担当の日は嬉しい。怒らないし、優しいし、私のことをよくみてくれている。

「そう言えばこの前、」

そのあと発せられた看護師さんの提案に、私はおぉ、と感嘆の声をあげた。そんな私の顔を見たのか、看護師さんがふふ、と笑った気がした。


△▽


(あ、り、が、と、)

シンプルにそれだけ返したお祝いの返事。多分夜にも電話をするからその時にも言ってもらえるだろう。相変わらず俺の誕生日を覚えて、連絡もしてくれているとは▽も律儀だ。

もうすぐ部活が始まる時間。少しでも▽に時間をかけたくて、送ったばかりのLINEにいつ返ってくるのかな、と画面を閉じたり開いたりした。

「天童、もうすぐ始まんぞ」
「……はぁーい」

けど待てども待てども▽からの返信は来ず。検査かなぁ、寝てるのかなぁ、と色々理由を思い浮かべてはスマホをカバンにしまった。まぁ夜に電話をするだろうし。うん。仕方ない。

「? なんかあったのか?」
「んーん、なんもないよ」
「彼女か」
「彼女いないよ」
「あの子」
「彼女じゃないよ」

ニヤニヤと聞いてくる英太くん。周りに人がいるからあまり聞かれたくない。どう誤魔化そうかな、と思案していたらちょうど若利くんが号令をかけた。ナイスタイミング。いつもは好きじゃない部活開始の号令も今ばかりは超嬉しい。

「あとで教えろよ」
「えー」

二人一組のストレッチは不運にも英太くん。足を伸ばされてるときに色々聞いてきたが「うーん」だけで返事を済ませていたらちょっと怒られた。えぇ……。

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