○○○○しないと出られない部屋


「あっっりえないんだけど……」
「チッ……」

シンプルな一つのベッドと半紙一枚しかない真っ白な部屋。そんなに大きくはないけど人が住める程度の、本当にその二つしかない部屋に私と犬猿の仲である幼馴染、新門紅丸は閉じ込められていた。

「やめだやめ、どうせ紺炉あたりが気づいてどうにかしてくれんだろ」
「……紺炉は今日ヒカとヒナに連れられて海に行ってて、帰るの明日の夜って言ってたけど」
「……クソが」

お互いの最大火力の技を使ってもかすり傷一つつかないこの部屋で、火の扱いに長けている私たちが技をぶっ放し続けたことによっていとも簡単に酸素がなくなっていった。時間が経てばまたどこかから酸素が供給されて事なきを得たが、これ以上むやみやたらに部屋を攻撃し続けるのは得策ではない。

「あんたが日輪なんて使うから死にかけたじゃない」
「テメェも向日葵使いやがったじゃねェか、お互い様だ」
「だいたい、なんなのこの部屋……」

ほんの瞬きした一瞬の間にこの部屋にいた。部屋にはすでにこいつがいて、私を見た瞬間目を見開いて舌打ちしたのだ。クソ野郎が。

「あーーもう!!どうやったら出れんのよ!!」
「………………一個だけ方法がある」
「は?」

さっきまで不本意だが共闘して部屋を攻撃していたと言うのに、このクソ野郎はそんなことをサラッと言ってのけやがったのだ。はぁ?と眉間にシワが寄ったのを止められない。

「なにそれ、さっさと言ってよ」
「……お前、冷静じゃなくなんぞ」
「そんなのわかんないじゃん。なんで隠してたのよ、ほんと無駄な時間だったんだけど」
「…………ハァ……」

いつもなら馬鹿にするのに、何故か今のコイツは小難しい顔で言いづらそうにしていた。とてもらしくない。

「……そんなに難しい条件なの?」
「…………まぁ、」
「とりあえず言ってみてよ、わかんないじゃん」

できるだけ私も冷静に言った。こんなに言い淀むなら、よほど危険な条件なのかもしれない。それこそ、命が関わるものかも。そうなれば差し出すのは私の命以外ないけれど。

「は?」

しかしこの男は想像していたあらゆる状況を全てひっくり返した言葉を言った。聞き間違うはずもない強烈な単語に思考の全てが制止する。

「セックス。性行為したら出れんだよ」

……………………。
数秒静止したあと、カアアアッと顔に熱がこもった。え、え、は?と言葉にならない単語が口から溢れる。意味がわからない。いや、性行為の意味がじゃなくて、なんでそんなことするのって言う意味で、あの、え、いや、は???

「チッ、だから言いたかなかったんだよ……」
「待っ、な、なんでそんなことに、」
「………………」

ペラ、と渡された一枚の紙。この男が意地でも見せまいとしていた紙には、淡々と印刷された文字でこの男が言っていた意味の言葉が書かれていた。

『セックスしないと出れません』

「い、意味わかんないんだけど……ッ!!」

ドカンッ!と体から火が吹き出た。第三能力者の私は気が高まると爆発的に火力が上がる、じゃなくて、そんな説明いらなくて。
ぐるぐるぐると頭の中にいろんな単語が湧き上がる。セックスって、し、したことないし、いやこの男と?待って、本当に意味がわかんない、いや、だってそんな、この憎き新門紅丸だよ。そう言う行為に、その、き、興味なかったわけじゃ、ない、けど、でも……ッ

「……ほんとお前は顔に出やがる……」
「はっ、!?な、なんのことよ!」
「痴女」
「っう、うっさい!だいたいなんであんたはそんなに冷静なのよ!このむっつり野郎!」

はぁぁ……と新門紅丸が頭を抱えてしゃがみ込んだ。こんなにやられているコイツを見るのは初めてだからザマアミロなんて普段は思うけど、今はそれどころではない。私もそうしたい。

「っざけんなよ……」

今日の朝までは普通だった。なんの変わりもない日で、焔ビトも出てない、いたって普通の日だった。見廻りでも異常なかったし、誰かに攻撃されたわけでもない。ただ普通に川沿いを歩いてて、目を開けたらこのざまだ。この男と考えていることは不本意だが全く同じだった。

「…………紅丸」
「! ……勝手に話進めんな」
「まだ何も言ってないじゃん」
「面見りゃわかんだよ」

紺野が返って来たところで戻れるかわからないし、そもそもこんなところで油売ってる間に浅草で何かあったらたまったもんじゃない。上がいないんじゃ指揮命令系統が混乱してしまう。そもそも今日は、紺野が外に出るからと浅草を私たちで任されたのだ。紺野に顔向けできなくなるようなことはなんとしてでも避けたい。

「他に方法ないんでしょ」
「今それを探してんだろ、黙っとけ」
「なに、ビビってんの?童貞」
「っ、おい、俺ァテメェのために、」
「そういうのいいから、気遣うような間柄じゃないでしょ、わたしたちは」

グズるコイツの腕を掴んで問答無用に引っ張る。少しの抵抗をしながらもおとなしく付いて来た先はこの部屋に唯一の真っ白なベッド。先にわたしが座って、きゅ、と男の腕を握りながら視線を上げた。

「あんたがさっさと入れて出せば終わるでしょ」
「簡単に言いやがる……」

ドク、ドク、と心臓がわかりやすく拍動している。緊張しているのがすぐわかったけど、それを悟られたくなくて努めてゆっくり息を吐いた。

「…………悪りぃ、簡単に言ったんじゃねぇのはわかった」
「別に、」
「足袋脱いでもっと真ん中行け」
「……ん、」

言われた通り足袋を脱いで、ずるずると体を移動させた。紅丸も同じように足袋を脱ぎすてベッドに膝をつく。ギシ…、とスプリングが音を立てて近づいてくる肢体に息が浅くなっていった。

「ぁ、」
「…………いいんだな、」
「…………、」
「っあ、おい、!」

腕を伸ばして紅丸の首にしがみついた。かなり昔にはこんなことしてた気がするが、こんな大きくなってからするとは思わなかった。

「……やっぱ別の方法を探すか、」
「いいから」

自分でもわかる震える手で紅丸の腰紐を解いた。はだけた着物の裾から手を差し込む。ほんのり温かい体温を感じるとピクリと揺れた紅丸の体。

「さっさとして」

煽るように耳に唇が触れるくらいの距離でそう呟いた。本当は顔を見られたくないから視界に入らない位置を取ったのもあるけど。
そのまま自身の顔を男の肩に押し付けた。全部夢だと思い込んで、諦めたように息を吐く。

「……**」
「っ、ん……」
「力抜け」

紅丸の髪の毛が首筋を撫でた。鎖骨に熱が触れたと思えばそこにぬるりと濡れた感覚。舌が触れたのだと分かるまでに時間はかからなかった。
じわりじわりと歯を立てられ、背筋に変な何かが走った。ぎこちなく動き出した手のひらはさっき私がしたようにわたしの腰紐をするりと解いた。

「一個だけ確認させろ」
「ん……なぁに、」
「……処女か?」
「…………どうせカレシもいない生娘ですよーだ。」
「、悪りぃ、俺も初だが、……優しくする」
「……うん、」



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