08

「誰だオメェ」
「ハッ、ハイッ」
「はいじゃわからねぇだろが」

白鳥沢の現監督、鷲匠監督。白鳥沢中学との試合や、及川さんの推薦の勧誘で何度か生で見たことはあるが、こんなに近くで見たのは初めてだった。
あの女神の先輩が怖いと言っていた監督は、身長はそこまで高くないけど、迫力がすごい。

「き、北川第一中学男子バレー部の、マネージャーをしていましたっ、今年白鳥沢に入学する△▽です…ッ」

足はガクガク、頭の中はパニックだ。ちなみに今は空になったボトルを洗っているので直立はできない。スポンジを持っている右手がアワアワだ。水は出っ放しなので左手は冷水に晒されて温度がない。この状況、どうすればいい。

「なんでここにいんだ」
「まっ、マネージャー志望でっ、来ましたっ」
「聞いてねぇぞ」
「スイマセンッ」

水止めろ、と言う監督に、慌てて手を洗って蛇口をひねった。眉間にしわを寄せて睨む姿はまさにこんなちんちくりんが何してんだと言いたげだ。

「おい黒沢ァ!」
「はい、監督」

体育館から現れた黒沢先輩が神に見える。先輩は鷲匠監督と私を交互に見て、納得したように小さく息を吐いた。

「俺は聞いてねぇぞ、新しいマネージャーなんてな」
「監督、今日来ないって部員に言ってたみたいじゃないですか」
「…………来ただろ」
「挨拶は、後日監督が来てからと思っていました」
「………………」
「職員室に行こうにも今日は職員会議ってコーチが言ってましたし」

恐ろしいと言われる監督にいたって普通の態度の黒沢先輩が強すぎる。二人のテンポの速い言葉のキャッチボールの行方を目で追っていたら、鋭い視線が私に向いて肩が跳ねた。

「今度はちゃんとしてるんだろうなァ?」
「初日だからわからないですよ」

今度は、とはどう言うことだろうか。前に何かあったのか。なんかもう色々とわからないけど、初対面の印象は良くないことはわかった。

「北一のマネとか言ったな」
「ハッハイッ!!」

皺の寄った眉間はこの監督の怖さを何倍にも膨れさせている。地を這うような低い声は常時怒られているような気にさえさせられた。

「………ま、がんばれよ」
「へ、」

目をパチパチと瞬かせ、口をぽかんと開ける私はきっとこの監督にひどくマヌケに映っているだろう。それだけ言った監督は両手を後ろに回してスタスタと体育館へと入ってしまった。
あれは、激励なのだろうか。……どんな流れであぁなった?

「▽ちゃん、監督のこと知ってたの?」
「あ、中学の時、会場で見かけたことがありました、」
「喋ったことは?」
「………会釈だけなら、?」
「ふーん、そっか。なんか監督、今日優しかったから」
「え、そうなんですか」
「ま、マネが入ってくれるのが嬉しいんだよ、きっと」
「はぁ、…?」

あれが優しかったと言うことも、なぜか応援されたこともよくよくわからないが、とりあえず今は最後の片付けだけしてしまおう。「もうちょっとで練習終わるから挨拶するよ」と去り際に黒沢先輩に言われたため、背筋がピッと伸びて緊張が膨れ上がった。……挨拶って、なんて言えばいいんだろう。
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