04

「あの…っ!!すいませヘブホッッ!!」

玄関で靴を脱いで開けっ放しのドアに飛びつくように身を乗り出せば、出て行けと言わんばかりの豪速球が顔面に飛び込んで来た。

「ワーーー!!!ちょっ、だ、大丈夫!?!?」
「ぶっ、アヒャヒャヒャ!!!ゲホッ、ゲッホ、おえっ、」
「笑ってる場合じゃないだろ…」
「すすすすすすいません大丈夫ですか!?!?」

衝撃に尻餅をついて右目を抑える。ピンポイントで飛び込んで来たボールはテンテン…とそこらへんに転がっていった。一瞬記憶が飛んだ。思い出せ。思い出すんだ。

お腹を抱えて爆笑する天童さんと、慌てて駆け寄ってくれたマネの先輩、苦笑いしながら声をかけてくれた元キャプテン、そして根源となったボールを打っていたであろう選手が目の前に来た。高校生、やっぱ大きい。じゃなくて。

「目打ったの!?どう?ちゃんと見える?切れたとことかない?」
「は、はいっ、大丈夫です!」
「はー、笑った笑った、だいじょーぶ?」
「はい!元気です!」
「すいません!!俺が打ったボール…、」
「いえ!大丈夫です!すいません!」

何人かの選手も「大丈夫かー?」と覗きに来てくれたが、むしろ練習の手を止めてしまって申し訳ない。ボールから逃げれなかったのが悔やまれる。もっと周りを見ないと。
でも、おかげで緊張は綺麗さっぱりぶっ飛んだ。

「どうしたの?何か用事?」

諭すような優しい口調で聞いてくれるマネの先輩。ギャラリーからしか見てなかったけど、かなり美人だ。やっぱりちょっと緊張して、慌てて立ち上がった。座ったままは、なんか格好がつかないから。

「は、はい!あの、」

体育館入り口で起こった事件に、いろんな視線が向いているのを今更ながらに気づいた。注目の的、とはこのことか。あまり良いものではないけれど。

「わ、わたし、!」

不意に、ウシワカと目があった気がした。カサ、と揺れたバボちゃんが応援してくれているようだ。

「っマネージャー志望で、来ました!!」

天童さんが口角を上げたのがわかった。前に会った先輩たちも、私を見て目を丸くしている、と思う。あ、でも、ウシワカは笑ったような気がした。

「マネって…男バレの?」
「っはい!申し遅れました、元北川第一中学で、男子バレー部マネージャーをしていました、今年入学する△▽です!」

ピシ、と両腕を揃えて直立する。吹っ飛んだはずの緊張が後からやってきて、うまく息ができなくなっていった。呼吸って、どうやるんだっけ。

「なんで?」
「っは、はい、?」
「なんでうちのバレー部なの?」

じ、と見定めるような視線に頭が真っ白になる。おい、と咎めるような元キャプテンを手で制し、マネの先輩はまっすぐ私を見つめた。

「え、っと、こ、ここしか、ないと、思ったので、」
「なんで?他にも強豪はあるし、北一なら青城に進学が多いよね?」
「そ、れは、」

あそこは、選択肢にはなかった。理由を言えばまた長くなるし、今は言いたくない。まだ、堂々と言えるほど傷が癒えたわけでもない。どうしよう、なんて言えばいいのか。何が正解なのか。どうすればいいのか。

「綺麗な言葉じゃなくて、あなたの言葉で言って」

心のうちを見透かすように先輩は言った。余計に難しい。本当に、ここしかないと直感で来たのだ。あの日から、ずっと。

「来たのは、直感、です」
「………………」
「でも、ここで、一緒に戦いたいと思って、来ました」

私の原動力はそれしかない。ただ、一緒に戦いたい。中学ではできなかったことを、ここでしたい。本当に、それだけだ。
もうパニックでいつ泣きだしてもおかしくないくらい神経を張り詰めさせていたのに、私の答えを聞いて場違いか?と思うほど元キャプテンが爆笑した。

「っはっはっは!直感って、お前と同じだな!」
「……うるさい、亮介」
「こいつも、同じようなこと先輩に聞かれて、君と同じ答えをブフォッ!!?」
「…いちいち言わなくていいの」

綺麗にみぞおちに入った拳の行方を見ながらクルクルと頭の上ではてなマークを浮かばせた。どこに笑う要素があったのか、いくら考えどもさっぱりわからない。少し眉をしかめたマネの先輩は、ふぅ、と一息ついて腰に手を当てて私を見た。今度は、探るような目じゃなかった。

「ジャージ、持って来てる?」
「っいえ、ジャージは、…すいません、」
「じゃあメモ帳は?」
「る、ルーズリーフと、筆箱はあります」
「次からはジャージとポケットに入るメモ帳持ってきてね」
「は、はい!」

そして手を差し出され、柔らかく笑った。少しだけ、お母さんに似ていた。お母さんはもっとおっとり系だけども。

「私、今年の卒業生の黒沢紡。来年からはいないけど、ここのマネージャーしてたの。よろしく」
「よっ、よろしくお願いします!」

握った手は少しカサついていた。マネージャーの手だ。すごい、かっこいい。
この人の下で、マネージャーをしたかったと思ったから、少し悲しくなった。
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