03

全部記憶するように端から端までコートに目を配らせていたら、白鳥沢のジャージを着た女の人がせかせかと走り回っていた。女マネだろうか、タオルを配ったりドリンクを配ったりしていて、牛島さんが頭を下げていた。もしかしなくても、先輩のマネージャーだろう。

(……あの人だけ?)

この人数を、あの人一人で支えているのか。そう思うとすごい。来年お世話になるかもしれないそのマネージャーを食い入るように見ていたら、なんだかおかしなことが起きているのに気づいた。

「キャプテン!来てくれたんですね!」
「元、な。調子どうだお前ら」
「こんにちは!」
「黒沢も来てたんだな」
「さすがにマネがいないとね〜…私しかいなかったし」

なんと、元キャプテンと言われる人と、マネージャーと思われる人がタメ口で喋っていたのだ。

「来年一人でも入ってくれたら嬉しいんだけど、その頃には私もいないしな〜。引き継ぎどうしようか」

ま、まさか。まさかこれは。

「あ、あの、すいません、一つ聞きたいことが…、」
「ん?どうしたの?」
「あの…男バレって…マネージャーとか、いたりするんですか…?」
「え?あー…あそこにいる黒沢先輩がマネだったんだけど、今年で卒業だし、他のマネは辞めちゃったらしいの。だから現状はいない、かな」

なんと。これは。まさかこんな強豪チームでマネージャーがいないだなんて。いや、北一時代も及川さんがいたからマネージャーは私以外いなかったけど。それでも高校となると話も変わってくるだろう。

「マネージャー志望なの?」
「っは、はい、一応、」
「そっか、大変だろうけど頑張ってね。監督怖いらしいし」

その情報はあまり聞きたくなかったような気がするが、また両腕を体の側面に揃えて頭を下げる。女神の先輩はくすくす笑っていた。

「大丈夫ですよ紡せんぱーい」
「あ、天童。ちゃんとサボらずやってる?」
「バレてはいないですよ!」
「なら良し」
「よくねぇわ馬鹿」
「いてっ」

赤髪の天童さんがマネージャーの先輩に話しかけているのをなんとなく見た。元キャプテンにポコっと頭を叩かれていたが、天童さんはそういういじられ役なのだろうか。ドSそうな顔をしているが。

「マネなら入りますよ〜ん」

呑気な声でピースサインをする天童さんは、意味ありげな目でギャラリーを見上げた。いや、あれは私を見ているのだ。

「え?誰かマネ志望の子、来てるの?」

マネの先輩が天童さんの視線を追うようにギャラリーに顔を向けた。びっくりして肩が跳ねてまた半歩後ろに足を引いた。まさか、天童さん、まさか。

「んー、どうだろう。マネ、するのかなー?」
「来てるなら色々教えたいんだけどなぁ、もう教えられる日も少ないし。」

どっ、どっ、どっ、と心臓が騒ぎ始める。女神の先輩が大丈夫?と心配するように声をかけてくれたが、うまく返事ができない。
天童さんは、ニヤついた顔でまっすぐ私を見ていた。

「まっ、全部あの子次第だけどね!」

挑発するように。期待するように。ごく、と生唾を飲んだ。なんのために白鳥沢に来た。なんで私はここにいる。もう教えてくれる先輩はいなくなる。私にできることはなんだ。
私に、何ができる。

トン、
揺れた紙袋の角が、足に当たった。そんなことにも驚いて下を向けば、大きくなったバボちゃんが私に笑いかけていた。

それを見た最後に、私は階段を駆け下りた。

「あの…っ!!」

意を決した声は、誰に届いたのだろうか。
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