17

「寒河江くんたち、昼練とかないの?」
「特にはないなー」
「ないな」
「? じゃあなんで▽は部活行ってんの?」

 は?と首を傾げたのは俺と寒河江の二人。なぜか仲良し四人組に認定された俺たちは(俺は断じて認めていない)成り行きで一緒に飯食ったり喋ったり。女の子とこうして関わることも少ないからまぁいいっちゃいいんだけど。

「▽いっつも昼はいないんだよねー」
「そー言えばそうだな」
「……なんて言って出いってるんだ?」
「部活」

 本音を言えば昼も練習したいが流石に監督にオーバーワークだと怒られる(牛島さんは前科持ちだ)し、部活なんてあるはずがない。でもまぁアイアンマンだけがいない理由は思い当たらないわけではない。

「準備か……」
「だろうな」
「え?まだ昼だよ?」
「この前、すげぇ怒られてただろ、準備遅いって」
「やっばかったね、あれ。マネ全員逃げたじゃん」
「練習に遅らせないために今やってんだろ、多分」

 ごちそうさま、と心の中でつぶやいて、ちょうど食い終わった弁当をせかせかとハンカチに包んで弁当入れにしまう。それと入れ換えにおにぎりを取り出してラップを捲った。食い足りなくて腹減った。

「なんで手伝わないの?」
「え」
「……別に、今やらなくてもいいことをやってるだけだろ」
「…………ふーん。」

 まぁいいけど、と卵焼きを口の中に運ぶタチバナさんに俺と寒河江は少し気まづくなった。俺が言ったことは間違ってないし、現にあいつを手伝おうとする先輩はことごとく断られている。行ったところで無駄なんだ。

「でもあのままじゃ、あの子潰れちゃうんじゃない?」
「結構打たれ強いと思うけど。泣いたところ見たことないし」
「あー、それもそうだなー。あんだけ怒られて涙一つ見せないとかだいぶメンタル強いと思う」
「はぁ……これだから男ってやつは……」

 肩を竦めてやれやれといったように首を振るタチバナさんに少しばかりイラっとする。部外者のくせに、あいつが全然使えないこと見てたくせに。

「女の子がそんな単純なわけないじゃない。特に▽は、見るからに打たれ強いじゃなくて我慢強いだけじゃん」

 それになんの違いがある。くるくると頭上ではてなマークを飛ばす俺らにケラケラ笑うタチバナさんが同級生なのに大人っぽく見えた。

「ごめん!ただいまー!」
「あ、おかえり▽。今日早かったね」
「部室に先輩来ちゃって着替えるって言ってたから引き上げた!あー、お腹すいたーっ」

 ガタガタと机を動かして引っ付けるアイアンマンに俺らは何も言えず。そんな俺らを気にも止めず、アイアンマンは女の子らしい弁当入れに手を突っ込んでいた。

「部室で何してたんだ?」
「え?あー……、ちょっとね」

 しし、と笑ったアイアンマン。せっかく寒河江が聞いたことを笑って流しやがって、と眉間にシワが寄りそうだったが、寒河江に仲良くと言われた手前必至に顔に出すのを抑える。

「そう言えば監督にさっき会ったんだけど、来週の土日は練習試合だって!」
「お、まじか」
「……どこと?」
「まだ聞いてないけど、大学生だって〜」
「へぇ、大学生と試合するんだ」
「うん!うちは県内トップだから良い相手いなくてね、」
「……試合に出れるメンバー、いつ発表とかは聞いてないのか?」
「五色くん……?」

 アイアンマンの言葉に心臓がグツグツと熱を持つ。練習試合、もし選ばれて結果を残せたらインハイ予選のメンバーに選ばれるかもしれない。俺は今んとこベンチ入り候補に上がってるから、チャンスが来た、と体が熱くなる。

「まだ、聞いてないけど、一年は積極的に出すって、言ってたかなぁ」
「まじ?俺も頑張らねーとな!」
「試合、出れると良いね」
「俺、牛島さん目指してるから、絶対結果残す」

 日本中が認める3大エースの一人、牛島若利さん。誰も止められない左手の強烈なスパイクは、いつ見てもかっこいいし、憧れる。俺は、絶対牛島さんみたいになってやると決めているんだ。

「おぉー、燃えてるね〜五色くん。そんなキラキラした目はこの前の部活ぶりだわ」
「こいつ、部活じゃ性格変わるから」
「別に変わってない」
「えー、変わってるよね?▽」
「えっ」

 ポト、とアイアンマンの弁当の中に逆戻りしたたこさんウインナー。そこに振るか?と言葉なく苦笑いする寒河江に俺は視線を逸らした。つーか、この前の部活来てたんなら俺とアイアンマンの関係くらいすぐわかるだろ。良くないんだよ。それもかなり。

「う、うーん、どうだろうねぇ……」
「先輩とかにはワンコって感じだよね、五色くん」
「どこがだよ」
「全部がだよ」
「別に変わってないし、どうだろうと俺は俺だから」

 流石に空気に耐えられなくなって席を立った。どこ行くの?とケラケラ笑われて聞かれたのに対して特にいらない飲みもん買ってくると誤魔化した。アイアンマンも好きじゃないが、タチバナさんもだいぶと苦手だ。


「なんで▽と五色くんって仲悪いの?」
「私が仕事できないからです」
「△さんネガティブすぎだろ」
「でも本当のことだよ」

 初めて会った時からなんとなく違和感だった。▽と、その他の部員との距離感。まぁ知り合って間もないって言うのが一番大きな理由だとは思うけど、どこかみんな▽に対してよそよそしく感じた。

「なんとかならないわけ?」
「え、俺?」
「寒河江くんだって▽によそよそしいじゃん」
「ちょ、それ本人の目の前で話す?」
「イロハ…まだ入部して間もないから仕方ないって」

 ムカついて仕方ない。お前らはマネをなんだと思ってるんだと怒鳴りたくなるほど。前の部活を見て心の底から思った。特に五色くんは常時ひどいと思う。人見知りしてるのかは知らないけど、▽への態度が刺々しすぎる。

「まぁ俺もちょっと距離感掴めてないもんなぁ」
「そんな焦らなくても大丈夫だと思うけど……」
「甘い!▽は甘すぎる!」

 寒河江くんは▽をそこそこ気にかけているようだった。ここから崩していくしかないと直感で思う。

「俺も先輩たちに習って▽って呼ぼっかな」
「ど、同期に言われるとちょっとドキッとするね、」
「同期だけに?」
「さっむ、タチバナさんさっむ」

 会って間もないけど、▽とは結構相性がいいと思った。入学早々いい子に出会えてだいぶラッキーだと思う。ついでに寒河江くんも話しやすくてちょうどいい。五色くんも、部活の時の彼を見てびっくりしたけど部活中の彼は結構いいと思った。クラスではアレだけど。

「じゃあ私も、勇将って呼ぶ」
「……おお、ドキってすんな」
「同期だけに?」
「タチバナさんちょっと黙ろうか」
「私もイロハでいいよ、勇将って呼ぶし」
「女子を呼び捨てとかいつ以来だろな〜」

 寒河江くん、もとい勇将はノリが良くて助かる。これで▽とも仲良くなればもっといい。

「これで、ちょっとは仲良くなったな」
「そうかな?」
「そーだよ」
「ふふ、じゃあ嬉しいな」

 幸せそうに笑う▽にかわいいと反射的に思った。勇将も同じようで、顔を固まらせて▽を見つめている。この顔は結構傑作だ。

「と、友達になったんだから、これからはもっと俺を頼ってくれよな!▽!」
「うん!いっぱい頼る!」

 ほっと安心した私に、勇将が口パクで「さんきゅ」と伝えてきた(気がした)。なんだかんだで優しいやつだ。▽のことずっと気にしてたんだろうから、いいきっかけになって良かった。

「ねぇイロハ、次授業なんだっけ」
「わかんない。勇将はわかる?」
「数学」
「うへぇ…」
「どんまい、イロハ」
「▽も勇将もいいよね、勉強できて」
「普通だよ」
「おう、もっと讃えろ」
「ばーかばーか」
「んだとこら」
「……お前ら、いつの間に仲良くなったんだよ」
「「え?」」

 主に二人(▽と勇将)に向けて発せられた五色の言葉にニヤリと笑った。早くこっち側に来い来い。

「別に、普通だよ?ね、▽、勇将」
「普通じゃないかな」
「ま、そういう事だ」
「…………別にいいけど」

 気にくわなさそうな五色の顔を見て、次はお前だと犯罪者さながらのセリフが頭をよぎった。人を見る目に定評のある私が選んだ三人なんだ。絶対もっと仲良くなれると自信がある。
戻る - 捲る
目次
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -