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「おら△ーーッッ!!!!」
「ハイ今行きますッ!!」

「おー、今日も全力ダッシュだなぁ」
「うちの名物になりそうだね」
「この前ランニングしてる横を抜かれて通り過ぎていきましたよ」
「▽ちゃん、卒業するまでに短距離選手になれそうだね」

そんな話を横で聞きながら確かによく走ってんなと一瞥した。待望と言われていた新人マネ。
一つ上も同学年も一時期はマネがいたが、使えないどころか選手目当てで来たやつはたかが知れてる。監督が怒鳴る姿を見てはないが、そんなの見る前にさっさとやめてしまった。黒沢さんが抜けてしまったあとはマネがいなくて俺ら旧一年が全部させられていた。

正直、手は荒れるわ練習の時間は削られるわで散々だったからマネの存在はありがたい。けど。

「っちょ、▽ちゃんタイマー変なところで音鳴ってるよ!?」
「っ!?!?えっ、あ、えっ、なんでっ、!?」
「△ーーッッ!!テメェいつになったらタイマーできんだこのボケがァ!!!」
「スッスススイマセン!!!!」

ペコペコと監督にも部員にも頭を下げる新マネ。本当に中学三年間マネやって来たのかよって突っ込みたくなる。途中で来て途中でやめたあの2人の元マネよりは幾分マシだとは思うが、ドリンクをこぼすわタイマーはいつも同じミスをするわで大概だった。マネやるの四年目には見えねぇ。黒沢さんができるマネだから特に思う。

「…………おい」
「っ!!は、ハイッ!!」

新マネの後方にいる太一が「言いすぎるなよ」とこっちを見ていたが、俺が言わなかったら誰がこいつに言うんだ。監督ともう明日しか来ない黒沢さんだけだろ。

「何回同じミスすれば気がすむんだよ」
「す、すいません……、」
「毎日してんじゃねぇか」
「……すいません、」

泣きそうなのか、怒ってるのか、よくわからないくしゃっとした顔。泣きそうな顔をする時はあるが泣いたことはないこいつは本当に言ってることをわかってるんだろうか。「はい」か「すいません」しか直接聞いたことない。
なんで毎回タイマーのミス……、………………つか毎回この練習の時ミスってるよな。しかも今回は黒沢さんも隣で見てた気がする。

「……お前、」
「は、はいスイマセンッ!」
「……ちょっとそこ代われ」

青い顔するマネの隣に行き、タイマーの操作面の前に立った。試しにいつもと同じようにボタンをいじって開始ボタンを押せば、規則正しく時間を進めていくタイマーの画面。

「あ、あの、白布先輩、」
「黒沢さんにも見てもらってたよな、さっき」
「っはい、……一緒に確認しながらやってもらいました、」

なんだなんだとこちらを見る視線のうるさい野郎どもは放っておき、問題となるインターバルのカウントまであと数秒。

「っあ、」
「…………やっぱりな」
「あれ、音鳴んないじゃん」
「何かあったのか?」

瀬見さんが心配の面持ちでやって来ては現状を説明すれば、タイマーの心配より先に俺が気づいたことに驚いていた。そっちかよ。

「監督〜」
「倉庫に別のやつあるからそれ使え」
「はーい」
「△!!壊れてるのくらい気づきやがれ!!」
「すいませんッ!」

結局怒られた。別に擁護したわけじゃないが機械の故障はどうしようもない。まぁ気づかないほど他のに手一杯なのは見ててわかるけど。

「やっさしーじゃん、どうしたの」
「うるさいです」
「お前本当に俺のこと先輩って思ってる?なぁ?」

ふぅ、とため息をついてその場に背中を向けた。あ、そうだ、

「なぁ」
「あのっ、」

俺が振り返ればバッチリ合った視線。そう言えば、面と向かって顔を見たのは初めてな気がする。いつもは下を向きがちなマネだから。

「すっすすすすいませんッ…!」
「なんだよ」
「いえっ、白布先輩からどうぞ、」
「なんだっつってんだろ」
「ハイ。」

おずおずとビビった顔で口を開いたマネ。なんのようなのか見当もつかない。

「あの、その、ありがとうございました、助かりました、」

え、なにに。と一瞬だけ思った。ちら、とタイマーを見たマネに、あぁ、と肩を下ろした。助けたつもりなんて微塵もなかったし、礼を言われることをしたわけでもない。

「あぁ」

でもまぁ、初めて礼を言われたわけだから記念にそれは受け取っとく。監督と同様に(気づけよ)と思ったが今日は水に流してやる。

「あの、白布先輩のご用件は…、?」
「悪かった」
「え」

やべ、めっちゃ間抜け面。ちょっと笑いそうになったけど持ち前の表情筋が耐えてくれて感謝した。

「無駄に怒っただろ」

機械の故障でこいつのミスじゃないのに説教垂れてしまったからな。毎日俺に説教くらってビビりまくってるこいつからしたら今日のことは納得いかなかっただろう。俺は絶対逆ギレする。

「や、でも気づけなかったですし、そんな、」
「そうだな」
「うっ……」

ちら、と時計を見ればもう夕方の5時前。そろそろゲームが始まる頃だ。

「ゲームの準備、しとけよ」
「え?」
「第3木曜のこの時間、コーチも職員会議終わって練習見にくるからゲームすんだよ」
「っ!? す、すぐして来ます!!」

あの様子なら黒沢さんに教えてもらわなかったらしい。まぁ最初は覚えることが多いからここまで教えてないんだろうが。
慌てて礼をしてからパタパタと走って黒沢さんのところに向かったマネが身振り手振りで色々話しているのを最後に、視線を逸らした。

「えっ、そんなルールあったの!?知らなかった〜、じゃあ準備しよっか、▽ちゃん」
「はいっ!」

いや、知らなかったのかよ。

「初めて知った」
「は?わかんだろ、普通」
「曜日とか時間とか気にしたことねぇもん」
「準備してたほうが楽だろ」

話しかけて来た太一に適当に返事をする。太一も体を伸ばし始め、試合に向けて準備を始めた。今日は大平さんが好調そうだったな。

「どういう心境の変化?」
「は?」
「▽に教えるのとか、初めてだろ」
「…………別に、そんなつもりねぇよ」
「ふーん」

まぁあれだ、早く使えるようになってもらわなきゃ俺らが困るし、今日無駄に怒ってしまったお詫びってことにしておこう。

「……今日はゲームの準備できてんだな」
「はいっ!」

ふん、と満足そうに一息ついた監督によしよし、と俺も少し満足した。初めて怒られずに済んだんじゃねぇの。

「……嬉しそうな顔しちゃって」

そんなことを太一が言ってたのなんて聞こえないほど、その時意識はマネに向いていたらしい。
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