10

「えーたくん、△さん慰めてあげてよ」
「負のオーラ纏いすぎて近寄れねーよ」

1人水道の前で今にも死にそうな雰囲気を醸しながら大量のボトルを洗う△さん。紡先輩がいなかった今日1日、新マネの△さんは一日中怒られまくっていた。主に賢二郎と鍛治くん、それからたまに五色から。

「ドリンクひっくり返したの面白かったね」
「笑えねぇわ馬鹿」

てんてこ舞いの言葉がお似合いなほどパニックになってた。ドリンクをひっくり返したり名前間違えてボトル渡したりタイマーも何回かミスしてた。鍛治くんからはスコアの書き方をめっちゃ怒られてた。それはもう俺らよりも。明日来ないんじゃないか?って思うほどの怒られっぷりだった。

「あいつも頑張ってんだけどなぁ」
「ま、ウチのマネはやること特に多いらしいし、この人数に対してマネ1人だし。」

そもそもまだウチのマネになって3日目だ。初日なんて最後の数時間しかいなかったからマネとして本格的に働き始めてたったの2日。できる方がおかしい。それでも部員が少し苛立ってたのは、紡先輩と比べてしまうからで。

「やめるかなぁ、△さん」
「さぁどうだろね。俺ならあんだけ怒られたら辞める」
「俺は…悩むな」

別に俺らはもう三年だし、雑用とか一年に任せて何もしないからどっちでもいいけど、あんだけでかい声でマネ宣言したのなら、と思ってしまう。今のままじゃ完全に邪魔になるけど。

「あ、太一が行った」
「え?まじ?珍し」

体育館の入り口でこそこそ話していたら、予想外の人物が△さんに近寄った。本当に意外だ。太一はこういうのは影で見守る方だと思っていたのに。

「△さん」
「はいすいませんッ!!」
「いや、まだ何も言ってないけど…」
「あ、…すいません、」

第一声がすいませんって。それだけで今日1日どれほど怒られてたのかがよくわかる。

「えー、あー…その、大丈夫?」
「………え?」

「ちょ、川西が慰めてんぞ」
「めっずらしー、誰に言われたんだろ」
「おいおい、川西の良心かも…………は、ねぇか」

まぁ、本当のところ部員全員が苛立ってたわけではなく、むしろ大半は心配するような目で見ていた。恐らく賢二郎にボコボコに怒られてるのを間近で見ていた太一は特に思うだろう。それにしても慰めに行くとは思わなかったかも。
ちら、ちら、と水道の方を気にする部員が多々いる中で、どういう流れで太一に白羽の矢が立ったのだろうか。

「まぁ、ほら、△さんまだマネになって2日?だし、全部が全部できるわけじゃないしさ」
「……すいません、」
「あー……責めてるわけじゃなくて、」

頑張れ川西、と顔に書いてある英太くんを見て思わず笑った。そこまで気にするなら自分で行けばいいのに。
みんながみんな、あのマネに対する接し方が探り探りだ。学校が始まったわけでもないから同じクラスメイトなんていないし、かく言う俺もまだ距離を測っている。初対面なんて所詮そんなもの。しかも別性ときた。男より気を使うものが多々ある。

水道周囲で気まずい空気が流れて太一も目に見えて困っていた。あ、見てるのバレた。え?助けてくださいって?よし、優しい優しい覚先輩が抜群に頼れる英太くんを派遣しよう。

「って事で英太くん、太一が困ってるからよろしく!」
「は!?何言ってんだ、俺が行くならお前も道連れだ!」
「いやぁ、遠慮しとくよ」
「なんのだよ」
「いーからいーから」
「っちょ、押すなって!っこのやろッ、」

グイグイと背中を押して体育館から英太くんを突きだせば、わかったよ!と半ギレでその場を後にしてくれた。やっぱり頼りになるぅ〜〜。

「おい!△!」
「ひっ、は、ハイッスイマセンッ!」

英太くんの声に過敏に反応した△さん。どうするんだろ、と眺めていたら、後ろからボールを持った獅音くんがひょっこり現れた。

「何見てるんだ?」
「んー?あれ〜」
「あぁ、△さんたちか。瀬見に川西って変わったメンバーだな」
「△さん慰め隊〜」
「……なるほど」

獅音くんは△さんをさりげなくサポートしていたから気になっているんだろう。スマートすぎて△さん気づいてなかったっぽいけど。

「まだ落ち込んでいたのか?」
「今にも死にそうだったよ」
「責任感が強そうだからな、△さんは」

そんなこんなで2人して水道の前にいる3人を傍観した。△さん物凄くテンパってるけど英太くんは何を言ったんだろう。

「部活終わったらコンビニ行くぞ!」
「はいっ、……………………え?」

ぽかん、と口を開けて目を瞬かせる△さん。なんて間抜け面だ、と思いつつも英太くんの声かけになるほど、英太くんらしいなと感じた。

「奢りっすか、瀬見さん」
「お前じゃない」
「え、あ、あの、っ」
「マネの仕事終わったら声かけてくれ、お前も行くぞ川西」
「え」
「せ、瀬見先輩っ、」
「なんか予定あんのか?」
「ないですッ」
「じゃあ行くぞ」

その言葉を最後に英太くんがわしゃわしゃと△さんの頭を撫でた。△さんはよく撫でられているイメージが強いなぁ。

「は、はいっ!」

そんな△さんの返事に満足したのか、2、3言話したあとに英太くんと太一が体育館に戻ってきた。あ、英太くんに睨まれてる。

「天童!よくも俺1人で任せやがって…!」
「まぁまぁ、いいじゃん、コンビニ行ってくるんでしょ?」
「すげー変なメンツですけどね」

ちょっと不器用でお節介焼きの英太くんに、マイペースだけど心配症な太一、そしてまだ部員と馴染めていないおてんばマネ。何その面白いメンバー、尾行しよ、と目論んでいたら、獅音くんが「尾けようとか思うなよ」と先に咎めてきた。まだ何も言ってなかったのに。
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