07


 不安げにボクを見つめる芳野麗子をそっと抱き寄せる。あっ、と小さく息を漏らし、彼女の美しい肉体はボクの腕のなかに収まった。
「嬉しい。ボクも麗子が大好きだよ」
 彼女の鼓動が密着した体から伝わり、ボクを興奮させる。欲望に任せて行動しそうになる自分自身を必死に食い止めた。余計なことをしては駄目だ。ゲーム通りに行動しなくては。
 彼女がおずおずとボクの背中に腕を回す。
「本当……? どうしよう孝太くん。わたし、いま、すごく幸せよ……」
 ゲームのエンドロールを見つめながら、昨日ボクは約束された明るい未来に声をあげて喜んだ。そして芳野麗子はいま、ボクの腕のなかにいる。
 ボクのことを気にも留めなかったクラスメートに見せつけてやりたかった。彼女の美しい笑顔も、中学生とは思えないほど成熟した体も、これからはボクのものだ。全部全部、ボクだけのものなのだ。

 ボクはその日、ふわふわと浮わついた気持ちで家に帰った。明日から始まる愛らしい恋人との甘い学校生活を思うと、顔がにやけるのを抑えられない。
 自室に入るとボクは無意識のうちにゲームを起動していた。この半年のうちに習慣化していたらしい。
 昨日エンディングを迎えたんだから、もう起動しないだろうな……。そう思っていたのに、予想に反してゲーム画面はパッと明るくなった。
 夕陽に照らされた廊下のグラフィックが映し出され、主人公の内面がテロップとして流れる。
『放課後、ひとりで廊下を歩いていると、向こうから女の子が両手いっぱいにプリントを抱えて――』
 見覚えのある内容に首を傾げる。目の前でヒロインである「よしのれいこ」がプリントを落としたところでボクはすべてを思い出し、言葉を失った。
 それはゲームを始めて最初に見た、「よしのれいこ」との出会いのシーンだったのだ。




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