05


 グラフィックを見る限り主人公は学校の図書室にいるらしい。そこにやって来た「よしのれいこ」が声をかけてきた。
『よしのれいこ:やっぱりありむらくんだ。昨日はありがとう』
 前日の礼から始まり、ふたりの話題は探している本へと変わる。画面のなかの彼女に、なにかおすすめの小説はないか尋ねられた。
「困ったなあ」
 ゲームには精通しているが、文学には詳しくない。選択肢のなかの小説はどれもタイトルくらいしか分からなかったが、とりあえず外国人作家が書く有名な探偵シリーズを推すことにした。
 ありがたいことに、その項目を選択すると主人公が勝手に小説の魅力を語り出した。「よしのれいこ」はそれを熱心に聞いている。ゲームの主人公が話す内容をボクも懸命に頭に入れた。
 予想通り、「よしのれいこ」との会話が終わったところでゲームはまた動かなくなった。


 昼休み、ボクは図書室に来ていた。普段はわざわざ自分から足を運ぶことなどないが、今日は来なくてはならない理由がある。
「有村くん?」
 小説のコーナーで適当に本の背表紙を眺めていると、やはり声をかけてくる人物がいた。体温が上がり、鼓動が速まる。
「やっぱり有村くんだ。昨日はありがとう」
 予定通りの言葉、穏やかな微笑みを浮かべる芳野麗子。
 相変わらずどもり気味ではあるものの、昨日よりはまともに会話をすることができた。案の定おすすめの小説を聞かれ、ゲームの主人公が話していたことをそのまま口にする。
「今日も有村くんにお世話になっちゃった。そうだ、明日お礼にクッキーを焼いてくるね!」
 そしてゲームと同じように、手作りのお菓子をもらう約束をする。
 とんでもないものを手に入れた、と思った。ゲームのヒロインと仲良くなるにつれ実際の想い人にも近付くことができる。ゲームのなかの出来事が現実になるのだ。




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