04


 丸一日経った、翌日の放課後。ボクは夕陽に照らされた廊下を歩いていた。
 クラスの連中に掃除当番を押し付けられ、帰るのが遅くなってしまった。爪先に向けていた視線をなにげなく上げる。そしてギョッと目を見開いた。向こう側から大量のプリントを抱えて歩いてくる芳野麗子が見えたのだ。
 なんだか見覚えのある光景に急激に心臓が騒ぎ出す。そう、それは、昨日プレイしたあのゲームによく似た場面だった。
 まさかとは思ったが、芳野麗子は目の前で手を滑らせ、プリントを盛大に散らかした。
 顔を真っ赤にして慌ててプリントをかき集集める彼女に、ボクの鼓動の高鳴りは最高潮に達した。普段なら萎縮してしまってとてもじゃないが手を貸すことなどできないが、このときのボクの体は妙な確信と好奇心に支配されていた。
 震える手でプリントを拾い彼女に向かって差し出す。彼女は顔を上げ、とても美しく笑った。
「ありがとう、手伝ってくれて。わたし、C組の芳野麗子。あなたはなんて名前なの?」
 昨日目で追った台詞が、声となって耳から侵入する。返答するために口を開いたが、唇が細かく震えていた。
「び、び、B組の……あり、ありむら、有村孝太………」
 やっとのことで言い切ったボクの名前を聞き、彼女の形の良い唇がきゅっと持ち上がる。
「有村くんって言うんだ。よろしくね」
 ゲーム画面で見たものより何倍も可愛らしい笑顔を見せ、「本当にありがとう。気を付けて帰ってね」と言うと、再びプリントを抱え彼女は立ち去った。
 しばらく呆然とそこに立ち尽くしてから、ボクはようやく動けるようになった脚で全速力で帰宅した。
 フリーズしたまま放置していたゲームを手に取り、ボタンを押す。何事もなかったかのようにあっさりとゲームは起動した。
 ゲームのなかでの日付は翌日に変わり、どうやら時間的には昼休みにあたるようだ。




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