03


 画面が切り替わり、夕陽に照らされた廊下が映し出される。これが舞台となる学園なのだろう。
『放課後、ひとりで廊下を歩いていると、向こうから女の子が両手いっぱいにプリントを抱えて歩いてきた。プリントは女の子の胸よりも高く積み上げられ、いまにも崩れそうだ――』
 表示される文章を目で追う。ありきたりな展開だな、と思った。
 主人公の前まで来たところで、案の定その少女は手を滑らせて抱えていたプリントを落としてしまった。
 プリントを拾ってあげるか無視して通り過ぎるかの選択肢が表れ、ボクは深く考えることなく拾ってあげる方を選んだ。ゲームのなかでくらい積極的に女子と関わりたい。
 廊下のグラフィックから慌ててプリントを拾う少女のグラフィックに切り替わり、そこでボクは思わず息を飲んだ。
 艶やかな黒髪に大人びた顔立ち、抜群のプロポーション。少女は芳野麗子にそっくりだった。
『よしのれいこ:ありがとう、手伝ってくれて……。わたし、C組のよしのれいこ。あなたはなんて名前なの?』
 数秒の間のあと、彼女の表情が愛らしい笑顔に変わる。どうやら主人公が名前を教えたらしい。
『よしのれいこ:ありむらくんって言うんだ。よろしくね』
 先に進もうとボタンを押したところで、画面が真っ暗になった。次のグラフィックを読み込んでいるのかと思ったのだが、待てども待てども画面が変わる気配がない。
「げっ、壊れてんのかよ……」
 盛大に顔をしかめ、ボクは持っていたコントローラーを放り投げた。せっかく憧れのひとによく似たヒロインと出会えたというのに、これ以上プレイできないなんてあまりに酷だ。
 しかしどうにも腑に落ちないのは、ムービーで彼女を見た覚えがないことだった。あんなに芳野麗子そっくりなら、すぐに目がいきそうなものだが。
 首を捻りつつ、どうせもうプレイできないのだから、とボクは考えるのをやめた。




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