02


 大学を卒業し、てっきりそのままこの地で職に就くのかと思われた友人たちのほとんどが地元に帰ってしまった。昨日散々怒鳴られている姿を見られた分、会社の同僚と連絡をとる気にもならない。学生時代に別れたきり彼女と呼べる存在の女もいなかった。
 完全に暇を持て余した俺は、とりあえず昨夜借りてきたアダルトDVDを観ようとプレイヤーをいじり始めた。
 DVDをセットし、再生ボタンを押す。テレビ画面にAV女優が写し出されたところで、なにやら物音がした。
 特に考えることなく背後を振り返った俺は、そのまま動くことができなくなった。
 先程まで俺が寝ていたベッドのうえに、見知らぬ女が立っていたのだ。
 白いワンピースに肩までの黒い髪。背筋が急激に冷えたが、足はある。ちなみに裸足だ。
 それまでキョロキョロと室内を見回していた女は、俺と目が合うと表情が変わった。勢い良く腰を落とすと両手で俺の右手を包み込む。ぎょっとせずにはいられなかったが、女の手は温かかった。
「お探ししました!」
 いまにも泣き出しそうな笑顔で俺を見つめる女。どうやら幽霊ではないようだ。騒ぎ立てる心臓が徐々にもとの速さに戻っていく。しかし混乱する気持ちは拭えない。
「あなた様を探して一晩中飛び回っておりました。まさか大人になった翌日に再会できるなんて……」
 俺の手を握ったまま感慨深げに女は言う。昨日大人になったとは、ハタチになったということだろうか。それとも処女を捨てたということだろうか。俺のうしろでAV女優が作り物の喘ぎ声をあげている。
 随分落ち着きを取り戻した俺は、このときになってようやく目の前の女をじっくり観察する余裕ができた。不細工ではないが、特に美人でもない容姿。丸襟のワンピースは少々レトロだ。身長はそんなに高くない。
 俺を探していた、再会できた、と女は言った。つまり俺たちはどこかで会ったことがあるということなのか。
 そしてもうひとつ、聞かなくてはならないことは。
「どこから部屋に入ったんですか……?」
 恐る恐る女に声をかける。やっと口を開いた俺に、女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「はい、窓です!」
 窓。まど。マド。
 確かに玄関には鍵をかけていたし、そもそも玄関から入って来たなら玄関側を向いている俺の視界に入ったはずだ。ある意味女の答えは俺を納得させ、同時に疑問を増やした。




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