平均よりいくらか高い身長。教師にうるさく言われない程度に染めた中途半端な髪色。学力は普通、運動はまあそこそこにできる。中学生のときにはひとり、交際していた子もいた。
どこにでもいそうな、ただのクラスメートAといったポジションでしかなかったであろう俺を、彼女がどうして気に入ったのか分からない。
強いて理由を挙げるなら、ウマが合ったのだ。
あの一件以来、笹原桂は、俺と親しく話すようになった。暇さえあれば俺のもとを訪れ、何気ない会話を繰り返しては屈託なく笑って見せる。
彼女が登校すれば同時に俺にも視線が集まり、廊下を並んで歩けば道行く生徒がギョッと目を見開いてこちらを振り向く。
まさしく、羨望の眼差しを浴びながらの高校生活がそこにはあった。
始めの半月ほどは、隣に彼女がいないときを狙ってクラスの男子がちょくちょく寄ってきた。どうやって仲良くなったんだ、いつから付き合っているのか、ふたりの関係はどこまで進展したのか。周りから降り注ぐ質問のパターンは1日で把握した。
そしてそのたびに俺は同じ言葉を返すのだ。どうやって仲良くなったのかはこちらが聞きたいし、付き合ってなどいないし、進展もなにもクラスメートから友人になったくらいだと。
彼氏はいるのか、メールアドレスを教えてもらえないかと、毎度同じ質問ばかりされる彼女の苦悩が分かった気がした。
俺も男であるため、自分に毎日笑顔を振り撒いてくれる女の子に対して、なんの期待も持たなかったと言えば嘘になる。けれども「ふたりで遊びに行かないないか」との誘いを二度断られた時点で、俺の淡い期待は砕け散った。
つまり彼女は、あくまでも友人として俺を慕っているのだ。
しかしながらそれならそれで構わないとも思った。俺自身、正直な話彼女にそこまで強い好意を寄せていたわけでもなく、良い友人だと思ってくれている女友達にこれ以上無粋な下心を向けることはできなかった。女友達、というカテゴリに所属させるには随分と浮いた存在ではあるのだが。
一応進学校を名乗る我が校が夏期講習にまみれた名ばかりの夏休みを終える頃、俺と彼女――笹原桂は、お互いを下の名で呼び合う仲になっていた。
「わたし、男子を下の名前で呼び捨てにするのなんて初めてよ」
そう言って桂が照れくさそうに肩を持ち上げる。雪のような美少女に、いまだかつて恋人と呼べる関係の男がいなかった事実を俺は初めて知ったのだった。