それからこっそりと料理教室に通い始めた。 週に一回、バイトと偽り家を空けることは少し心苦しかったけれど、まずは何としてでもまともな料理を作れるくらいにはなっておきたかった。 忍は先生の教えを何度も復習し四條が家にいない時も練習した。 しかしながらその間、四條の態度はどんどん冷めていった。 「また、これかよ」 それはまだ手料理は食卓に上げられないと判断した忍がやはりスーパーの惣菜をテーブルに並べた時に言われた。 すぐに別の物を出す、と慌てるも四條はもういいと立ち上がる。 そして寝室に入っていく四條の背を見つめることしか忍にはできなかった。 涙腺からじわりとあたたかいものが込み上げてきたけれど、ぐっと堪えてテーブルを片した。 一通り家事を終え、つい癖で寝室に入ろうとしたところで我に返る。 (四條くん怒ってるんだった……今日はソファで寝よう) 元々、同居を始めた当初はソファを寝床として借りようと思ってたくらいだからどうってことはなかった。 それに寝室には少々苦い思い出がある。 あれからベッドは買い換えたようで、多奈川の痕跡も綺麗さっぱりなくなっていた。 それでもキングサイズだからと言って四條と同じ床に入るのにはやはり抵抗があったのだ。 クッションとタオルケットで簡易的に寝床を作り、電気を消した。 四條には明日の朝一に謝ろうと決め、瞼を閉じた瞬間だった。 がちゃん、と大げさな音を立て、寝室の扉が開いた。 忍はびっくりして飛び起きると不機嫌を具現化したような四條が仁王立ちしていた。 「おい、シーツ」 「え……っと、シーツ?」 「換えたか?今日。なんか汚れてる」 「ご、ごめんなさい!すぐに交換するね!」 確かにその日忍はベッドのシーツを新しい物に換えていたはずだった。 けれどそんなことに疑問を抱かず、忍は換えのシーツを片手に寝室に入った。 すると背中をどん、と押されベッドへうつ伏せに倒れ込んだ。 同時に後ろから乗っかられる。 「いいだろ?」 耳元からダイレクトに四條の囁きが響き、忍の思考をくすぐった。 こくり、と忍が頷くと武骨な手がするりと服の中に入り肌を滑り撫でた。 忍は出来る限り息をせず、そっと目を閉じた。 四條と再び関係を持つようになったのは同居を始めたその日からだった。 ソファではなく寝室で共に眠ることにようやく承諾しベッドに潜り込むと、覆い被さった四條がキスしてきたのだ。 驚きを隠せない忍だったが、四條は毎日そういう相手がいたことを思い出した。 確かに自分がいては早々誰かを連れ込むことはできないだろうと納得した。 それからはほとんど毎日行なわれるようになり、忍はいつそうなっても大丈夫なように風呂に入ると自ら後孔を解すようになった。 四條との行為で一番大切なのは両手を握り締めることだ。 でなければ、与えられる刺激でついしがみついてしまいそうになるからだ。 もう一つは声を出さないこと。 これは忍の喘ぎ声によって四條を萎えさせないためだ。 後孔を貫かれている時はできるだけ内壁を動きに合わせて収縮させる。 こうすればより気持ち良くなってもらえると、インターネットで調べた結果得た知識だ。 忍の努力は功を奏しているのか、明らかに以前関係を持った時よりも激しかった。 その分何もかも振り払って善がってしまいそうになるが、忍は堪えた。 行為後の四條は概ね機嫌が悪い。 達した後、急激に冷めることがあるのは仕方がないと忍は思っていた。 だから気を遣い後処理を口実にその場を離れたことがあった。 しかしその時はもっと不機嫌になりながら風呂場に乗り込んできたのだ。 「あ、ごめんなさい、先にお風呂使、わっ……ひゃあ」 忍がシャワーを譲ろうとしたところで、四條が腰を引き寄せた。 バランスを崩し何とか湯船のヘリを掴んだものの、四條に尻を突き出している体勢になった。 恥ずかしがる暇もなく、四條はしとど濡れた後孔に指を挿し込んだ。 そうして内部から体液を掻き出した。 忍は指がたまに善いところを掠めるのに反応しないよう努めた。 終わった時には思わず安堵の息が漏れた。 「四條くん、あの、ありがとう」 礼に対して一瞥だけで、その後も四條は無言だった。 忍は事後も細心の注意を払わなければと気を引き締めた。 忍がキャンパスに足を踏み入れたのは実に三ヶ月ぶりだった。 つい最近まで通っていたのにも関わらず、随分懐かしく感じられた。 傍から見れば忍も大学生に思え周囲に溶け込んでいるが、当の本人は部外者が恐る恐る構内を歩いているような気にしかならなかった。 本来ならばもう二度とここへ来る事はなかった忍だったのだが、昼前に四條から忘れ物を届けてほしいと連絡があったのだ。 ゼミのグループ研究に使う資料で今日は発表の準備があるから取りに戻る暇がないとのことだった。 << >> |