片っ端からキャンプ会場へと入り、参加者一覧でメンバーを確認してはため息混じりに直ぐ退出してしまう。先程からその繰り返しで。もう止めようと思うのに止められない自分に思わず「ああっ、もう!」と嘆きの声を上げた。本当、何してるんだろ。そう思いつつ、今もまた参加者をザックリ流し見して直ぐにそのキャンプ会場を抜けてしまったので頭を抱える。キャンプ巡りをしてかれこれ三時間…。時間の無駄でしかない…。

そもそも、仮に目的の人物が居たとして、わたしは一体どうするつもりなんだろうか…。自分でもよく分からないその感情に戸惑いつつ、これが最後!ともう何度目かも分からない誓いを立て、わたしはキャンプの入口へと立った。そして、漸く見つけた彼の名前にドキリと心臓が反応して汗が滲む。ばっと勢いよく顔を上げ、わたしは弾かれた様に走り出した。キャンプ内を隈無く探し回り、これでもかと目を凝らして辺りを見回す。しかし、全然見付からなくて一度足を止め呼吸を整えた。…え、居なくない?ぜぇはぁと、肩で息をしながら再び資料へと目を移す。手元の資料には未だ彼の名前があり、このキャンプ会場に居る事を示していた。うーん、何処だろう。もう一回隅の隅から探し回ってパチリ。おもむろに瞬きをし、一度大きく呼吸をする。


「…居た」


無意識にも小さく呟き、なるべく気配を消しながらそっと歩みを進める。彼は眠っていた。会場に設置してある相乗りブランコに揺られながら、ウトウトと舟を漕いでいる。…こんな所で眠ってしまうなんて。余程疲れているのだろうか。スヤスヤと無防備に眠る姿を見詰めた末、更に距離を縮めてその隣に腰掛けた。

一緒にブランコに揺られて数秒後、突然我に返りはっ!とする。っいや、いやいやいや、何で座ったの。なるべく端っこに擦り寄りつつ、反射的に作曲家の方を見やった。彼は未だに規則正しく寝息を立てているので、取り敢えず安堵の息を吐く。…綺麗な顔。睫毛長過ぎでは?わたしよりもバサバサしてる。羨ましい…。ここぞとばかりにその端正な顔立ちを観察しているとすとん。不意にこちらへと凭れ掛かって来たのに心臓が恐ろしく反応を見せた。どっきーん!と高く跳ね上がったかと思えば、それを皮切りにバクバクと高鳴りだす。…ね、寝てる、よね?右半身が僅かに重たい。そろり、そろり。そっと前を向き直しピタリと動きを止めた。そこから微塵も動けなくなってしまい、わたしは身体を固めたままゴクリと固唾を飲み、ただただ一点を見つめる。平常心、平常心っ!

そう唱えつつガチガチに緊張するわたしの前で、パシャリと写真撮影の音が聞こえてきたのにえっ?と視線を向けた。ぐぅ!と親指を立てるサバイバーと目が合い、一瞬にして顔が熱くなる。撮影機の前には、今撮られたのであろうわたしと作曲家のツーショットが晒し上げられておりぶわっ!と汗が吹き出した。


「なっ!?撮るなーっ!」


グルグルと目を回しながら、わたしは堪らず立ち上がりサバイバーへと詰め寄った。その拍子に彼も目が覚めたのだろう。寝惚けながらも瞬きを繰り返し状況を確認しようとしているのを感じ取り、わたしは逃げ出す様にしてキャンプ会場を後にした。ああああっ!と奇声を上げ、未だに熱を持ち続ける顔を隠すみたいに両手で覆う。…本当、何してるんだろう。


「…ああああ」


変わらず奇声を上げて蹲るわたしを、通りすがりの無常さんが訝しげに凝視していた。



I’m falling for you.
あなたに恋をしています。


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