相変わらずわたしの功績は最高潮だった。楽しい。この憎たらしいサバイバー勢を片っ端から狩って吊って勝ちや報酬を得るの楽しい。その一心で、ゲームに出る数を増やしてサバイバーを狩り続けているとどうしても出会ってしまう訳だ。…あの作曲家と。

月の河公園。最後の一人になった彼を探して、各暗号機を回る。耳鳴りは無し、か…。それならハッチ狙いだろうかと、ハッチ巡りにシフトチェンジしようとした時だ。キンと耳につく感じがしてふと足を止める。相変わらず音叉加速でわたしに追い付こうとするその様は、嫌でもあの日の事を彷彿とさせてわたしの思考を鈍らせた。ついまた立ち尽くしてしまいそうになるけれど、直ぐに顰めっ面で作曲家へと向き直る。


「っわ、悪いけど、全吊りさせて貰うからね」


何故か噛んでしまった。恥ずかしい。しかし攻撃の為武器を構えた刹那、作曲家が軽やかな手付きで花火を持ちハートを描いた。面食らってしまい思わずそのままま静止する。そんなわたしを見てもう一度、今度は少し照れた様な表情で。作曲家の右手が再びハートを描き、パチパチと小さく炎が散った。


「っ!?」


困惑するわたしに向かってよちよちと。作曲家が小さな歩幅でこちらへ近寄ってくる。不覚にも可愛いと思ってしまった…。ちょっとだけ!ほーんのちょっとだけねっ!?そのまま手を招いてわたしを呼ぶので、一度攻撃の手を止めて大人しく従ってみる。彼が必死になって指をさして来るのは、ジェットコースター乗り場のあるゲート付近だった。…何だろう。ジェットコースターに乗りたがってるのかと思ったけど。ここは終点だからジェットコースターがある訳でも無いし、彼が指差すのもジェッコ乗り場というよりはゲートの方に近い。

不審に思いつつ、取り敢えず指示通りに動きゲート前に立って作曲家へ視線を送った。たたたっ、と。作曲家が軽い足取りで段差をかけ登り、ジェッコ乗り場の段差越しにわたしの事を見下ろす。普段はわたしよりも低い位置にあるはずの顔が、今はわたしよりも若干高い位置にあって。何だか新鮮だったし不覚にもドキリとさせられた。そしてトドメを刺すみたいに、わたしの顔を見つめながらの鷹揚な投げキッス。瞬時に頬が熱くなるのを感じて、わたしは余所余所しく作曲家から視線を逸らした。

…駄目だ、調子が狂う。さっきから胸がざわついて落ち着かない。早く捕まえないとって頭では分かっているのに、彼の行動にいちいち動揺させられて集中出来ないのだ。そうして躊躇している間にも、作曲家はまた一歩前に出て、わたしへと向け投げキッスを飛ばした。それが、よく見るサバイバーの命乞いとは違う事に気付いてしまい僅かに迷いが生じる。小さく蹲り、クルクルとその場で回ってみせる彼にチクリと胸が痛んだ気がした。


「…ごめんね。わたし、サバイバー嫌いなんだ」


大っ嫌い、なんだ。そう零せば分かりやすく傷付いた様な顔をしてみせる。それでも、彼はゆうるりと柔らかく微笑んで見せるから良く分からない。段差を飛び降りわたしの足元でクルクル回った後、彼は近場の椅子まで赴きちまっとその場に蹲った。吊って良いよ、と言わんばかり。そこから動こうとしない作曲家に軽く下唇を噛み、今度こそ武器を振り下ろす。彼は大人しかった。風船に括られ椅子に吊られても、彼は儚げな笑みを絶やさずにただじっとわたしを見詰め続けている。


「…」


最後の一人というのもあって、彼が飛ぶまでそう時間は掛からなかった。誰もいなくなったマップに溜息を吐き、謎の空虚感に眉根を寄せる。…この胸の痛みはなんだろう。勝ったのに。全吊りしたのに。何でこんなモヤモヤした気持ちになるんだろう。


「…ハッチ逃げさせても良いかなって、思ってしまった」


本当、煮え切らなくてモヤモヤしちゃう。



I would do anything to make you smile.
君を笑顔にするためなら、どんなことでもします。


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