Novel/Series

02

「…!これは…」
強い苦味、酸味は少ない。湯気に紛れる、香ばしく…それでいて爽やかな花のような香り。

「どうだい、美味いだろう?」
ニヤニヤと灰汁の強そうな笑みが男の眼前に迫る。
「美味いよ、すごく」
「当たり前さ!言ったろう?君の好みはお見通し、ってね」
そう言って、店主の笑みが深まった。
「あんた…何者だい?」

「なに、ただのカフェのマスターさ!……今は、ね」

ニヤリ。ニヤリ。

「…何だって?」
「ふふ、暇な時にまた来るといいさ。ああ、それと」
店主は自分のエプロンのポケットをごそごそとかき回して。
「これ、君のだろう?」

万年筆を突き出した。

黒い軸に銀色の細工があしらわれたそれは、確かに男が何時間もかけて探し歩いていたものだ。
「何故あんたがこれを?何故俺のだとわかった?」
「なあに、答えは簡単さ。店先で拾ったから。それから…いや、もう1つの答えは次に君が来た時に教えてやろうじゃないか」
「…巧い商売の仕方だ」
「それで君の疑問が全て晴れるとしたら安いものだろう?知識は何より素敵で価値のある財産さ。そうは思わないかい?」

ニヤニヤ笑い続ける店主につられて、男もフフンと鼻を鳴らした。
「どうも口じゃあんたには勝てそうにもないな」
「賢明だね」
「あんたほどじゃないが、俺だって頭の回転は悪くないさ」
「成程、そうかい」
「ああ、そうだ。…さて、探し物も見つかったことだし、帰るよ。会計を頼む」
男が席から立って尻のポケットから出した財布を、店主は押し戻す。

「今日のコーヒーはおれの奢りだよ。君は面白いからね。面白がらせてくれたお礼さ」
「面白いことを言った記憶はないよ」
「君には何でもないことかもしれないがね、おれにとっては面白かったのさ」
「そうかい」
「そうさ」
「…ご馳走さん、また来るよ」
「ああ、またおいで。待っているよ」


 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -