Novel/Series

愛を知らぬ子供 01

おれは何のために生きているのか?
光もなく。希望もなく。ただ暗闇をさまようだけ。
神は死んだ。そう言ったのは誰だっただろうね?
…神なんて、最初からいなかったよ。おれのところには、ね。


穏やかな晴れの日の昼下がり。
キッチンではセリがコーヒーを淹れる練習をしているらしく、香ばしい匂いが店先に漂って来る。
師匠、師匠とおれを慕う青年は、素直で優しくて、とても可愛い。おれの弟子にするにはもったいないほどに。

だから、彼の仄かな恋慕の情に気付かないフリをする。
いつでもサヨナラできるように。
できるだけ、心を残さないように…。

何気なく窓を開くと、女性たちがお喋りをしながら通り過ぎていくところだった。
もし自分がああいう満たされた存在だったなら、彼の気持ちに応えられたのだろうか…。
そう考えてしまう自分が嫌で、思わず溜め息が漏れる。

「…嫌だねぇ。おれも年かな…ねえ、セリ」
「え?何のことっスか?」
コーヒーの香りを引き連れておれの背後に近づいてきていたセリが、心底不思議そうな声を出す。
「うーん…」
「え?え?」
「…コーヒー、くれないかい?」
「え、あ、はい!どうぞ!」
差し出した手にカップの取っ手が触れた。

ああ、美味しい。
もうこの子にはおれは必要ないんじゃないだろうか。何の能力も持たずにここまで美味しいコーヒーを淹れられる人は少ない。
「…ど、どうっスか…?」
そんなにビクビクしなくてもいいのに。
「美味しいよ」
「本当に…?」
「ああ…。まあ、おれにはまだまだ及ばないけどね!」
おどけて言うと、彼の周りの張り詰めていた空気が和らぐのを感じた。


何でお前はそうなんだい、セリ。
お前には才能があるんだ。
お前はあんなに努力しているんだ。
もっと自分に自信を持ちなさい。
もっと自分を愛してあげなさい…。

そう言えたらどんなにいいだろうね。


 
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