Novel/Series

02

バスルームのドアに背を向け、部屋の奥に足を運ぶ。
ここは俺が借りている部屋だ。元々の綺麗好きな性分のお陰で、男の一人暮らしにしては片付いていると自負している。壁際の棚の中から、つい一昨日買ったばかりの白いタオルと下着を取り出し、クローゼットからはワイシャツとスラックスを出す。俺が普段着ているものだけれど、ギリギリミイサさんでも着られるだろう。

「ミイサさん?入りますよ」
「ああ」
許可を取ってバスルームのドアをあけた。白いカーテンの向こう側では水の流れる音がしている。できるだけそちらに意識を向けないようにして洗面台の端に持って来たものを置く。ふと目を横にやると、水を吸った服がへたりと力無く横たわり、その一番上に大切そうに眼鏡が乗せられていた。
その光景に、どきりとする。
なんで、なんで俺がドキドキしなきゃいけないんだ。こんなに嫌いな相手なのに。好きなんかじゃない。嫌いだ。そう、嫌いなんだ…。
ぐるぐる回って思考の纏まらない頭を抱え、床に座り込む。視覚がなくなると、聴覚が急に忙しく働き始めて、水の音を大きく拾い始めた。
途端その音が止まり、代わりにカーテンがレールを走る音が耳に届く。
「セリ?どうした?」
顔が、上げられない。
「…何でも、ないっス」
「……」

頭の上を何度か熱が通り過ぎていく。その度に俺は体を固くして、自分を抱きしめる。
しばらくして、身支度を終えたらしいミイサさんが俺の背後に立つ気配がした。
「シャワー、ありがとう」
そっと…というよりは、おそるおそる、だろうか。ミイサさんの手が俺の髪を撫でていく。大きくて温かくてゴツゴツした手は、どこかで人の命を奪っているはずの、師匠を疑っている奴の…大嫌いな奴の手。
それなのに、なんでこんなに優しく撫でるんだ。

嫌い。
大嫌い。
ああ、でも、好き…なんだ。

「どう、いたしまして…」

ミイサさんがバスルームを出ていき、それから師匠が俺を探しに来るまで、俺はずっとその場を動くことができなかった。


 
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