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監視員 01

魔女が人に与える能力には、ある共通点がある。
それは、「他人の心に直接触れることができる」ということ。

ある者は他人の心を自分本意に動かし、ある者は他人の記憶を消去する…。
一歩間違えれば、重大な危険を伴う能力だ。
そのため、魔女との取引には膨大な数の念書を書かされ、更には自分の体の一部を差し出さなければならない。

ずっと、お伽噺だと思っていた。
魔女の存在も、そんなに危険な能力の存在も。
でも、彼と出会って、その力を目の当たりにして。もう疑う余地なんてなくなってしまった。
…あとは、見守ることしか…できない。


「やあ、セリ」
「…お久しぶりっス、ミイサさん」
店の裏口から入ると、皿を洗っていた店員と目が合った。
セリはいつも俺の顔を見るなり、嫌そうに眉根をよせる。今日も一瞬絡み合った視線を無理矢理解き、既に手の中のティーカップへと戻している。

「店主に会いたいんだが」
「…少し待ってて下さい。今日は特別なお客さんっスから」
「特別?」
「ええ。今うちの店は本屋なんスよ」
「…ああ、そういうことか」
「そ。そういうこと」

俺が頷くのを横目に、素っ気なく店員は仕事を片付け、エプロンで濡れた手を拭く。
「俺の試作品ですけど、コーヒー飲みます?」
「ああ…いただこう」
「マズくても文句言わないで下さいよ?」
じろりと睨まれて、思わず苦笑いする。

大好きな主人を嗅ぎ回っている俺は彼にとって悪党に見えるらしい。まるでシェパードみたいな奴だ。
コーヒーを淹れるため、後ろを向いた店員。大きな体を丸めるように準備をしているその背中に、言う。

「文句なんてない。最初から何もかも上手くいく人間なんていないんだからな。俺を使って練習すればいい」
一瞬動きを止めた彼は、ゆっくりとこちらを振り返り、軽く唇を尖らた。
「俺は…アンタのそういうとこが嫌いなんスよ。何もかも見透かされてるみたいだ」
「…俺だって、伊達に年を食ってる訳じゃない」

わかってる。
そう唇だけ動かして、セリは今度こそコーヒーを淹れ始めた。


 
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