Novel/Series

02

この世界の人間は生まれつき固有の能力を持っている。

大抵の人の能力はありふれた、日常生活で使える程度のもの。
でも、中にはほんの一部の強い力を持つ人にしか使えない能力や、師匠の能力のように、使うには世界中に数える程しかいない魔女たちから授かるしかない特殊な能力もある。
…まあ、そういう特別な人たちには能力を悪用しないように監視の目が付くらしいから、ひとえにいいとは言い切れないらしい。

俺は逆に、生まれつき何故か能力を全く使うことができない、珍しいケースの人間。自分の能力を生かせる職業に就くのが一般的になっている今の社会では、俺のような人間は本来隅で縮こまって生きていくしかないんだ。

師匠はこんな俺にでも、自分の技術を余すことなく全て教えようとしてくれている。厳しいし、人使い荒いけれど、すごく優しくて、尊敬できる人だ。


「セリ?まだ終わらないのかい?もう5分も経ったよ。待ちくたびれたなあー?」
「ちょ、ちょっとだけ!ちょっとだけ待って下さい!あとこのカップを濯ぐだけっスからー!」
「あんまり急いで割らないでおくれよ?」
「バッチリ了解っスー!」


食器を洗い終え、エプロンで手を拭きながらキッチンを出てカウンターへ移動すると、既に店内にはコーヒーの香ばしい匂いが立ち込めていて、思わず顔が緩んだ。

俺の足音に気付いた師匠が俺の方を振り返り、軽く唇を尖らせる。
「セリ、お前のことだから今ニヤニヤしているだろう。お客さんがいるんだ、しっかりしておくれ」
「う、スミマセン…」
窓際の席に座っている若い女性たちが、俺たちの会話に小さく笑い合う声が聞こえて、ちょっぴりヘコんだ。

「セリ」
師匠がこちらに向かって手招きをする。差し出されたカップには、黒いコーヒーに少しだけミルクを混ぜたカフェオレが注がれている。
「うわあ…!ありがとうございます、いただきます!」
ほんのり甘いそれは、初めてこの店で飲んだ物と同じ。俺の大好物だ。
「うま…」
「…お前はいつかこれを超えるコーヒーを淹れるんだ。しっかり味を覚えておいで。わかったね?」

何故か胸がいっぱいになってしまって「はい」の一言も言えず、ただひたすらに頷いた。
きっと、今師匠は優しい『目』をしてるんだろうな。だって…俺の頭を撫でる手が、こんなにも優しい。


師匠、俺はあなたの弟子になったこと、後悔なんてしていません。
あなたが何も言わずとも、俺は勝手にあなたの背中を追います。
師匠。
いつか、あなたを超えることができたら。
俺は胸を張ってあなたに伝えてもいいでしょうか。


 
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