Novel/Short

04

二人の会話が途切れたのを見計らって素早くお茶を淹れ、テーブルに持っていく。
「お疲れ様です、お茶、いかがですか?」
「ありがとう。いやあ、加川先生を担当してからお茶が出るなんて初めてだなあ」
「俺が茶なんて出すわけねーだろ。飲みたきゃ自分で淹れろ」
「ちょっと篠村くん聞いた?面倒くさがりにも程があると思わない?」
「そうですね…あ、まさか加川さんってご飯作るのも面倒で食べてなかった、とか言います?」
何も言わずにお茶を啜っているところを見ると、図星らしい。そりゃあ外でぶっ倒れもしますよね。
さっき加川さんが行き倒れていたこと、それを拾ってご飯を食べさせたところに引地さんが来たことを引地さんにチクると、引地さんの背後に修羅が見えた。…さて、俺はキッチンへと避難しようか…。

……丸15分は引地さんのお説教タイムが続いていたと思う。俺が新しくお茶を淹れたことをきっかけに、ようやく彼の口は閉ざされた。
「…はあ、これだけ言ってもどうせ先生は俺の言うことなんて聞いてくれないんでしょうね…」
「少しは心がけることにしてやる」
ソファにふんぞり返る加川さんを冷たい目で見た引地さんは、こちらに視線を移す。
「あ、そうだ。篠村くん、もしよかったら、時々でいいからこの人の様子見に来てくれないかな?お給料出すから、先生が」
「え!?」
「おい待て引地」
「だって、ほっといたらまた倒れかねないでしょ。心配じゃないですか。それに俺の責任問題になったら嫌ですし」
「お前、それが本音だろ…」
そう言って眉根を寄せる加川さんだったが、しばらくして勝手にしろ、とリビングを出て行ってしまった。

加川さんの後姿を見送った引地さんは、ゆるりと溜め息を吐く。
「先生、なかなか他人を信用しないんだ。俺なんかいつまで経っても新人編集扱いで…。だからね、なりゆきとはいえ、初対面でここまであの人に頼りにされてるきみの言うことなら聞いてくれるんじゃないかと思う」
すっかりぬるくなったお茶に付けた口が、湯呑の向こうで柔らかな弧を描くのが見えた。
「俺があの人の心配をしているのは本当だから、よかったら考えてみてくれないかな」
「…俺ももうバイトしてますし、学校もあります」
「うん、暇なときだけでいい」
「でも」
「もし、その気になったら俺に連絡して?一週間経っても連絡来なかったら諦めるから」

そうやってテーブルの上に差し出された名刺に、恐る恐る触れる。
先生によろしくと笑って去って行った引地さんの名前が印字されたそれを破り捨てるわけにもいかず、俺はそっとその小さな紙片を財布のカード入れに収めた。


 
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