Novel/Short

06

窓の向こうで車が走る音と時計の秒針が進む音、それから俺と聡太の息遣いだけが耳に伝わってくる。
「…ねえ、賢吾さん」
つむじが消え、視界いっぱいに片山の綺麗な顔と、それにつり合わない腫れぼったい目が入り込む。
「やっぱり俺、貴方が好き」
「…そうか」
「できるなら、貴方にも俺を好きになってほしいよ」
「ああ」
「受け入れて…離さないで。俺も、絶対貴方の傍から離れないから」
「…わかったよ、聡太」

聡太との二度目のキスは、とても穏やかだった。



「……っ!」
「大丈夫…?痛くない?」
「だい、じょうぶ…」
ここまでの約四十年、色々なことを勉強してきた。それでも、著しく俺に欠けていた知識があることを初めて知った。
恋情やその類の感情と…性に関する事象についてだ。
「賢吾さん…?」
「いい、大丈夫だから…っ」
聡太の額から汗が流れ落ち、顎を伝って俺の腹の上に落ちるのが見える。そんなことすらも経験のない俺にとっては視覚上の刺激となって体を震わせた。既に体中をこれでもかとまさぐられ性感を引きずり出されていて、まるで溶けてしまいそうだと靄のかかった思考で思い浮かべる。
「う、あ…!」
「ん……」
頭上の火照り紅潮した頬に手を伸ばす。そのまま引き寄せると聡太の胸が俺の腹と触れ合った。汗と精液に濡れたそこはぬるりと滑り、思わず体が跳ねる。聡太も快感を耐えるように眉を寄せていて、ああ、ちゃんと興奮しているんだと安心した。
「聡太、気持ちいい…か?」
「うん…夢みたい。ずっと貴方に触れたかったから…」
「そう、か」
柔らかい髪が肌の上を滑る。
「好きだよ、賢吾さん…」



動けなくなった俺の代わりに全ての後始末をしてくれた聡太が俺の隣に潜り込む。指先に触れる体は若くしなやかで、俺の隣に立つには明らかにつり合いが取れていない。それでも、俺はこの青年を手放すことができない…したくない。
「…聡太、」
「何…?」
ぼんやりとした声。おそらくもう意識の半分以上が眠りにつこうとしているのだろう。
聞こえてなくてもいい、それでも今、聡太に伝えたい。
「きっと…近いうちに、俺はお前を好きになる。もう少しだけ、待っててくれ」
好き。この感情はこれまでの俺には欠如していた。それを教えてくれたのは、紛れもなくこの青年だ。
本当は既に俺は聡太を好いているのだろう。浮足立ったような、それでいてとても満たされた気持ち…こんな感情を持ったのは初めてで、これを好き、と言わなければ何だと言うのだろうか。
そっと顔を覗き込むと、完全に瞼は閉ざされていた。少し不規則な寝息が聞こえてくる。こんな些細なことでもより一層心が満たされていく…。

「おやすみ…聡太」

好きだよ。


 
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