Novel/Short

04

「…賢吾さん…?」
こげ茶色の瞳が覗いて、俺を見上げる。
「悪い、起こしたか」
「ううん、貴方が戻って来るの待ちながらうとうとしてた。お仕事お疲れ様です」
「ああ、ありがとう」
ふにゃりと笑う片山の髪を撫でて立ち上がろうとすると、その手を握られた。
何だ、まだ何か用事があるのか?そう思って片山の顔を見ようとした時、ぐっと手を引かれてバランスを崩し布団に突っ込みかけたところで、どうにか右手をついて体を支える。
「聡太…!」
顔を上げると、上半身を起こした片山の顔が、目の前にあった。

「…っ!」
唇に何かが触れる。認めたくなかったが、それは片山の唇であることに間違いなくて、驚きの余り心臓発作を起こしそうになっている自分の他に、冷静にこの事態を受け止めようとしている自分がいて、ああ、キスされているんだな、と頭の隅で理解した。
しばらくして片山の唇が離れていく。その表情は何故か少し寂しそうだった。
「…ごめんなさい。我慢できなくて…」
「お前、何を…」
「俺ね、貴方が好きなんだ。あの頃から、ずっと…」
ふいっと視線を逸らされて、片山の顔が見えなくなる。
「貴方は、俺をあの頃の子供がでかくなっただけだと…子供がじゃれてきてるだけだと思ってるかもしれない。でも、」
「俺は…俺は、他人の感情を読み取るのが何よりも苦手だ。お前の心なんかこれっぽっちもわからない」
思わず片山の言葉を遮ってそう言い切ると、片山が項垂れるのが見えた。その肩を掴んで、無理矢理向かい合わせる。
「でも、知りたいとは思う。お前は何でここまで俺を追いかけてきて、キスをした?何故そこまでしたのに目を逸らす?俺はまだ、何も言ってないだろう!」
俺の話も聞かないうちから、片山が自分の感情を諦めている…そんな気がした。
感情を素直に出せる片山の人柄…それは俺にとって好ましいものだった。それなのに、その自分の良さを否定するような彼の姿に何だかとてもイライラして、俺は苛立ちのままに声を張り上げていた。

合わせた目が一瞬大きく見開かれ、瞳が歪む。直後、ボロボロと零れ落ちる涙。
泣かせたのは俺なのに…俺は何も言えない。

「…なら、」
絞り出すような、掠れた声が耳に届く。
「俺は、貴方を好きでいてもいいんですか」


 
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