Novel/Short

01

俺は所謂仕事人間ってやつらしい。
確かに、仕事は好きだ。頑張れば頑張るほど結果が付いてきて、それが目に見える。同じ理由で昔から勉強も好きだったし、体を鍛えることも嫌いじゃなかった。
だからこそ、目に見えない『他人の感情』ってやつには死ぬほど疎くて、四十路も目前にして独身…それどころか今まで付き合ってきた恋人の数なんて、片手も埋まらない。
最近では、時々上司や取引先の偉い人が冗談交じりに見合い話を持ってきたりして、それが軽いプレッシャーになっている。

「…はあ」
会社からの帰り道、ネクタイを少し緩めながら溜息を吐く。今日も一日仕事をやり遂げたという小さな達成感が心地いい疲れとなって全身を巡っていた。今日は比較的早く帰路についたはずだったが、辺りはすっかり暗くなっていて、ポツポツと立っている街灯と周りの家々の窓から漏れる蛍光灯の光がかろうじて路地を照らしている。
革靴がアスファルトを叩く硬い音を聞きながら、ゆっくりした歩みで3LDKのマンションの一室…と言ってもベッドルームの他はただの物置になっているが…へ向かう。
マンションの前に辿り着くと、見覚えのない若い男のシルエットが立ちすくんでいた。
誰だ?新しく引っ越してきた奴か…誰かの家を訪ねて来たのか…?
離れた場所から横目で男を見つつ、傍らを通り過ぎ…ようとして、腕を掴まれた。
「…何だ?不審者か?早く腕を放してここから立ち去らないと警察呼ぶぞ」
振り返って男の顔を見ると、それはそれは大層な男前だった。こんな不審者紛いのことをせずに女の所にでも行けばいいのに。
そう思って顔をしかめると、男は整った顔を緩ませた。そして、これまた形のいい唇を開く。

「瀧野さん…!」

…何でそこで俺の名前が出るんだ?

「覚えてないんですか…?俺、片山聡太です」
俺の疑問を読み取ったらしく、心底悲しそうに眉をハの字にする片山を眺め、俺は脳をフル回転させる。どう見ても片山はせいぜい二十歳そこそこだろう。俺にこんな年下の知り合いなんていただろうか。
「…こんな所で立ち話をしていたら近所迷惑になる。とりあえずウチに行くぞ」
「はい!」
嬉しそうに破顔した男を連れてマンションのエントランスに入る。エレベーターのボタンを押して待っている間、話はしなかったものの、片山は落ち着かない様子でこちらをちらちらと見ていた。何だか構ってほしくて飼い主の足元にすり寄る子犬のようで面白かったから、わざと気付かないフリをしてやった。


 
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