Novel/Long

06

筑紫の家は瑞樹の自宅まで電車で三駅ほどの近場であった。
真っ直ぐ家に帰ると迷わず床の上に寝転がり、ぼんやりとシミのある黄色い天井を見上げる。気絶させられていたからか、妙に体が重い。殴られた頬も腫れて熱を持っていた。
「チクショウあの野郎、明日会ったらぶん殴ってやる…」
ふん、と鼻を鳴らし、仕事の始まる夕方まで眠ろうと目を閉じる。

一時間ほど眠っただろうか。瑞樹は玄関から聞こえるチャイム音と扉を叩く音で無理矢理起こされた。
「うるせーな、誰だよ…」
どちらさんですか、と扉を開ける。
「ミズー!会いたかったー!」
飛び込んできた頭が瑞樹の鼻にヒットした。あんまり綺麗にジャストミートするものだから、思わず自分の鼻に触って鼻血の有無を確認してしまう。
「…何すんだよ、孝之…」
「ご、ごめん…。瑞樹に会えると思ったらテンション上がっちゃって…」
そう言って、目の前の男が頬を掻いた。

あまり体格には恵まれなかったらしいこの男…後藤孝之は瑞樹の幼馴染だ。優しい性分で他人が鼻血を出しているのを見るだけで顔を真っ青にするほどのこの男が、何故瑞樹とつるもうとするのか…。瑞樹にとっての最大の謎である。
二十歳もとうに過ぎてフリーターをしている瑞樹とは対照的に、彼は大学を出てそこそこ名の知れた会社で働いているらしい。
「あれ…お前、会社は?」
「え?今日、日曜だよ?」
「…そうか、そうだったな」
不思議そうにこちらを見上げる孝之を部屋に招き入れる。
「あ、何か飲み物貰ってもいい?」
「麦茶でいいか?」
「うん、ありがとう」
朗らかな笑顔に向かって一つ頷いて台所へ向かう。その思考はさっきまで自分を拘束していた筑紫への疑問で塗りつぶされていた。

『下っ端に顔を見せに行く』という言葉。今日が平日ならそれもおかしくはないが、何故日曜日に出勤するのだろうか。
今日が特別なのか、それとも曜日に捕らわれることのない特殊な職業に就いているからか…。例え後者だとして、昼まで家にいるというのも疑問である。
瑞樹のあまり賢いとは言えない頭ではいい答えを出すことはできず、だんだん考えることも億劫になってくる。
「…ダメだ、知恵熱が出そうだ」
思考を放棄して、目の前のグラスに麦茶を注ぐ作業に集中することにした。


 
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